第79話

 そろそろ午後3時、本日の作業を終わらせる時間である。


 庭に出ると、残り1/4になっている。 肉のパワー恐るべし。

 お願いした店舗予定地の草は綺麗に無くなっていて、地面が見えていた。

 草で隠れていて気付かなかったが、屋敷の前に池?だった様な残骸が出てきていた。

 なるほど、どおりで歩きにくかった訳だw


「凄いペースですね。これなら、明日には余裕ですね。 さあ、風呂に入って行って下さい。」

とエンジ達に伝える。

 風呂上りには軽食と飲み物を用意しておくので、キッチンに来るようにと。


 最初はやはり男子組が、10分遅れで女子組もキッチンに合流。

 朝に屋台で買っておいた物を皿に盛り付け、冷やしたミルクを配る。


 勿論、スイート・ボアのお土産分の肉を用意して見せ、安心して食べるように伝える。

 みんな笑顔でお礼を言いつつ、肉串とかを頬張っている。


「一応、この機会に・・・」と話を続ける。


 多分、明日はこちらに来れるけど、明後日ぐらいから、ギルドの依頼で、2~3日出かける事になる。

 暫く直接は指示出来ないけど、宜しくお願いねと。

 何か不測の事や、困った事があれば、オスカーさんかヨーコさんに相談して指示を仰いでね。

 あと、多分美味しい物をお土産に持って行くからと、シスター達にお伝えてね。

 と言う事を言った。


 オスカーさん、ヨーコさんも、

 もし居ない間に、なにか彼らに頼みたい仕事が出来たら、孤児院のナスターシャさんか、セーラさんにお願いしてね。

 条件は今の感じで良いから。 と。


 なんか、全員に寂しそうな顔をされちゃったよ。

「いやいやいや、別に永遠の別れとかじゃないからね? 多分明日はまだ会える筈だし。」

と笑ったよ。


「そうだな、お前らなら、シッカリしてるし、大丈夫だよな! でも気を付けてな!」

とエンジ君がいった。


「うん、ありがとう。まあ美味しいお土産が出来るように、頑張るよ!」

と答えておいた。


 エンジ君達草刈り隊がお肉や何かの手分けして持って、頭を下げて帰っていった。

 で、残った4人で明日からの事や、足りない物資や、確認事項を話して行く。


「森へ行くついでに、ガラスの原材料も採掘するか、迷ってるんだけど、市場に出回ってるものなの?」

と聞くと、


「値段はソコソコ安いのですが、ガラスを作れる工房が、トリスターには無いので、鉱石自体がここには無いのですよ。」

とオスカーさん。


「じゃあ、自力で採掘してくるか。 ちなみに、質問なんだけど、ガラス製のコップや皿って、ここでは見た事が無いんだけど、そういうのは存在しないの?」


「はい、そんな夢物語の様なコップや皿なんてお目に掛かった事がありません。」と今度はヨーコさん。


「じゃあ、商会の商品に加わったら、みんなビックリする? あと、カフェで出すパフェの器とかにも使う予定なんだけどね。」

と言うと、


「「そりゃあ、もうww」」

と2人声を揃えて、ニヤリと笑う。


「あと、他の従業員の件なんだけど、普通はどういう風に募集するものなの? 特に生産側に回る人は信頼出来る人を使いたい。

 確実に奴らは、探りを入れたり、潜入しようとしたり、トラブルを起こして営業妨害したり・・・があると予想してるんだ。最低限でも警備員や護衛的な者も必要だと思う。」

と言う意見に2人とも深く同意してきた。


「奴らが、従業員の家族を人質にして脅迫してくるとかもありそうで怖いんだよね。オープンまでには色々対策考えて準備しないとね。」


「基本的な募集方法だと、商業ギルドに人材の紹介を依頼したり、募集を張り出して貰う感じですね。あとは、借金奴隷を使うと言う方法もあります。」


「なるほど、で、その場合、機密保持契約とかって出来るの?」


「ええ、魔法契約で、機密保持契約を結ぶ事も可能です。」


「一つ考えている事があるんだけど・・・これから日々避難民が増えると思うんだけど、彼らって着の身着のままでやって来てて、多分食事とかも行き渡ってないんじゃないかと思うんだ。

 で、彼らの中には、きっと優秀であったり、有用なスキルを持っている人も混じってるんじゃないかと思っててね。そういう人を雇えれば、安全に住める場所と食事も提供できるし、Win-Winじゃないかと・・・ね。」


 なるほど!と感心するオスカーさんとヨーコさん。


「多分、早々に必要なのは、この屋敷を掃除したり、料理作ってくれたりする、メイドと料理出来る人だよね。お二人はいつでも、ここに越してきて良いよ。まあベッド次第だけどねw

 僕らは多分、依頼から戻って来てからだな・・・。 どう?フェリンシア」

と聞くと、


「ふふふ、私は海渡が行けば、そこに付いていきますので。何処でも大丈夫です。」

とニコリと返してくれた。


 すると、

「あらあら、仲がよろしいですねぇ❤」

とヨーコさんに冷やかされた。


「あと、他に、何か考えたり、用意したり、事前に手配しとくべき事ってあるかな?」

と聞くと、


「店舗もカフェも外側は自作されると言う事でしたが、大工や職人に内装や外装の一部等を作って貰うとした場合、それらの人員の手配と言うか予約が必要かと。

 なので、いつ位から内装とかに着手出来る感じかを教えて頂けると、助かります。」

とオスカーさん。


「うん、御尤もな意見だね。本当は今週中に試作してみて、と思ってたんだけど、今週は明日しかないから、明日、ちょっと試してみて、それ次第で良いかな?」


 やっぱり、やってみないと、判らない部分あるんだよね。 なるべく急ぎます。


「了解しました。」


「まあ、店ない事には先に進めないしね。頑張ります!!」

と言うと、みんな笑ってた。


「じゃあ、もうちょっとだけ、庭で実験したら、帰りますね。皆さんもあまり根を詰めないでくださいね。先は長いですから」

と言って庭に出た。


 やりたい事は、トレントの解体なので、邪魔な草が無くなるのを待っていたのだ。

 一本だして、高速回転するアイスカッターを使って、電動ノコの様に枝を根元から落として行く。

 ふむ、もっと硬いかと思っていたけど、サクサク切れるので、逆に強度的に不安になるな・・・。


 カットした枝類は、ドンドン収納していき、綺麗な1本の丸太になった。

「このトレントで直径約70cmか。ギリ1辺が50cmぐらいの四角い柱は採れるかな?」


 先ずは、水分を分離して、完全乾燥させる。あとで反ったり、割れたりすると、面倒だからね。

 同じ要領で、あと30本ぐらい、乾燥した丸太を作成した。


 さて、角材を作る訳だが、どうやって作るかな3階建てだから、長さは最大で10mあれば余裕なんだが。

 枝をカットした時の様に、歩きながら削ると、直線でないよなぁ・・・


 じゃあ、普通に攻撃する時みたいに、発射する? いやいや、何処まで飛んで行くか判らないから危険だよね。


 元の世界でログハウスを作る動画を見たりして、製材する加工機械とかはしってるんだよな。

 あんな感じのを作れれば良いんだがな。

「ダメ元で、やってみるか。」と呟く海渡。



 取り合えず、土魔法で石のフラットな台座とその横にはめ込み式のレールを作る。


 鉄のインゴットから、高さを可変に出来る移動レールで横に移動できるコの字型のゲートを作る。

 ミスリルのインゴットをつかったノコ刃の薄い円盤を作り、ノコ刃に付いたシャフトをコの字ゲートの上部の穴に差し込んでっと、

 魔法陣は、鋸刃の鋭利強化×2、高速回転、貫通力強化、範囲は鋸刃 期間は開始から停止まで っと。出来た。


 丸太を台座の上に置き、鋸刃の高さを調節し、

「では、早速実験です! 果たしてミスリルの刃が通用するかどうか・・・。起動!」


 鋸刃が高速回転し始め、コの字のゲートをゆっくりおして、丸太にの上面をカットする様にあてる。


「お!! 少し刃が食い込んだな。」

と気を良くして更にゲートを押して行く・・・


「あ・・・ダメだ、これ以上は進まないか。」


 一旦ゲートを開始位置まで戻して刃の回転を停止。そして、敗因を分析中・・・。


「アイスカッターの回転刃はサクサク切れたよな。と言う事は、単純にミスリルの刃がダメって事か・・・」


 そしてミスリルの回転刃をみると、


「あ・・・完全に刃がつぶれてる。なるほど、固さで負けたのか。だから途中から進まなくなったと?」


 まず、ミスリルの刃を修理して、魔法陣を描き替える事にする。

 鋸刃鋭利強化×2、剛性強化、鋭利継続、高速回転、貫通力強化、範囲は鋸刃 期間は開始から停止まで


「よし、今度こそ!」と、再度挑戦。


 回転刃を発動し、ゲートを押していく。さっき途中まで切った所からゲートに少し抵抗を感じるが、今度は前よりサクサクと切れている。

 製材所のように、「キュィーーン」と言う材木を切る様な音が響く。


 そして、最後まで上面のカットに成功!

 丸太を上下180度回転させ、鋸刃の高さを今度は50cmに変更し、また丸い上部をカットしていく。

 今度も成功。丸太は円形から、小判型みたいな形になった。

 鋸刃を目算で丁度角が出来る60cmぐらいに高さ調節し、新たに作った、L型アングルで丸太を丸い部分が上下になるように固定し、カット開始。

 今度は180度回転させ、最後の丸の残り部分を高さ50cmでカット。


「おお!50cm角の角材出来た♪」

 と、成功を喜んで、鼻歌混じりに残り30本のトレント丸太をトレント角材へとバンバン加工していく。


 積み上げられた、トレントの角材を前に、達成感を味わっていると、肩をトントンとつつかれ、振り向くとフェリンシアが、門の方を指さしている。


 ん? と見ると、なんか人だかりが出来ていて、こっちを凝視していた・・・。

 ああ・・・「キュィーーン」って大きな音でてたよね・・・。

 元来、熱中すると、周りの事を忘れてしまいがちな性格の海渡の性格は、異世界でも変わらなかった。


「あ、すみませーーん、お騒がせしました。」

と頭を下げて、屋敷に避難。


「うわぁ~・・・やってしまったー」

と、しゃがみ込んで、頭を抱えて反省中の海渡。


「明日は、両隣の店舗に、挨拶に行っておかないとな・・・。」

と呟いた。


 しかし、この事がきっかけで、海渡はその後、工作機械の魔道具シリーズや、調理器具の魔道具シリーズを、次々に世に送り出す事となる。

 これが、その最初の1ページであった。


 そして30分ぐらい避難して、人だかりも消えた頃、

「さあ、明日に備えて、帰りますか!」

と敷地を後にしたのだった。

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