第72話
セーラは興奮しながら、教会の裏手にある、孤児院の方へと向かっていた。
「ああ、こんな事が起きるなんて、女神ジーナ様、本当にありがとうございます。」
と呟きながら。
「あらあら、セーラ、どうしたの? そんなに嬉しそうにして。」
と問う50代半ばで、いつも温和なシニア・シスターのナスターシャに、
「ナスターシャ様、聞いて下さい! 先ほど礼拝堂でお祈りしていた子供2人いましたよね。あの子なんですが・・・」
と経緯と打診された内容と、寄付の話を順を追って説明する。
内容を聞いたナスターシャも、「まぁ!」と興奮。
すぐに12歳前後の子供達を集め、16人が集まる。
そして、雑草刈りの短期の仕事の話をする・・・と、全員が大喜び。
ここにいる12歳前後の子らは、未だに就職先が見つかっていない子らで、少しでも孤児院の負担が無くなればと、連日仕事を探して回っていた。
普段なら、冒険者の荷物運びや、薬草採取とかにありついたりするのだが、ここ2週間程、城壁外へ出る採取が厳しくなり、仕事が無い状況であった。
なので、この孤児院では、現在1日2食まで減らし、何とか窮状を打開できないかと、色々な大商会へ寄付のお願いをしたり、子供らの就職口を探したりしている所であった。
なので、今回の海渡の提案は、渡りに船、それも、豪華客船クラスの船であった。
ナスターシャも漏れなく、女神ジーナ様へ感謝の言葉を呟く。
早速、海渡の待つ礼拝堂へとナスターシャ、セーラ、そして16人の子供で連なって行く。
「まあ、あなた達がカイトさんとフェリンシアさんね。初めまして、私がこの教会と孤児院の長を務めている、ナスターシャと申します。この度は、大変ご助力頂き、本当にありがとうございます。」
と丁寧に頭を下げる。
「初めまして。私はカイト、こちらはフェリンシアで、既にお聞きと思いますが、冒険者をやっております。たまたま素材を売ったお金が沢山あったので、一部を寄付させて頂きました。
私も(設定上は)両親が魔物に殺され、フェリンシアと2人だけ生き残った状態だったので、こちらの窮状を聞き、他人事とは思えなかっただけです。まあそれに、『金は天下の回り物』と言いますし、気にしないで下さい。あと、こんな年齢ですし、ただの平民ですので、気を使わないでください。」
と事も無げに返す海渡。
「まぁ、本当にシッカリされてますね。本当に驚きました。長年子供達を見て来ていますが、こんなにシッカリしている子は初めてです。外見と声が違えば、大人と話しているようです。」
とナスターシャ。
「で、本題ですが、お聞きの通り、商会を立ち上げる事になりまして、そこでは、魔道具工房であったり、お店であったり、飲食店を行う予定にしてまして、縁あって、領主様より譲っていただいた敷地が、商業街にあります。
長年放置されていた為、敷地内の庭が凄い状況でして、先ほどお伝えしたように、1日5時間で銀貨1枚、もし3日以内に終わったらボーナスで銀貨2枚をプラス。4日の場合は銀貨1枚をプラス。5日の場合は、ボーナスは無しで5日分の銀貨5枚ですが、如何でしょうか?
15人ぐらいと思ってましたが、16人居ますね。じゃあ16人でそのまま同じ条件で。あ、もし雨が降ったら、その日は延期で良いです。風邪でも引くと、大変ですから。」
と海渡が説明。
「まあ、本当に良い条件で・・・ありがとうございます。こちらがその16名です。」
と少年少女を紹介するナスターシャ。
「じゃあ、そちらの中で責任者・・・リーダーとサブリーダーを決めて貰えますかね? 私が常に居る訳ではないので、適当な時間毎に休憩や昼食を取ったりとかの指示を出して貰ったりするので、そういう役目の方を選んでください。」
と海渡が提案。
男の子と、女の子1人ずつが、前に出る。
「俺が、リーダーをやる、エンジだ。歳は12歳。宜しくな!」
「私はリコと言います。歳は12歳です。宜しくお願いします。」
とニコヤカに挨拶する。
12歳だと、体格もソコソコ立派だ(海渡に比べると)
「こちらこそ、宜しくお願いしますね。では、明日から作業をやって頂く感じで良いですかね? あ、あと計算が得意なのは、どちらですかね?」
と聞くとリコが手を上げる。
「じゃあ、リコさんに、お昼ご飯の代金を全員分渡しておきますので、それで昼になったら、何か買って食べて貰えますか? 1食幾らぐらいなんですかね?」
と尋ねると
「大銅貨2枚くらい?」
とリコさん。
「じゃあ、1日32枚×5日で大銅貨160枚だから、銀貨1枚と大銅貨60枚だから、余裕をみて銀貨2枚を渡して置きますね。」
と銀貨2枚をリコに手渡す。
すると、
「すっげーー! 計算早くないか!?」
と称賛の声が出る。
一部では、
「すっげー!昼飯付きかよ!!」
とフェリンシア寄りの声も聞こえた。
「ん? 掛け算って知りませんか?」
とフト疑問に思った海渡が尋ねる。
実は、この世界の計算は、全て足し算と引き算ぐらいしか無かった。
つまり、10個何かを買うと、単純に1個の単価に0を一つ付ければ良いぐらいは判る。9個だと0を1つ付けてその金額から1個分を引くと言うぐらいの工夫はするが、それ止まり。
半端な数の個数を買うとなると、計算に凄く時間が掛かる。その足し算の繰り返しを如何に早く出来るか? が出来る商人とダメな商人の分岐点となるらしい。
『えー、なにそのアバウトな判断基準。日本の小学生3年生がこの世界に来ると、神童って呼ばれるんじゃないか?』と心に思う海渡であった。
「なるほど、理解しました。まだもう少し先の話ですが、私が店を始める時に、スタッフになってくれる方には、簡単な掛け算割り算と言う物をお教えします。
さっきの計算は、掛け算が出来れば、一瞬で出来るようになります。」
と言うと、熱い視線を浴びてしまう海渡だった。
黙ってやり取りを見ていた、ナスターシャだったが、
「カイトさんは、本当に凄いですね。何処でそんな勉強を身につけられたのですか?」
と驚きながら尋ねる。
「はい、勉強や剣術や魔法等は、両親や集落の大人に習いました。」
と(ちょっと両親死んじゃった設定に心苦しくなりながら)答えた。
「あら・・・悲しい事を思い出させちゃったわね。ごめんなさいね。」
と申し訳なさそうな顔をするナスターシャに
「いえ、でも、魔物の襲撃を命を張って守ってくれて、更にフェリンシアと共に生き残る術を残してくれましたので、いつも感謝してます。お陰でトリスターに無事辿り着けましたし、縁あって、良い人にもめぐり逢い、こうして今の自分がありますので。女神ジーナ様と両親や集落のみんなのお陰です。」
と締めくくった。
(いかん、設定が絡んでいるとはいえ、ちょっと臭かったかな・・・まあでも色々感謝してるのは事実だしな)
「あ、草刈りですが、何か道具とか必要ですかね? 足りなければこれから買い出しとか行きますが。」
と聞くと、
「教会の倉庫に、大体あるから、大丈夫ですよ。 それに雑草は抜いた方が間違いないですからね。」
との事。
「じゃあ、明日の9時に敷地の門の鍵を開けて待ってますので、現地に来て下さい。」
と約束し教会を後にした。
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