第59話
「これから本を読みに行くけど、フェリンシアはどうする?」
「うーん、本には興味がないから、ララーと遊んでいようかと思います。」
「そうか、判った。じゃあまた後でね。」
とフェリンシアと別れ、ケージさんを探し、書庫へと案内して貰った。
「こちらにあるのが、この館の蔵書となります。領主様より、どれでも閲覧して良いと聞いております。では、どうぞごゆっくりと御覧ください。」
と部屋から出ていった。
さて、この広い部屋に吹き抜けのちょっとした図書館だな。
「魔法コーナーは何処だろう?」
と独り言を呟きながら、探していると、本だなの裏から、
「何かお探しですか?」
とヌッと眼鏡をかけた綺麗な秘書風のお姉さんが出てきた。
「あ!眼鏡美人キター!!」
と思わず声を上げてしまった。
服装は、この世界では街中でも見た事の無い、日本のOLが来ている様な黒のスリムなスーツにタイトなスリット入りスカート。歳の頃は22歳ぐらいか。
サラサラの薄い青味がかった黒髪は肩の上で切り揃えられ、全体にスリムで、知的な香りのする女性。
何を隠そう、海渡のどストライクである。 日本では、本人が望まないのに、彼女居ない歴を27年死守していた海渡だったが、同年代とかのキャピキャピとして女の子は苦手だった。
どちらかと言うと、俗に言う学級委員タイプの子が好きだった。まあ、告白したり、彼女になって貰ったりと言う機会は皆無だったのだが。
「あら、そんな絶世の美女だなんて、お姉さん本気にしそうですよ?」
と眼鏡を指で押し上げながら、頬を赤く染めるお姉さん。
「しかし、よくこの魔道具をご存知でしたね? 余り出回ってない物なんですが・・・」と。
話を聞くと、眼鏡は見たい本の位置を知る為の、魔道具らしい。
ほう、面白い物を作る人がいるもんだね。
「そんな感じのスーツなんてのも、あったんですね」
と思わず呟くと、
「はい、これは私のオリジナルデザインなんですよ。」
腰に手を置き、慎ましやかな胸を反らせ、ドヤってた。
「凄いですね。最高です!!」
と絶賛しておいた。(←お世辞抜きに)
このお姉さんは、ヨーコさんと言うらしい。覚えておこう。
お姉さんから、魔法関連のコーナーを教えて貰い、更に初級編や入門編の本を何冊か取って貰った。うん、俺には届かないからね・・・。
この書庫には、本を閲覧する為のソファーなんかも置いてあるので、そこに座って本を読む。
そしてそこに書いてあった事は、海渡が学習した女神ジーナ著の『魔法の手引き』とは異なる内容だった。
最初の2ページ(『魔力感知』と『魔力操作』)までは、まあ違和感があるものの、一応は要をなしている。
だが、それ以降はハッキリ言って使い物にならない。長々と書いてあるが、結局は詠唱に対するご高説であって、着眼点がまるっきり違う事が判明した。
先ほど、訓練所で、数人がヒョロいファイヤーボールを撃っていたが、ほぼ個人差が無く、漏れなくヒョロい威力だった訳はこの詠唱と着眼点のせいだったようだ。
まあ、よくある話ではあるが、詠唱は単純に魔法のイメージをし易くする為に、色付けされたような物で、明確なイメージが出来るのであれば、全く必要が無い。
海渡が簡単にイメージ出来るのは、現代科学であったり化学であったり、はたまたアニメであったり・・・と、変化の過程(化学反応等)や近代兵器を含む明確なイメージが、ある事が大きい。
そんな海渡にとっては、女神ジーナ著の『魔法の手引き』は、実に的確だったという訳だ。だからこそ、あの『絶海の森』を生き残れたと言う事が判った。
もし、今読んだような『今日から魔法使い ゴブリンでも判る魔法初級編』や『魔法書 初級編』等の本しかなかったら、確実に結界が消えた段階で詰んでただろう。
「なるほど、これがこの世界の魔法か。ははは・・・女神様に本当に感謝感謝だな・・・」
と小さく呟いた。
本を返し、今度は魔法の歴史や世界の歴史に相当する本を出して貰った。
魔法の歴史を書いた本には、200年程前に魔法革命の様な事があり、それまで、極々少数しか魔法を使える者が居なかったのだが、詠唱文化が根付き、それによって魔力を多く持つ者が(イメージに関係なく)、詠唱によって魔法を発動出来るようになったという事だった。
まあよくある設定だな。
なので、詠唱を独自に工夫し、威力を上げたりする事が、現在は主流となっている・・・と言う内容だ。
詠唱を広めた2人の発案者は、それぞれの国の貴族となり、詠唱魔法の第一人者として代々影響力を持っているとの事。
ワンスロット王国はドラーツ公爵家、ゲルハルト帝国はダイルニッヒ伯爵家・・・と言う事らしい。
「あぶねぇ~。これ下手に俺の魔法広めちゃうと、この2つに真っ向から喧嘩売る感じじゃないか?」
と思わず呟く。
あるよね~、こういう既得権益を、知らぬうちに害して、思いっきり狙われるって話。
無知故に、知らずに地雷を踏み抜くなんて事が無いようにしたいものだ。今後の平穏な異世界ライフの為にもね。
それとなくドラーツ公爵家とダイルニッヒ伯爵家の情報を探ってみるか。
さて、この世界の歴史書だが、歴史が残ってるのはここ400年ぐらい。
それまでは、人口も今の半分以下で、ある時、『絶海の森』から大規模の魔物の氾濫が起き、それに対抗すべく、集落が集まってやがてその中から、英雄と呼ばれる者が出て来て、組織した最初の防衛軍を指揮し、魔物の氾濫を抑え、ワンスロット王国を建国した。
またその時の参謀が建国時に離反して、ゲルハルト帝国を建国したらしい。
ワンスロット王国は、調和と友和で徐々に周りの小国や集落を併合し、現在の大国となった。
一方、ゲルハルト帝国はと言うと、難癖とも言える言い掛かりを理由に、恫喝や乗っ取りや侵略戦争で、完全にチンピラとマルチ商法の手口で支配網を広げていた。
まず、1つの国に対し、チンピラ的な言い掛かりで、全面降伏による属国(重要度によっては直接支配)、抵抗する場合は、だまし討ちや、内部工作で混乱している所を、完全蹂躙。
その場合、全国民は奴隷に堕とされて、悲惨な末路となる。属国や支配下になった国には、ノルマを与え、2か国以上を堕とすようにと言われる。
それが出来なかったら、やはり国民は奴隷墜ち。(これは当時は集落に毛の生えた程度の小国?が多かったかららしいが。)
それで建国僅か30年で大国となったらしい。
現在では周りに小国が無くなり、直接コーデリア王国やワンスロット王国と国境線辺りで小競り合いを繰り返す感じの膠着状態らしい。
4~5年に1度は、必ず大規模な攻撃を仕掛けて来るとも書いてあった。
コーデリア王国はおそらく、この大陸で一番古い国で、建国して620年(この本が書かれた当時で)と言われているらしい。
『絶海の森』の北側に位置するこの国は農耕の可能な国土の半分と、鉱山資源は豊富だが、農耕不可能な極寒の山間部で構成されており、人族、エルフ、ドワーフ、獣人族等の多種族で構成されている。
種別による差別は無いが、お互いの特性を生かし、尊重しあって生活圏を区別している。
コーデリア王国の王族はエルフ族らしい。(だからと言って、エルフだけが優遇される事は無いらしい)
サルド共和国は、『絶海の森』の西側に位置しており、サンバル王国を名乗り出したのは、ここ200年程。
獣人がメインの国で、少数であるが人族や他の種族も住んでいる。
獣人がメインな国だけに、御多分に漏れず、強者こそ正義 で、代々の王は、最強で就任する。
ここ2代は、虎の獣人が王様らしい。(この本が書かれた当時で)
政治にはあまり興味が無いらしく、割と適当な国 と本当に本にそのまま書いてあったwww
と言う事で、ゲルハルト帝国はヤバいって事が良く判った。
別の本でも同じ内容だったので、ヤバいって事は間違いないだろう。
まあ、これらの情報が正しいとすれば、このワンスロット王国側へやってきたのは、大正解だと言えるだろう。
(確かに北側のエルフとかも魅力的だけど)
この国で一番要注意なのは、取り合えずドラーツ公爵家だな。
ヨーコさんに、本を返してお礼を言い、部屋を後にした。
心の中で、また(建前:本を読みに来よう)ヨーコさんに会いに来ようと思いつつ・・・。
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