第60話
部屋に戻って、メモ帳に判った事を、整理しながら書き留めて行く。
書き終えた物を読み返し、漏れが無い事を確認する。
そして幾つか、聞きたい事をリストアップする。
・この国は人族だけなのか?(ドワーフの人は居るのを見たけど)
また人種差別は?
・この国には奴隷制度はあるのか? また他の国はどうか?
・魔道具を作って売るには、何か登録したり申請が必要なのか?
・店や食堂を開くには、何か登録したり申請が必要なのか?
・住宅を購入するのはどうすればいいか?
・この国の成人年齢は?
・この国の法律は? 特に刑法的な物とか、不敬罪的な物を知りたい。
こんな感じかな・・・誰に聞こうか?ケージさんに聞けば良いかな?
昼食に呼ばれ、食堂に行く。
ケージさんを発見し、
「あとで少し質問の時間を下さい」
とお願いすると、
「では、昼食後に」
と快諾され、宜しくお願いしますと頭を下げる。
アルマーさんも最後に席に着き、昼食が始まる。
「ところで、毎回食事の時にカイト君が言ってるその『いただきます』と言うのは何の意味があるんだね?」
とアルマーさんから尋ねられた。
「ああ、それですか。これは両親より教えられた事(まあ間違ってはいない)で、食事を作った人への感謝もありますが、食べる事は他の命を頂く事で、それによって自分の命を明日へと繋ぐ事 と言う事で、命をありがとう。と言う感謝の気持ちです。」
「なるほど、そういう意味が込められていたのか。なかなか凄い事だな。」
と感心するアルマーさん。
「はい。
特に自分で魔物を倒して、食料を得るようになって、更にそれを実感しました。
最初に倒したオークには本当に感謝しましたし。」
そう、日本に居る頃は、勿論習慣として「いただきます」「ご馳走様でした」は言っていたが、こちらの世界で自分で食材を狩り、余計にそれを実感したのだった。
「話は変わるが、食後にちょっと時間貰えるかな?」
とアルマーさんから尋ねられた。
「アルマー様にもお聞きたい事もあるので、ケージさん、後に時間ズラして貰って良いでしょうか?」
と給仕中のケージさんに聞くと、
「ええ勿論、領主様を優先してください」
と言われた。
一方、隣のフェリンシアは、嬉しそうに黙々と料理をフォークとナイフを使って食べていた。上手く使えるようになったね。
食後、書斎へと場所を移し、アルマーさんとお話しを始める。
「度々すまんな。先ほどの魔法の件なのだが・・・」
「はい。あれから蔵書庫の方で、こちらの魔法に関する物を読ませて頂き、色々前提が違う事を把握しました。」
「うむ。それなら話が早いな。」
「で、アルマー様にお聞きしたいと思ったのは、ドラーツ公爵家の事なんですが・・・」
「ほう、もうそこまで調べたのか。」
「はい、多分、私の魔法はドラーツ公爵家の立場を脅かす可能性があるかと思いまして、現在のドラーツ公爵家の立場や権力関係とか、当主様のお人柄とかを知りたいと思いました。」
「相変わらず、君は賢いな。私の話もそれだったのだよ。
まず、ドラーツ公爵は、代々この王国の魔法師団の団長と、宮廷魔法長官を兼任している。つまりこの国の魔法に関するトップと言う事だ。
ドラーツ公爵様のお人柄だが・・・」
とここで言い淀み、一拍置いて、
「非常に権力や利益に煩い方でな・・・、色々と黒い噂もある人物なんだよ。
先代は素晴らしい人物だったのだがなぁ・・・」
と、苦虫を潰したような顔をして言った。
ああ・・・これ一番嫌なパターン決定だな。
「なるほど、一番知りたかった情報です。言いにくい事を教えて下さり、ありがとうございます。つまり、その人物に下手に目を付けられると、この先マズイ事とか面倒臭い事になると言う訳ですね。」
と海渡が言うと、
「王都には、魔法学院と言う王立の学校があるのだが、そこの学長も代々ドラーツ公爵家の者が独占しておる。
魔道具に関してもドラーツ公爵家の子飼いの商会が国内の80%ぐらいを独占しているんだよ。
先ほどの『黒い噂』と言うのは、この商会を通してかなり悪どい取引や、殆ど違法な手段で他を潰したりしていると噂があるのだが、なかなか尻尾が掴めず、王様も頭を痛めているのだよ。」
とぶっちゃけるアルマーさん。
思わず、頭の中に、水〇黄門に出て来る「お代官と越〇屋」のお主も悪よのぉ~の図が浮かんじゃったよ。
「あと、一番問題なのは、あくまで噂なのだが、ゲルハルト帝国のダイルニッヒ伯爵家とも裏で繋がっていると言う話があってね、こちら側で改良した詠唱や、魔道兵器魔道具の情報を流しているとの疑いもある。」
わぁ~思った以上に真っ黒じゃないですか。
「魔道具もとかって、何か私のやりたい事をやると、必ず何処かで揉める将来しか見えないですね。いっそ潰してしまいましょうよ!」
と本音が出ちゃった。
アルマーさんも苦笑い。
「世界の歴史や情勢の本を読む限りだと、ゲルハルト帝国ってかなり危険な国ですよね。そこへ情報を流すとか、売国行為じゃないですか。
いっそサクッとゲルハルト帝国と一緒に潰してしまえば良いのに。何なら協力しましょうか?」
と聞いてみた。
すると、アルマーさんがパァーっと明るい笑顔を向けて来て、
「カイト君、その協力ってのは本当か?」
と凄く食いついて来た。
「はい。後でケージさんにお聞きする内容にあったんですが、魔道具とかの製造販売もやりたいと思ってまして、そうすると確実にドラーツ公爵家とは衝突しますよね? 最初はあまり表に出ず、穏便に出来れば良いなと思ってたのですが、ドラーツ公爵家の話を聞いたら、確実に火の粉が飛んで来そうなので、だったら潰す方が面倒が無いかなと。
いっその事、奴らの既得権益を全部根こそぎ奪ってやりませんか?」
と黒い笑みを浮かべる海渡。
「はっはっはっは!!! 面白い。 実に面白い!! よし、海渡君、今度一緒に王都まで行ってくれ。是非君を王様へと紹介したい。」
とアルマーさん。
「ところで、この大陸の地図ってありますか? ここから王都ってどれくらいの距離があるんでしょうか?」
とこちらの世界に来てからの疑問を聞いてみた。
「ちょっと地図を持って来るので、待っててくれ」
と、アルマーさんが、書斎の横の部屋の鍵を開け、地図の筒を持ってきた。
テーブルの上に広げ、
「一応、軍事機密に相当する地図だ。本来は見せてはダメな物なのだが、君には良いだろう・・・。」
と見せてくれた。
まあ、予想はしていたけど、GPSに慣れた現代の地図とは比べ物にならないレベルの物(絵本の挿絵レベル)だが、大体の位置関係が判った。
「この黒い部分が、私の居た『絶界の森』ですね。北が上とすると、トリスターはここですね。」
「そう、そして王都はここだ。ここからだと、馬車で10日早馬で7日。伝書バトで3~4日だな。」
「なるほど、結構な時間が掛かるのですね。交通手段は、馬車の陸路のみですか?」
と聞いてみた。
「ああ、川があれば船とかの手段もあるだろうが、ここから王都に続く川は無いからな。基本的に馬車がメインとなる。それはこの国だけではなく、何処の国も同じだな。」
なるほど、鉄道や空路はまだないのか・・・。
「ちょっと面白い事を思いついたのですが、出来るかは判らないですが、ちょっとこれを見て貰えますか?」
と、後ろを向いて、隠れるようにアイテムボックスからノートを出し、1ページ破った。
「何だ、この綺麗な紙は!?」
とアルマーさんは紙の方に注目していたが、やりたい事はそっちではない。
「まあ、見ていて下さい。」
と紙を折っていき、紙飛行機を作る。
不思議な顔をするアルマーさんを横目に、羽の部分を調節し、紙飛行機を飛ばした。
「おおおおおお!!! 飛んだ!?」
と驚愕の表情をするアルマーさん。
「これは魔法なのか?」
にじり寄って来る。
「いえ、これは魔法は一切使ってません。 アルマー様も飛ばしてみますか?」
と紙飛行機を拾い手渡すと、
子供の様な笑顔で
「良いのか? こういう感じで良いのか?」
と何回か飛ばす動作を見せてくる。
「ええ、そんな感じで軽くやってみてください。」
と答えると、紙飛行機を控えめに飛ばした。
「おお!飛んだ飛んだ!!!」
と少年のように喜ぶ。
数回飛ばしては、拾い、飛ばしては、拾いを繰り返し、やっと平常に戻るアルマーさん。
「で、これは飛ぶのが判ったが、この紙で出来た物を売りに出すのか?」
と聞くアルマーさん。
「いえ、そうではなく、王都まで陸路だと約7~10日掛かるという事でした。多分、道は完全な直線ではなく、地形に沿った物で迂回したり、登り下りがあり、道もそんなに良くは無いのではないかと思います。
しかし、陸路ではなく空路だったらどうでしょうか? もし上手く行けば、1日~2日程度で王都に着くんじゃないかと思いました。
まだ成功するかはわからないですが、もしこれ 飛行機 と言いますが、飛行機が出来れば、人の運搬だけでなく、物資の運搬も可能となります。
これを、作って王都に乗り着ければ、ドラーツ公爵家には、かなりのインパクトとダメージ与えられませんか?
しかも飛行機の製造販売は、ここトリスターでのみとすれば・・・」
と、どうですか? と黒い笑みを浮かべる悪い5歳児。
アルマーさんは、雷に打たれた様な顔をして、
「それは凄い。もしそうなったら、物流が変わる。物の価値も変わる。更にカイト君の魔法を広めれば、王様もドラーツ公爵家を切る踏ん切りがつくな。」
と、後半思慮深く頷いた。
「とは言え、飛行機が飛ぶ理論的な事は判ってますが、これを実際に人が乗れるサイズの物とするのには、それなりに時間や開発場所や実験も必要になります。しかも私はまだ5歳ですから、色々な意味で、もう少し時間が欲しいと思ってます。」
と、身体的なサイズも含め時間が欲しい事を説明した。
「うむ。まあ今日思いついて、明日には実行可能等は思わないから、これから色々話し合って煮詰めて行こう・・・隠密になwww」
と嬉しそうに、肩をバシバシ叩いてきた。
「まあ、こうなってしまうと、今更な質問も含まれているのですが、ケージさんへ聞こうと思っていたのは・・・」
と質問事項をアルマーさんに聞いてみた。
・この国は人族だけなのか?(ドワーフの人は居るのを見たけど)
また人種差別は?
→人族が最も多いが、エルフ、ドワーフ、獣人も住んでいる。
基本この国では、人種による差別は無い。
だが、一部の悪い奴がエルフや獣人を攫ったりして、他の国へ売り飛ばす
犯罪もある。
・この国には奴隷制度はあるのか? また他の国はどうか?
→この国では、犯罪奴隷と借金奴隷があるが、犯罪奴隷を所持出来るのは、
貴族だけとなる。借金奴隷は一般でも持つ事が出来るが、性的な物や無茶な
扱いは法律で禁止されている。
借金奴隷は、期間雇用の様な制度で、借金分を働き終えると解放となるらし
い。奴隷とつくが、期間雇用者の前払いみたいな制度らしい。
・魔道具を作って売るには、何か登録したり申請が必要なのか?
→魔道具ギルドに登録が必要。年齢制限は無い。作る魔道具の特許を取り、
申請から5年間保護される。
但し、魔道具ギルドはかなりドラーツ公爵家の息が掛かってる。
・店や食堂を開くには、何か登録したり申請が必要なのか?
→店や商会を始める際には、商業ギルトへの登録が必要。年齢制限は無い。
・住宅を購入するのはどうすればいいか?
→不動産屋があるので、そこで探すか、店舗等は商業ギルドでも取り扱いが
ある。
・この国の成人年齢は?
→15歳で成人(扱い)となる。
但し、平民は12~13歳で親元を離れ、働く子もいる。
・この国の法律は? 特に刑法的な物とか、不敬罪的な物を知りたい。
→不敬罪は存在する。王族や貴族への無礼な態度は不敬罪が「適用出来る」
刑法的な物は簡素だがある。
窃盗、詐欺等、誘拐、殺傷、強姦、国家反逆罪等がある。
但し、盗賊の撃退等や自分や他者を守る為の正当防衛は無罪。
生かしておくと、後々碌な事が無いから、積極的にやってOKとの事。
最後に追加で、ドラーツ公爵家が絡んでいる魔道具や、商売等のリスト、領地があるのであれば、その領地の特産品を含む詳細をお願いしておいた。
「『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』って言いますからね」
と黒い笑みを浮かべながら、呟く海渡であった。
アルマーは、『こいつは絶対に敵に回しちゃダメな奴だな』と同じ側である事にホッとするのであった。
書斎を出て、ケージさんに
「すみません、アルマー様との話で聞きたい事が解決しちゃいました。」
と頭を下げた。
「そうですか、それは何よりでした。」
ほほ笑みながら返してくれた。
そして、料理長の待つキッチンへと向かうのであった。
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