第37話


 異世界13日目。

 日の出前に目が覚め、フェリンシアの包囲から抜け出し、朝食を準備。


 朝からガッツリ派のフェリンシアのステーキを焼きつつ、自分用に昨日採取したマギ・マッシュ入りの雑炊を作ると、その匂いに釣られ、


「おはようございます。」

と人化したままのフェリンシアがテントから出てくる。


「おはよう! もうすぐ朝ごはん出来上がるよ。」

と海渡が言うと、


「そっちの鍋は何作ってるの? 何か嗅いだ事ない匂いですね。」

とフェリンシアの興味の対象は雑炊にロックオンしているらしい。


「こっちは、お米を入れた雑炊って言う元の世界の食べ物だよ。スープに俺が食べてるお米が入ってるんだよ。」

と説明すると、食べてみたいらしい。


「よし、こんな感じかな。じゃあ、朝ごはんにしよう。」


 お皿にカットしたステーキを出して、その横に雑炊を少し入れた器とスプーンを置く。


「雑炊、熱いから気を付けてね。」

と注意を促しつつ、自分の雑炊も茶碗に入れて、手を合わせて「いただきます」


 湯気の登る雑炊を、スプーンで掬って、フーフーと冷ましながら、一口。


「おーー!!!これは美味い! マギ・マッシュの良い香りと出汁が効いてるよ。」

と朝からテンションの上がる海渡。


 マギ・マッシュってシイタケの2倍ぐらい、良い味が出るみたい。


 フェリンシアも真似をして、スプーンで掬って、フーフーと冷ましながら、恐る恐る一口。


「あ!何これ、美味しい!!!!」

とステーキそっちのけで、雑炊大絶賛。


「気に入ったなら、お替りもあるから、遠慮なくね。」


「うん、ありがとう!」と満面の笑み。 いやぁ~朝から美少女の笑顔のある食卓って素晴らしいですね。


 お試し分をあっと言う間に空にして、すぐにお替わりをガッツくフェリンシア。

 結局、多めに作った雑炊も、お取り置きに回す事なく完食。

 

 このペースだと、お米が無くなるの早くなりそうだな・・・。

 町に行ったら、早々にお米の入手方法探さないとな・・・と心に誓う。

 

 食事が終わり、片付けも終わって、テントもお風呂も収納し、フェリンシアも人化を解き、そろそろ出発の時間となる。

 完全に日の出は終わって、さわやかな朝の森。


 正に出発しようとした時、マップに赤い点が数個現れる。

 ん? 空を飛ぶ魔物?


 確認すると、

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 種別:フォレスト・ビー

 Lv:42

 説明:蜂の昆虫系魔物。

   性格は比較的好戦的。

   他の小型の魔物や動物を食べ、花の蜜や果物の果汁からハチミツを巣に作

   る。お尻には毒針を持ち、針を飛ばしたりする事も出来る。

   針は飛ばしても、何本でも生えて来る。

   毒は麻痺毒で麻痺した獲物は幼虫用に巣に持って帰る。

   1匹が攻撃を受けると、仲間を呼ばれ集団で攻撃してくるので、注意が必要。

   肉が美味しく、良い金額で取引される。特に希少とされるマンゴーを食べて

   育った個体の肉は非常に美味しく、希少とされ高値で取引される。

   但し滅多に出回る事はほぼ無い。

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「あ、ハチミツが来る!」

と思わず叫ぶと、


 フェリンシアが

「あ、ハチミツ来ますか!?」

を嬉し気に返す。


「よし、ちょっと出発は中止して、フォレスト・ビーを追って、巣を探そう! フェリンシアは気配とか消せる?」


「はい、狩りの時に隠密スキル使うので。」


「良かった。じゃあ、こっちに向かって来てるから、ちょっと離れて隠れて監視しよう。」


 2人で隠密スキルを使い、木の陰に隠れる。


 フォレスト・ビーが3匹視界に入る・・・デカイ!


 犬ぐらいの巨大なミツバチがブンブン羽音を鳴らしながらやって来て、木に残ってるマンゴーを千切って行く。


『フェリンシア、フォレスト・ビーって結構デカイね。』


『そうですか? 寧ろあのサイズしか知らないですが。』


『元の世界の蜂って、みんな結構小さいんだよ。色んな種類いるけど、毒針に刺されて死ぬ人も居るけど、でもスズメバチって言う獰猛な種類はデカくても指のサイズだよ。』


『確かに、それに比べれば、デカイですね。 あ、巣に戻って行くようです。』


 伝心を止め、そのまま静かに追っていく。

 すると、マップの進行方向の広域に、赤い点が沢山出てきた。近づくにつれ、赤い点が収束していく所がある。


『ふむ、おそらく、ここが奴らの巣だな。ここから700m先に、奴らが集まっている場所がある。』


『ところで、どうやってハチミツ盗ります?』


『蜂を殺しちゃうと、次にハチミツ取れなくなるし、出来ればまた収穫したいから、出来るだけ殺さないようにしたいと思うんだよね。』


『なるほど、定期的にハチミツを補充するってのも魅力ですね』


『ちょっと考えがあるから、とにかくどんな形状か、巣をこの目で見てみたいんだよね』


『判りました。あ、おそらくあれですね。』


 巨大な蟻塚の様な土を固めた割と大きな半球上の物が見えて来る。

 こっちから見る限り、入り口は真ん中より下側の陰になった所に2か所見える。


『あんな感じです。中には、卵を産む、フォレスト・ビー・クィーンが1匹居ます。』


『試した事は無いけど、巣の中の蜂を全部眠らせようと思うんだ。元の世界では、煙とか使って巣からハチミツを取り出したりするんだけど、それが出来そうに無いサイズだしね。

 で、作戦としては、俺が巣の中の蜂を眠らせている間、外の蜂はフェリンシアにお願いして、攻撃されないように、援護して欲しいんだ。』

と極力蜂に被害が出ない方法を提示する。


『了解しました。外の蜂を殺さないのは無理ですけど、攻撃されないように、援護しますね。』


『じゃあ、始めるね』


 両手を前に出し、魔力を練って、風魔法と闇魔法を使って、睡眠ガスの様な物をイメージしていく・・・。

 目の前にデカイ薄黒いガスの塊が出来て来る。それを巣穴に注入していく。

 音もなく、ガスが巣穴へ流れ込んでいき、外に居た慌てた20匹ぐらいの蜂は、こちらへと飛んで来る。


 フェリシアの戦闘が始まった。ウォーターカッターで蜂を攻撃し、飛んで来る針をアイスウォールで防いでくれている。


 その間も、ガスの注入は止めない。あの中一杯になるまで続けないと意味がない。山の体積の2倍ぐらいを注入し、巣は沈黙した。


 残りは巣の外でこっちに向かって来る蜂のみである。


「フェリンシア、防御ありがとう。巣の方は片付いたから、加勢するよ。

 一気に減らすから、合図したら、自分の目を瞑って耳を塞いでくれ!」


「えっ? 了解!!」


 魔力を練って、光魔法と風魔法で、閃光弾をイメージし、「今だ!!」と合図し、発射。


 5m先で炸裂し、大きな「ピーー」と言う音波と辺り一面を照らす真っ白で強烈な光が10秒程続く。指で耳を塞いでいても結構キツイ。


『きゃっ・・・』と言うフェリンシアの叫び声が聞こえる。あ、聴力が人間より鋭いフェンリルには拙かったかも。


 10秒後、そっと目を開けると、蜂共は全員地面で痙攣していた。

 慌ててフェリンシアの方を確認すると、耳を塞ぎ、ブルブル震えていた。


「フェリンシア、フェリンシア」耳塞いでるから聞こえてないみたい。


『フェリンシア、聞こえてる? 大丈夫? ごめん、もっと先に説明しておくべきだった。本当にごめん。』


『もう目とあけても大丈夫? 耳も塞がなくて良い?』


『どっちも大丈夫だよ。目あけてごらん。』


 恐る恐ると言った感じで、耳から手(前足)をどけて、目を開けるフェリンシア。


「はぁ・・・ビックリしたーーー。凄い音だったよ!! まだ少し耳がキンキンしてる感じ・・・」


「ごめんね。焦ってたから、説明が足りなかったね。今度から気を付けるね。ヒールかけたら、少しマシかもよ?」


 フェリンシアがヒール掛けている間に、外で痙攣しているフォレスト・ビーだけは復活されると厄介なので、とどめを刺して回収。


「そして、いよいよ、お待ちかねのハチミツの収穫です!!」

巣を壊すのも面倒だし・・・


『ねえ、知恵子さん、さっきのマンゴーの収穫みたいに、ハチミツだけをロックできない?』


『出来ますよ。3Dマップに▲で表示しますね。』


 一つ土魔法で作った壺を用意して・・・っと、

 次に、今度は触手じゃなくて、ストローをイメージしてっと・・・ロックしたハチミツ溜まりへ向かって発動!

 吸い込んだハチミツは粘度が高いので、ゆっくりではあるけど、壺の中へとハチミツを輸送してくれる。時間にして約2分程。

「うん、大丈夫そうだな。じゃあ、今度は一気に平行作業で」

 今度は壺を20個用意して、20か所のハチミツをロックし20本のストローを発動。満タンになった壺は次々に収納する。


 このループを4回繰り返し、巣のハチミツの全体の2/3を頂いた。


「全部盗ると可哀想だから、これぐらいにしておこう。フェリンシアもあとでちゃんとあげるから、今は我慢してね!」


 涎の池を作ってるフェリンシアには申し訳ないけど、先に離脱する事にした。


「絶対ですよ!?」と念を押すフェリンシア。


「昼食の時に出すから、安心して!」

と言う事で、フォレスト・ビーさん、ありがとう!と心の中でお礼を言って、南へと進路をとるのであった。

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