第1話

 海渡27歳の冬、日本のJAXAが打ち上げた、超精密監視衛星「はるかぜ3号」が、考古学者が震えて喚起する情報を齎す。

 このはるかぜ1号~4号は、超マイクロスキャンを行い、地下200mまで隠れたミサイル施設や核兵器製造施設を発見・監視する事を目的としていた。

 放射能物質の放つ放射線に関しては、地下300m、海中では1000mまでスキャン出来る。

 アジアの盲腸と呼ばれ、2年前に統一国家となった、一党独裁の隣国の各弾道ミサイルの動向、アジアのイナゴと呼ばれた、かつての大国(現在は無理な侵略と独裁が祟り、現在は国土面積1/5に縮小)の軍事行動を独自の見張る為の、天空の監視網である。

 日本は、これらの衛星の監視網と、日本人の悲願であった憲法改正で、『自国を守れる軍隊』が出来て、領空侵犯も領海侵犯も減り、平和を維持している。


 さて、この「はるかぜ3号」だが、丁度ベテルギウスの超新星爆発を観測した次の日、日本の某県にある鏡山上空を通過する際、ハッキリと巨大な前方後円墳の形と、内部の放射線ではない、何かのエネルギー波を感知し、地上へと送ってきたのだった。


 その前方後円墳の全長は、殆ど山と同じサイズ。

地質学上の測定結果だと、古墳文化の始まる500年前となる。つまり本当に前方後円墳であれば、これが日本最古となる。


 そして、その情報は、日本の考古学のトップである海渡の研究室へと伝えられ、海渡は「きたーーーー!!!!」と、教授にメモを残して、単身で現地へと向かったのだった。



 翌日の鏡山の麓の、過疎化の進んだ集落には、バックパックを背負った、とても学者には見えない28歳の海渡が、衛星からの画像を手に立っていた。

 画像には、山頂近くから1つの通路らしい線が写っている。


「ふむ・・・これだけハッキリ写ってる洞窟?通路?だったら、地元民なら既に知ってそうなんだけどなぁ・・・。

 何で今まで誰も気付かなかったんだろう?」


 取り合えず、まずは情報を と、集落に古くからある唯一の神社へと足を運ぶ。

 神社は老夫婦の神主一家が、代々受け継いで守っていた。

 出されたお茶を頂きながら、聞いたのは、古くから神社に伝わる伝承。


「空に輝く月とは別の夜、いきなり鬼が洞窟から湧いて来て、夜な夜な周辺の村々を襲ったのじゃ。

男は殺され、女子供は攫われ、犠牲者は増えるばかりでの~、立ち向かおうにも、刀では殆ど切れんし、唯一火を怖がる事は判ったのじゃ。

 このままじゃぁ、全滅は時間の問題と、周辺の村人は話し合ってのお、祠を立て、火の神に生き残った全員祈ったのじゃ。

 すると、祈ってから3日目の夜、空から幾つもの星が降って来てのぉ~。

 当時は、今の様な山ではなく、変な形の丘だったのじゃが、一番高い所に星が落ちたど思ったら、周囲が光り輝いてのぉ、みんな地面にひれ伏して目を瞑ってたのじゃ。

 で、大きな音と光が止んで、目を開けると、丘が5倍くらいの高さの山になったのじゃ。」


「じゃあ、噴火とかじゃなかったんですね!?」


「言い伝えだと、噴火じゃなさそうじゃな。

 当時の祠は、今もこの神社の奥に残って祭っておる。噴火じゃったら、おそらく残ってはおらんじゃったろうなぁ。」


「で、その鬼が湧いて来た洞窟はどうなったんですか?

 やはり山に埋もれたんでしょうか?

 大体の場所って言い伝え残ってますか?」


「この山には大きな滝が、3箇所あるんじゃが、方向的には、それのどれかの付近らしいと聞いておる。

 しかし不思議な滝でのぅ~、それまで無かったのに、星の降った夜から突然、滝が湧きだしたらしいのじゃ。」


 これは、非常に有力な言い伝えだ。

 逆に何で今まで誰も調べなかったのか不思議な話である。

 お礼を言い、神社を後にした海渡は、教えて貰った滝へと道なき道を行く。


 ドドドという水の落ちる音が徐々に大きくなり、1つ目の滝を発見する。

 衛星の画像と照合すると、まだまだ先らしい。

 滝を迂回して上流へと進む。3時間程して2つ目の滝を発見。

 衛星の画像と照合すると、どうやらこの滝の辺りらしい。

 やっと辿り着いたと、ホッとしたらお腹がすいている事に気付く。


 滝の近所の岩に座り、持って来ていたコンビニのお握りを2つ食べ、水筒のまだ熱いお茶を飲んで落ち着く。

 お茶を飲みながら、滝を眺めていたら、異変に気付いた。


 さっきまで、ドドドと轟音を伴って落ちていた滝だが、徐々に音量が減っている気がする。


「ん?水量が減ってないか?」


 GPSと衛星画像を照合すると、間違いなくこの滝である。

 時間は15時を過ぎた頃。あと2時間もせずに山の中は暗くなる。


「取り合えず、今夜はここで野営して、明日は朝から周辺調査だな。」


 取り合えず、水量の比較用にスマホで滝の写真を撮ってから、設営を開始する。

 一人用にはやや大きめな軽量テントを手早くたてて、内部に膨らむマットを敷いて、寝袋をセットする。

 明るい内にと、丈夫なビニールパックと一人用のコッフェルに滝の水を汲み、折りたたみストーブの上に置く。

 薪集めを終え、テントの前室へ置いて、準備完了。


 神社で聞いた伝承と経過報告をスマホにまとめたが、山の中は電波が入らないので、大学のクラウドサーバにはアップ出来なかった。


 この山、何故か昔から周辺は冬でも比較的温暖で、雪が降らない。

 とはいえ、冬だから日暮れと共に気温は下がる。

 折りたたみ薪ストーブに枝を入れて火をつける。


 火が揺らめくのを見ながら、この道に付いて、初めてイン〇ィー・ジョーンズっぽい流れに、明日の探索に心躍らせるのであった。

 この後、棒ラーメンを食べ、コンビニで買っておいた焼き鳥を炙って寝酒のバーボンを煽り、早めに就寝。


 しかし、文字通り、夜は「静かに」更けていったのだった。


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「空に輝く月とは別の夜」ですが、新月を意味します。

伝承なので、割と判りにくい表現にしてます。m(__)m

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