勇者誕生編

01話 勇者の誕生

 眩しい朝日。小鳥のさえずり。背中には草がなびく感触。いつもと変わらぬ朝…じゃねぇよ!!

 なんで草なびいてんだ!?確か昨日は、突然届いたゲームを開けて…


 そこまで思い出した俺は、自分の体に触れる。


 死んだ…わけではなさそうだ。息子もしっかりと残っていた。


 「それにしても…ここどこだ?」


 そう。俺は今、見渡す限りの野原にいるのだ。てか俺、どうやってここに来たんだ?


 そんな野原に呆然と立ち尽くしてる俺に、老婆が声をかけてきた。


 「もし、そこのお方。」


 「ん?あ、僕の事でしょうか?何か御用ですか?お役にたてるかは分かりませんけど…」


 まさか俺に話しかけていたとは…。そこのお方じゃ分かんねぇっつーの!


 「お強き者よ。私にご加護を授けてくださいませんか?」


 何を言ってんだ、このばーさんは。


 「あの…僕強くないですし、加護ってなんです?というか、ここはどこなんですか?」


 「ご謙遜なさって。ここはアポロン平原。ナドニウス王国の領土ですわ。〝加護〟というのは、簡単に言うと、配下になるから力をくれってことですのよ。」


 アポロン平原…聞いたことないな。もしかして外国か?


≪はい。ここは、以前お住まいになられていた日本ではございません。≫


 うわっ!びっくりした…。この声、部屋でも聞こえたような…

 てか、日本じゃない!?…ですよね。今更驚く事でもないか…。

 じゃあ一体どこだって言うんだ?


≪〝日本〟が存在していた世界でいうところの〝ゲームの世界〟。いわゆる〝異世界〟です。≫


 異世界!?次元すらも越えて来ちゃったのか…。で、君は誰なんだ?


≪名前はございません。主よりカズヤ様のナビゲートを任されております。質問がございましたらいつでもどうぞ。≫


 そうなのか!便利だな…。主…ヤバそうな奴だ。絶対黒幕だろう。

 じゃあ早速!俺が今、置かれている状況を教えてくれ!


≪了解。カズヤ様の現在の階級ランクは〝勇者の卵〟。最強個体である〝勇者〟には及びませんが、この世界の上位存在の一つです。ちなみに、〝勇者〟には〝勇者の卵〟からのみ、進化が可能です。≫


 なるほどな。それで強さを求めてこの婆さんが寄ってきたわけだな?


≪その通りです。カズヤ様の能力を見抜けたことから推測するに、この老婆は魔法使いの中でも上位の存在にあたる魔導師以上であると思われます。≫


 ヤバいな、この婆さん。なんか強そう……仲間になったら心強いな。できるか?


≪可能です。加護を授けることにより、配下にすることが可能です。ただし、莫大な精霊力を使用します。≫


 よく分からんな…。もう少し分かりやすく頼む。


≪了解。加護を授ける方法は2種類あります。一つ目は〝魂の契約〟を繋ぐ。これは人間にも、魔物にも力の授与が可能です。もう一つは、名前を与える方法。これは、魔物にのみ使用可能です。しかし、カズヤ様は〝勇者〟になる身であるので魔物との付き合いは不要です。よって、前者のみ使用可能です。≫


 分かった。。んで、精霊力ってなんだ?


≪精霊力とは、精霊の力を譲り受けた、〝勇者〟の系統の種族にあたる者のみが使用可能な力のことです。精霊力の低下は、自身の生命力の低下を意味します。一定量を下回ると、歩くことも難しくなります。ただし、新たな精霊を体内に取り込むことで、回復・増加が可能です。≫


 へー…。じゃあ加護を与えるってのも程々にしないとな…。とりあえず、これからの課題は精霊を集める、だな。


 あ、忘れてた。そろそろ婆さんの相手をしてやらないと…。


 「よし、分かった。お前に我の加護を授けよう。忠誠を誓え!」

 「ははっ、おおせのままに!!」


≪ミシェル・ロンドとの魂の契約の刻印を開始します。……成功しました。これより、ミシェル・ロンドの進化を開始します。≫


 俺の加護を受け取ったと同時に、ミシェルの身体は発光し、辺りは神々しい妖気に包まれた。

 老いていた彼女の体はみるみる若返り、前世では ー少なくとも俺はー 見たことがないような絶世の美女となっていたのだった。


 「改めまして、我が主。私への加護の授与、大変感謝致しております。私の名はミシェル・ロンド。

主のお力のおかげで〝聖なる魔道騎士〟に進化することができました。私の事はミシェル、とお呼びください!」


 と、ミシェルは満面の笑みで礼を述べた。前世の俺ならイチコロだっただろう。


 「おう!苦しゅうないぞ!」


 自分の口から自然と出た言葉には驚いたがー多分勇者のスキル関連だろうーこうして、〝勇者の卵〟である俺は、記念すべき一人目の仲間を手にしたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 -この日、ナドニウス王国領アポロン平原の中心に、新たな〝勇者〟と思おぼしき存在が確認された。民は歓喜に沸いたが、各国家の幹部らは、手放しには喜べなかった。周囲の国々に負けぬよう、なんとしてでも勇者を自国の物とせねばばならないからだ。そんな脅威が迫っていることを、カズヤは知る由もない。

 そして、後の世ではこの日を新勇者生誕日と名付け、〝人類の命運が左右した日〟として、歴史の重大な1ページになるのだが、それもまだ、先の話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゲーム廃人サラリーマン、異世界に召喚されたので勇者になってみる。 じょにぃ @sokoire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ