第6話
三國弥沙夜の部屋を辞した探偵は住宅街の路地に降り立った。西の空は銅色に染まっている。灰色のコートが長い影を作った。
探偵が立ち去ろうとした時、誰かが立っていることに気が付いた。ブレザーの制服姿の少女だ。異様なのはその顔を狐の面で覆っていることだった。
夕映えで伸びた影が探偵の足下まで来ている。探偵は白髪の頭をかきながら首を傾げた。
「狐に知り合いはいないはずだが」
「三國弥沙夜は呪われている。呪いに近付けばお前にも災いが降りかかる」
狐面の少女は身の丈ほどもある大きな
「命を狙われる覚えもないぞ。……ここしばらくはな!」
探偵が右手を前に突き出すと、大振りのナイフが現れる。狐面の少女はわずかにたじろいだようだったが、そのまま
刃と刃が激突する。鋭い金属音が響く。
「どうやって武器を取り出した」
「これか。これはナイフの幽霊だ」
探偵はナイフを握る手にもう片方の手を添え、力を込める。
「一応説明しておくが、この幽霊はあくまでも護身用で本格的な戦闘には適していない。それに僕は――」
その瞬間、狐面の少女の蹴りが探偵の腹部にめり込んだ。バランスを崩した探偵はアスファルトに手をついて立ち上がる。
「……まだ話の途中だろうが。僕は荒事は苦手だと言おうとしたんだぞ!」
顔を上げると、狐面の少女が巨大な弓を構えていた。
「二度とここに近寄るな」
「ワオ」
弓が引き絞られるにつれて、矢が炎を
「おい、どこにも
探偵の頭部を目掛けて火矢が放たれる。叩き落とそうとナイフを振ると、当たった箇所から炎が体中に燃え広がっていく。
「チッ! 僕が言えた義理じゃあないが、炎も物理法則を無視してるな!」
灰色のコートや白髪が端から燃え出す。煙が出て、赤い炎が燃え上がる。腕を振り払って炎を消そうともがいていると、いつの間にか炎は消えていった。
燃えていたはずのコートや髪にも焼けた跡は残っていない。対峙していたはずの狐面の少女も姿を消している。まるで初めから何も起こっていなかったかのようだ。探偵は先ほどまで大太刀と激突していたナイフを見る。
「妙に手応えがなかった。まるで狐に化かされたみたいだ」
探偵の掌の中で短刀が消失する。AR端末のログを表示させると、外部からアクセスした痕跡が現れた。
「なら、やはり風見優は魔女ではないな」
探偵は刻々と色を濃くしていく夕焼けを見上げた。
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