第1話


式場が突如、暗転する。

場内が、ざわつく。


突然、スポットライトが式場の一部を照らす。

「お父さん!」

少年が、新郎の父の方をきっとした表情で、見据えている。

そう呼ばれた新郎の父は、その少年を、知らない。

「3年生の頃の運動会のこと、覚えてる?」

「え・・・・」

「一緒に二人三脚で走ったよね。前の日に、庭で、僕たち一生懸命練習したよね。よし、明日は一等とるぞ!って。夜、暗くなっても、いち、に、いち、に、って。運動会の当日、僕たちは一等だったね!それも、ダントツだった。嬉しかったな!」


 今度は暗闇にいる少女にスポットライトが当たる。

「パパ、ママ!」

 ほんの10歳くらいの女の子である。

 新婦の両親は驚いた表情。

「5年生の頃の、学芸会の発表、パパは会社を早退して、見に来てくれたよね。ママも忙しいのに、私の主役の姿が見たいって、見に来てくれたよね。嬉しかったな!あの時、頑張って、役のセリフ、前日まで覚えてたのを知っててくれたんだよね。緊張もしたけれど、うまくいって、気持ちよかった。思えばあの時からかな。役者になりたいって夢を抱いたのは」



 少年、少女のスポットライトが消える。

 新郎、新婦の両親は驚きとともに、昔を思い出し、感慨深い表情をみせはじめていた。


 再びスポットライトが光る。少年、いや、新郎とほとんど変わらない歳の、青年が照らされる。


「親父。俺が大学の法学部にいた頃。4年くらい、前だったかな。上京して一人暮らしして、2年くらい経った時のことだった。父さんが倒れたって聞いて、俺、本当にびっくりした。いざ、という時のこと考えたら、頭が真っ白になって、急いで長野の実家に帰って。あの時は、俺、親父にも母さんにも心配ばっかりかけてたから。まだ、親父とちゃんと酒を飲んだこともなかったし、今日みたいな日を親父に見せられること、本当に感謝してる。ありがとう、親父。母さん」


 新郎の両親は突然の告白に、目が潤んでいる。


 そして新婦役の女性にスポットが当たる。


「お母さんとお父さんの反対を振り切って、上京して。すごくふたりが心配しているのは、よくわかってた。でも、女優になるって夢を諦めきれなくて。大学に入りながら、やっと芸能事務所に入ることができて、少しずつ雑誌のモデルの仕事も増えてきて、少しずつ自分にも自信が持ててきた。周りのみんなみたいに、ちゃんとした会社に就職するわけじゃなかったけれど・・・・。そんな時なんだ。彼と出会ったのは。不安な気持ちを励ましあって、支えてくれて。彼とだったら、不安を乗り越えて、頑張っていける。今ではそう確信してるんだ!」



 再び4人にスポットライトが当たる。

 新郎役の青年が言う。

「今日は本当に、ありがとう。もっとたくさん伝えたいことがあるんだ。だから、手紙を書いてきたんだ。俺たちの感謝の気持ち、聞いてほしい」



 拍手、そして暗転。


 本物の新郎と、新婦が、手紙を読み始める・・・・。




「お疲れさま!」

 控え室で、新郎役の青年が、そう言って式場を後にする。

「お疲れ様でした!」

 新婦役の彩乃は返事を返す。さっさと帰っちゃう人なんだな、と思う。

 メイクを落とし、挨拶をして帰ろうかと思っていると、携帯に着信。

 

「はーい」

「もうそろそろ終わる頃かなって思って。彩乃、もう終わった?電話出られるってことは終わったのか」

「うん。終わった。塔矢、どこにいるの?」

「お、お疲れ様。そっち会場、どこだっけ?」

「赤坂だよ」

「じゃあ、銀座あたりで会おうか。予定ある?」

「んー、大丈夫!会いたい」

「うん。じゃあ向かうから、適当に来なね。打ち上げだ」



 恋人同士の彩乃と塔矢は銀座で、アルコールを飲んでいた。

「お疲れ様。すっかり、ベテランになったよな。結婚式のサプライズ」

「そうだね、。結婚式のサプライズのこと、メモリプレイっていうじゃない?それ、もともと、商品名みたいなもので、ある事務所がやってるイベントの固有名詞みたいな感じなんだけど、似たようなイベント、他の事務所でもたくさんやりだしたから、皆ひっくるめて私メモリプレイって呼んでるんだけど、結構、いろんな事務所からも声かけてもらって。嬉しいな」

 彩乃はてへ〜ぺろ、とでも言いたげな、嬉しそうな笑みを見せる。


「さすがじゃん、な。スケジュールも詰まってるんだろ?」

「うん。でも、だいぶコツも掴めてきたし、なんとか頑張っていけそうだよ。最近だとテレビとかYouTubeにも映るようになってきたし、いろんなとこに顔、売っていけそう」


「どう?結婚式の雰囲気とか見たり、演じたりしてると、結婚願望でてきたりする?もんなのか?」


「う〜〜ん・・・・、全くないと言ったら、嘘になるかな。でもまだ、経済的な心配もあるし・・・・。やっぱりそこがネックかな・・。塔矢も法律事務所の所長、頑張って、仕事いっぱい入ってくるようになったら、って思うけどね」


 再び、てへぺろ、と言いたげな可愛い笑顔を見るたびに、塔矢は彼女を守っていきたいなと思う気持ちが強くなっていく。


「ま、とりあえず、俺たちは俺たちのできることをやっていこうか」

「いいなあ・・・。新婦のお母さんたち、ずっと泣いてたよ。嬉しいんだろうな・・」


「そんな結婚式、挙げてみたい・・・?」

「うん!」


「そっか、うん。そっか。」


続く





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僕たちのメモリプレイ 赤キトーカ @akaitohma

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