第2話 祭
10月22日、剣道部改め剣道サークルの面々は、午前の講義を終えると、道場の松竹寺に集合した。
昼時に集まることは珍しく、また、研究や午後のスケジュールの兼ね合いで来ることが出来なかった部員もいたが、私とルーカス、そして、ダンディー霧島とマネージャーの佐々木由紀が道場に集まった。
「あれ、松尾さんは?」
私が佐々木由紀に声をかけると、
「会議で遅れるみたい」
と答えた。
「12時に道場に集まるように言われたんだけど、皆で昼飯でも食べるのかな」
ルーカスが首をかしげた。
「実は・・・」
と言ったダンディー霧島は、佐々木由紀マネージャーと視線を合わせ、
「今日は稽古ではなく、私と佐々木さんが企画したイベントを催行する所存です」
と満面の笑みで言った。
二人の仲の良さそうな様子を見て、私は苛立たしさと焦りを感じた。
「今日は何月何日か分かる?」
無邪気に佐々木由紀が問う。
「10月22日だよね」
ルーカスが即答した。
「そう。10月22日。じゃあ10月22日に京都で『ある』イベントが行われますが、そのイベントとは何でしょうか?」
「ちなみに私のバースデーパーティーではありませんよ」
ダンディー霧島がしたり顔でどうでもいいことを言う。しかも、バースデーの発音が抜群に良いことが腹立たしい。私はダンディー霧島の胸ぐらを掴みそうになったが、寸前のところで堪えた。
私は本当に分からなかった。ルーカスも真剣に考えているが、皆目見当がつかなかったようで素直に、
「降参」
と白旗をあげた。
私は諦めたくなかった。ダンディー霧島と佐々木由紀の仲睦まじいやりとりを見た直後だ。負けを認めるわけにはいかない。何とかしてダンディー霧島に一泡吹かせたい。しかし、分からない。京都のイベントで私が知っているのは祇園祭だけだ。しかし、祇園祭は7月に行われる。悔しいが、万事休すだ。しかし、このまま負けを認めるのは、私のプライドが許さなかった。
必死に考える私を見て、佐々木由紀が助け舟を出してくれた。
「ヒントをあげます。何とか祭です」
「何とか祭?」
早々と降参したはずのルーカスが何事もなかったように復帰している。こいつだけには負けたくない、と思った矢先、ルーカスの表情がパッと明るくなった。
「分かった!」
私は絶望感に襲われた。しかし、
「京都の祭と言えば祇園祭!」
という解答を聞き、ホッとした。
「ブブー!違います!祇園祭は7月でーす!バカじゃねーの!はははは」
普段稽古で叩きのめされているダンディー霧島が、ここぞとばかりに嬉しそうに叫んだ。大胆にも小さくガッツポーズを決めている。冷静を装ってはいるが、ルーカスの拳は怒りでプルプルと震え、額に血管が浮き出ている。
千載一遇のチャンスだったが、私も答えは分からず、無情にも時間切れになってしまった。
「正解は時代祭でした」
佐々木由紀マネージャーはそう言うと、ルーカスと私に時代祭のパンフレットを手渡した。
表紙には平安時代の美しい十二単を身にまとった女性の写真が掲載されている。ページをめくり、概要を知った私は、『なんだ、大規模な仮装行列か』とあやうく口に出しそうになったが、ダンディー霧島と佐々木由紀マネージャーの誇らしげな表情を見て言葉を飲みこんだ。
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