第65話 冤罪

アロスたちとの同盟がなって約一週間の時が経ち、一定の安定を取り戻したリテーレ領はアンカル領内の支配に向け、動き始めた。現にアンカル領内はリテーレ領に所有権があるが、アンカル領内は前領主が消えたことや統治を行わなかったことが原因で内乱に発展している。


この際、静観を決め込み所有権を手放してしまうのも一つの手ではあったが。みすみす見逃すわけには行かなくなっていた。


……というのも、ここ一週間で30人の子どもがリテーレ領内で殺されているのだが、その場にアンカルでしか取れない鉱石がおちていたのだ。


「また一件。……達也さん、これで29件目です」

「こんなことをして何の意味があるってんだ。クソッ! 何とかして止めないと」


俺は執務室の机に腰掛けながら報告書に目を落とし、目つきを鋭くする。すべての事件発生場所も時間帯もバラバラで犯人に繋がる物は何一つ、残されていない。


ただ、確実に分かっているのはすべての被害者が10代の少女であること。

そして、ここ一週間で起こり出していることだった。


その時期から推測するとアンカル領内の陽動ではないかと俺は睨んでいる。少しの時間であってもリテーレ領内で騒ぎを起こして時間稼ぎをしようとしている線は強い。


「仮にこれがアンカルの仕業としてあいつ等はこの情勢をひっくり返すだけの何かがあるのか……?」

「確かに。そこを考えると妙ですよね。この一週間で近隣領土から親書が一気に来ましたし……」


ルカは執務室のテーブルに地図を広げて駒を並べていく。それを見れば一目瞭然なほどリテーレとの同盟、あるいは従属を望む領土が多い。


「……とにかく、犯人を捕まえるしかないな。小さな証拠でも見逃さないように伝えてくれ」

「はい! わかり――えっ!?」


ルカの顔色がグッと強張る。


「どうした? ルカ」

「……達也さん、う、後ろを――」


ルカに言われるまま、後ろを振り返ると大勢の兵士が屋敷の庭に侵入していた。


「敵か!?」

「いえ……! あれはエプリス軍の軍旗です! でも、この兵力は明らかにおかしい!」

「ルカ、逃げるぞっ!」

「えっ!?」


俺は瞬時にエプリスが反旗を翻したと判断してルカの手を引っ張り、執務室を飛び出す。


「ルカ! 逃げ道は!?」

「地下に行けば言無死の塔の近くに出れるはずです。でも、おかしい、おかしいです! 私の警戒魔術に反応しなかったなんて!」

「とにかく話は後だ。逃げるのが先だ!」


俺達は駆けながらエントランスまでやってきたところで足を止めた。すでに地下に行くためのメインホールを押さえられていたのだ。


「クソッ……!」

「あっ、そこにいらしたんですね? ルカ様、達也様?」


玄関の入り口から颯爽と現れたのはアロスだった。


「アロス! これはどういうことですか!?」

「ルカ様、落ち着いてください。私は別に反旗を翻したわけでは在りません」


まるで、格好付けるように言い放つアロスは俺たちを見渡して言った。


「どうやら、この屋敷にわがリテーレ領で起こっている殺人鬼がいるようなのです」

「な、なんだと? そんな奴を俺たちが匿っていると言いたいのか!?」


俺はあまりに突拍子もない話に驚く。なにせ、この屋敷には警戒魔術がリアルタイムで動いていて、常に不審者が入ればルカが検知する仕組みになっている。


ルカがそれを見逃すはずが無い。


「何も匿っているなんて思ってはいません。ですが、私が総力を挙げて調査したらここに行き着いたんですよ。そりゃあ調べないわけにはいきません。なにせ、子どもの命が失われているのですから」

「……もし、何も出なかったら分かってるんだろうな?」

「ええ。如何なる処罰でも受けますとも。それから視察の上で『証拠のでっち上げ』とか、後々になって『何かが無くなった』などと言われても困りますので、私を含む5人で調査します。監視役でお二人が付いて頂ければ心強いのですか?」

「はぁ……。わかった。もう好きにしてくれ」


俺は盛大なため息を付いて調べてもらうことにした。もし、本当に犯人が何らかの手段でルカの監視の目を欺き、屋敷内に潜伏しているのならルカの身も危険だ。


「(まぁ、でも……何かの間違いだろう。ルカの警戒魔術は今まで何回も見てきたけど、その精度は凄いものだし)」


来客が来るたびにルカは俺よりも速く人が来たのを感知している。

現に不意打ちをしかけた相手にも敏感に反応していたのだ。万に一つも間違いは無いのではないかと俺はそう考えていた。


「では、一階から調べていきましょうか」


その掛け声と共にアロスたちが調べ始める。対談室や客間、それから食堂などを隈なく調べ、二階へと移る。


「(さすがに二海はないだろう……普通、いるとしたら地下じゃないのか? まぁ、あの化け物魔術師以外は居ないけどな)」


そう思いながら階段を上って書庫室やルカの部屋、執務室を巡り、俺の部屋に辿りついた。


「ここの部屋は……?」

「俺の部屋だ」


アロスは俺の部屋に足を踏み入れた途端、足を止め叫んだ。


「この反応は……!」


そして、おもむろに俺のベットの下に潜る。しばらく手をゴソゴソと動かしていたアロスはベットからゆっくりと体を引き抜く。すると。その手には血塗られたナイフが握られていた。


「達也様、これはどういうことか説明していただけますか?」

「なっ! なんだよそれ!? 俺は知らない!」

「……つまり、達也。あんたが犯人だな?」

「違う!」

「なら、犯人ではない証拠を出せ! 現に今、ここに物証があるんだぞ!?」


アロスは態度を一変させ、眉間にしわを寄せて怒鳴りながら血が付いたナイフを見せる。証拠を出せといわれても確実な反論できる証拠などどこにもありはしない。


「そ、それは……」

「ないのか……ないのだろう? この外道がっ!」

「アロス、領主様がそんなことをするはずがな――」


アロスはルカの言葉に見向きもせず、一緒につれてきた兵士にハンドサインを送る。すると、兵士たちはルカの手を引っ張り連れて行こうとする。


「ちょっと! 手を、手を離しなさいっ! ちょっと――!」

「ルカ! ルカを離せ!」


俺は咄嗟に銃をホルスターから引き抜くが、アロスが一気に距離をつめられ、仰け反るような形になり、刀身で叩かれて一瞬で床に叩き落された。正直、斬撃の軌道が全く見えなかった。


「くっ……ルカ……」


俺はその場で意識をかりとられてしまったのだった。



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