第57話 作戦会議と揺さぶり

西の砦を視察を終え、カルナス村まで戻って来た俺たちは陽が沈み始めた頃、盗賊に奪われた村の奪還作戦を立案していた。大よそは俺とルカ、ミレットで協議し、話を詰めた。


「まず、ナーイット村の村人の救出を最優先にする」

「あ~だけどな? タツヤ、村人と盗賊の区別がつかないんじゃないか?」

「それに関しては問題はない」

「ん? どういうことだよ?」


ミレットは意味が分からないと言わんばかりの表情を浮かべている。それはこの会議に参加している誰しもが同じ疑問をもっているらしい。みんなの表情が硬い。


「ナーイット村の村長によれば村人全員に呪術の首輪が付けられているらしい。それを目印にして村人と盗賊を区別して欲しい」

「それくらいアタシでもわかるっつうーの」

「もし、賊が首輪を使っていて村人に化けられたら、分からなくなるのではないでしょうか?」

「さすがにそれはないと信じたいが……ありえない話じゃないな」


俺が顎に手を当てて考えているとマレルが少し席をはなれた。恐らく、会議が始まる前に送り込んだ斥候からの連絡があったのだろう。その様子を横目で見ながら俺は全体を見回して言った。


「……今回は静かに事を片付ける必要がある。正直に言うと今回は敵の人数も武装も何も分からない状況だ。ただ、俺が掴んでいることが一つあって、ナーイット村には171人の人間が住んでいる。その全員を退避させれば残りは賊だ」


俺はミルドが作った納税用の戸籍簿をバックから取り出して見せた。


「原理は分かったけどよ? どういう作戦にするんだ?」

「ああ。それなんだが……」


俺はテーブルの上に地図を広げた。


「ナーイット村には入り口が3ヵ所ある。1つはメインの街道で、他はわき道から入れる通路だ。この3本の入り口、それぞれから一斉に隠密状態で村へ侵入。呪術を破壊後、一番近い道から退避。その後は敵を制圧するっていうありがちな作戦だ」

「敵に見つかった場合はどう対処しますか?」

「それは各々に任せるが、可能なら制圧してくれ。村人を盾にされたら俺たちは成す術が無いからな」


俺がそう言うとミレットは頷いて立ち上がった。


「わーかった。とりあえず、音を立てずに救出する。交戦は緊急時以外は避けろっつうことで良いんだな?」

「ああ。隠者が各エリアの偵察を行いながら援護することになっているからある程度は安心して構わない。以上だ」

「お待ちください。ご報告が」


締めくくろうとしたところでマレルが振り返り、神妙な面持ちで全体を見渡した。


「隠者が総力を集め、偵察した結果。賊の数はおよそ45名いるかと思われます」

「それは信頼度の高い情報か?」

「いえ、まだ村周辺の偵察が終わっていませんので残党がどこかにいる可能性もあります。ただ、首輪の有無で人数を数えるとその程度の人数になるかと……」


マレルはそう語りながらもどこか落ち着かない表情をしていた。俺がそっと目線を合わせるとごく僅かに頷くような動きを見せる。


「よし、それでは賊の数も大よそは分かった。作戦開始まで各々、用意を進めてくれ」

「「はっ!」」


みんなが会議から散り始める中、俺はマレルの元へと寄った。

明らかに何か『良くない』情報が入ったのだろう。


「何かあったのか……?」

「それが……先ほどフィーリスの屋敷にエプリス領の第2王子――つまり、次期領主であるアロス様から封書が届きました」

「で。内容は?」

「……『ナーイット村に潜んでいる盗賊はエプリス軍の魔術師であるため、魔術に精通している。最大限の警戒を……』と」

「なんだと!? そんなの……自分達が加担していますって暴露してるも同じじゃないか!?」


俺は衝撃の事実に驚きを隠せず、小声でそう叫んだ。それはつまり、エプリス領は経済面で攻めてきていると思いきや、いきなり軍部の連中が動いていることになる。


「……でも、これ自体が罠だという可能性もあるはずだ。俺たちの対応を遅らせるためのな」

「いえ、それは……その、ないかと……」

「どういうことだ?」


そう問われたマレルは悩んで居たが、やがて逃れるように言葉を発した。


「……ルカ様にお話しになればお分かりになるかと」

「ルカに?」

「はい。私はとりあえず、偵察の準備を整えますのでこれで失礼します」


マレルはそう告げると去っていった。その姿はまるで逃げるかのようで何か訳ありのような感じをかもし出していた。


「ルカ、ちょっといいか?」


俺はマレルの残した言葉通り、ルカにあったことをすべて話した。ルカにはどうやら、思い当たる節があるようで終始、落ち逝かない。


「かなり良くない情報ではありますが、アロス様がそう言うのであれば間違いないかと。私とアロス様は幼少の頃から関係がある方です。ですから、嘘の可能性は極端に低いと断言できます」

「ああ。なるほど。領土間での付き合いってことか」

「ええ。きっとマレルは、こんな重大な時に余計な事を言って達也さんを混乱させたくなかったのでしょうね……」

「マレルの奴、変な気を使いやがって……でも、ルカから直接聞けてよかったよ。よし! 俺たちの領土からエプリス軍を追い出すとするか!」

「はいっ!」


俺はルカの肩にそっと触れ、二人で会議場を後にした。

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