姫は愚者だが、領主は平和を望む

第3話 異世界の景色

「では達也様、参りましょう。お手を」

「ああ、ありがあとう」

俺はルカにエスコートされ、馬車へと乗りこんだ。その一方でルカは扉を開けたまま、体を乗り出して周囲の状況を見てから手を前方に二回振り、出発の合図らしきモノを出した。

「（まさにファンタジーというより……中世って感じだな）」

そんな様子を感じ取りながら『今は現実世界と異世界の相違点を埋めることから始めなくてはならないだろう』と考えを回し始めた。とにかく、今は情報が必要だ。

「なぁ、ルカ。この世界の事についていろいろと質問してもいいか？」

「あ、はい！　私がわかることでしたら……」

ルカは少し緊張した面持ちで頷く。そこからリテーレ家の屋敷に着くまでの間、一般常識について質問をしまくった。

その結果、現代の日本とはいろいろと違うという事が分かった。

例えば、一年が360日であることや金、銀、銅の硬貨がお金として用いられていること、それから魔物も少なからず存在しているということなどだ。

「なるほどな。こりゃあ、慣れるまでが大変かもなぁ……」

「大丈夫です！　私が副官として全力でサポートいたしますので！」

「それは心強い。改めて、これからよろしく」

「こ、こちらこそよろしくお願い致します！　あっ！　フィーリスが見えてきました！」

時間はあっという間に過ぎ去り、俺たちを乗せた馬車は森を抜け、大きな城壁に四方を囲まれたフィーリスへと到着した。

城門を潜り抜け、建物が乱立する城下を走り抜けていく。車窓から外に目をやれば多くの人間が露店で買い物をしたり、談笑したりしている。端から見る限り、悪い雰囲気は特段しない。

「ここは結構、居心地が良さそうなところだな？　皆、楽しそうだし」

「そう言って頂けて光栄です。ですが、ここから南に行ったところにあるリュナという街の方が規模が大きいですよ？」

「一段落したら領内を見て回るか……」

「っ……！？」

「何を驚いた顔をしてるんだ？」

「い、いえ……まだこの世界に来られて数時間しか経っていらっしゃらないのに、もう領土のことを考えていらっしゃるなんて、すごいと思いまして……」

いや、俺を召還したルカがそれを言うかと思わず、突っ込みたくなる。

『危機に瀕している』なんていうパワーワードを聞かされたら、全ての事が重要に見えてくるのだ。一分一秒たりとも無駄に出来ない。それに下手を打てば自分の身すら危ない可能性だってある。

「俺は領主になるんだろ？　広い視野を持ってやらなきゃ、救えるモノも救えなくなる。ましてや、俺は別世界の人間なんだから」

「そう……ですよね。素晴らしいお考えだと思います」

「あっ……悪い。今の言い方だとまるで、ルカがこれまで何もやってこなかったみたいな言い方になっちまった。別にそう言う意味で言ったんじゃないんだ」

「達也様はお優しいのですね。お気遣いありがとうございます」

どこか話しづらい雰囲気になり、お互いが黙ると頑丈そうな鉄で出来た門の前で馬車が止まった。

「着いたのか？」

「いえ、ここから先がリテーレ領の中枢です」

ルカがそう語る中、前衛の兵士が大声で叫ぶ。

「ルカ様と新たなる領主様である！　ただちに門を開門せよ！」

次第に門が開き、馬車はさらに奥へ奥へと進んでいく。それと同時にルカが『中枢』と言っていた訳がわかった。

門の内側では剣術の稽古や魔術か、魔法のような不可思議な力を使った訓練に勤しむ者。防具や武具、馬の整備を行っている者など様々で『軍事拠点』のような場所になっていた。

「すごいな……。さっきまでとは雰囲気がまるで違う」

「本拠点ですからね。軍の本部に加えて兵士も多く詰めていますから」

「なるほどな」

なんとも言えない雰囲気に呑まれつつ、景色を眺めていると真っ白な塀に囲まれた建物の前で馬車は止まった。

「さぁ、着きました！　どうぞ、達也様」

「ああ、ありがとう。……って、デカいな！」

ルカの手を借りて降りた先で俺が見た物。

それは西洋風にも見て取れる二階建てのお屋敷と大きな園庭だった。