第30話 ゲレーダ攻略の行方

少し時間をおいた後、俺たちとエリーテは今後のことについてじっくり話し合うことになった。


「では、早速、決行日とその時間を決めていただけますか……?」


しかし、当のエリーテは事を焦っているのか、初っ端からそんな事を言い出した。

1000人を越える人数を救出するからにはそれなりの準備が要る。


それを考えず、作戦を実施すれば大損害を被ることになる。


「……いや、それを決める前にエリーテにはやってほしいことが2つあるんだ」

「何でしょうか? 私に出来ることなら何でも致しますっ……!」

「まず、一つ目。そこに居るマレルをその収容所まで案内して欲しいんだ。これは脱出経路を探る上で絶対に必要になる。マレルも忙しいとは思うが、協力してくれ」


ルカは心配そうな目線をマレルに向けるが、マレルは俺の言葉にコクリと頷いた。


「そして、二つ目は収容所からの脱出の際、ウチの兵士と一緒に戦ってくれる人と武器を秘密裏に集めて欲しいんだ。いくら兵士を派遣するといってもここの警備を手薄にするわけには行かないんだ」

「それは……つまり、反乱軍レジスタンスを組織しろということですか?」

「ああ、そうだ。とりあえず、脱出の決行は反乱軍の頭数と武器が整わなければ話にならない。それが揃い次第、何らかの形でこちらに連絡をよこしてくれ」

「わかりました。それでリテーレの軍が動いてくださるのならこの命に代えても何とかしてみせます……!」

「ああ、頑張れ。……だが、エリーテ。何事も焦るなよ? バレたらその時点で終わりだ」

「はい……! 分かっています」


こうして、エリーテ・エクシエスを筆頭とした反ゲレーダのレジスタンスを組織すること。そして、そのレジスタンスと共にリテーレ領は共闘することが決まった。


エリーテは俺とルカを残し、マレルを引き連れ収容所へ向かった。

その姿を見つめながらルカは心配そうに見つめる。


「本当にあの子……。エリーテを信用しても良かったのでしょうか……?」

「大丈夫だろう。事実、呪術には反応しなかったしな? それにマレルに依頼したのだってエリーテの命を握ってる人間だっていうことがあるからだし……」

「それは……そうですが……」


ルカはマレルの身を案じているのだろうが、今はやれることは成すしかない。


「さて、俺たちはいい加減、屋敷に戻ることにしよう。ここの指揮はサミラルと本職のミレットを置いていけば回るだろうからな」

「わかりました。では、馬車と警護部隊が編成でき次第、ここをちましょう」

「ああ。ただ、できるだけ警備は少なめにしてくれ。帰りは近隣の村やリュナの街を視察するから」

「村や街を……ですか?」

「実際、足を運んで見なければ分からないことだってたくさんあるだろうし、政治体制を敷く上でも重要なことだからな」

「分かりました。警備は最小限にしますね」


そういうとルカは近くに居た兵士達の方へ駆けて行った。本当なら視察などしている時間も惜しいが、書類だけ見て決を出すのでは領民の信頼は得れない。


それにどうせ、帰り道の道中にあるのだ。

二度手間を踏むよりはまだ、マシなはずだ。


俺はルカが移動の準備を整えるまでの間、サミラルに会い、アンカル領の領主への書面を渡した上で陽動作戦のゴーサインを出し、その後、司令部内で今後の行動方針を考えていた。


とりあえず、ゲレーダ領に対抗する措置は昨日の間に概ね進んでいる。

ゲレーダ戦線に従軍する兵士達の鼓舞、それからこの陣の正面に進軍を阻むブービートラップの設営、兵士達の栄喜も養った。


実践的な話については現場の指揮官であるサミラルと俺でゲレーダが進軍してきた場合の迎撃方法について打ち合わせも済んでいる。


それに加えて、アンカル領への陽動作戦や突如、現れたゲレーダ領の領民、エリーテ・エクシエスによるゲレーダ領内での反乱軍レジスタンスの結成という計略も動いている。


「(ひとまず、ゲレーダのことは置いておいて良さそうだな……。となると次は……)」


考えが向く先は内政。リテーレ領内のことについてだ。


「(しかしなぁ……どこから手をつけたものか……)」


経済、産業。軍事……それから微々たる物を考えると無限大にある。


「(冷静に考えろ。この領土に繁栄をもたらすためにはどうすればいいのかを……)」


今まで得た情報、達成してきたことを考慮して俺は一つの決断を下した。


「(この世界の原理は腐っても現実世界あっちと同じ……か。腐っても、嘆いても結局は“カネ”だな……」


天下の周りモノで何をする上でも資本になり、領土運営の基礎部分だ。


「ってことは……各村の農耕事情の向上、改善か」


事実、そこが改善すれば領内が潤い、リテーレの財政面は見事に回復し様々なモノに投資できるようになる。


「考えはまとまったし、やるだけやってやる!」


俺は一人、司令部内でブツブツ言いながらメラメラと内政面に思いをたぎらせるのだった。すべてはリテーレ領の繁栄のために――。

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