「父と暮らせば。」の生活を覗く

 いつの頃のことだっただろう。


帰り道にあの人の姿を探すようになったのは……



暮れなずむ道を私は足早に歩く。


秋の日の入りは早く、もう周囲は薄暗い。

家の窓のカーテンは固く閉まり、中に住む人を包んで外部からの視線を遮る。


ハッハッハッハッ!


ポツンポツンと街灯の明かりの灯る道に、突如、楽しそうな大声が響いた。


(あ……)

私は足を更に早めた。


そして1軒の家の傍に来ると、早めた足をそっと緩める。


ああ……


その人の家はまだカーテンを閉めていなく、レースのカーテンの向こうに、住む人の姿を見せてくれている。


私はゆっくりとそこに視線を走らせながら、歩く。


「通販でな、フライパン買ったぞ!

焦げない魔法のフライパンだ!」


……フライパン……


「3つ買った!

1つはうちで、もう1つは弟夫婦の家で、もう1つは保存用だ!」


お父さん……何処かのTUEEEE勇者か

「どうだ!焦げないだろう!」


そして私の視線は窓の近くのその人を捉える。


「……焦げたよ」


カーテンを閉めようとするその人の瞳は、諦観で澄んでいる。


「え?」


「焦げた」


あ、あ、あ、素敵……


緊張のあまり、私はさりげなく背負ったリュックから、マイボトルを取り出し、まだ温い焙じ茶を啜った。


いつか、あの人と一緒に焙じ茶を飲みながら、極細芋けんぴを食べたいものだ。


お父さんは見るだけでいい。

いや、素敵だけど。


ふと周囲を見ると、同じようにマイボトルやコンビニカフェの珈琲を飲みながら、その家を見つめている人の影が沢山ある。


さぁ、あなたも一緒にこの家の見学に来ませんか?



いつも元気で個性的なお父さんと、修行僧のような諦観の漂う子供の暮らす宮間家を。


「父と暮らせば。」


作者 宮間


https://kakuyomu.jp/works/1177354054890930220


最近……更新がなくて寂しい_:(´ཀ`」 ∠):

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