能ある鷹は爪を隠す
「3年1組男女川カモメ、3年1組男女川カモメ。至急、職員室アジサシまで。」
昼休みの教室が騒然となり、皆がちらちらとあたしを振り返るのがわかる。
「珍しいね、なんかやらかしたの優等生。」と千鳥はあたしをからかった。千鳥ならあたしが呼び出しをくらう理由がわかっていそうだが、聞かないでおいてあげよう。
教室から出るために、ウミバトの席の横を通る。ウミバトはいつもと変わらず、頬杖ついてクールに黒板の方を眺めている。あくまで白を切るつもりのその態度に内心イラつきながら、教室を後にする。
「失礼します。アジサシ先生。」
職員室の入り口であいさつすると、アジサシ先生はあたしを手招いた。
「先生、なんですか。」
「男女川さん、進路希望調査。聖百合城でいいんでしょう。」
「…ええ、それが何か。」
「聖百合城なら、男女川さんの成績で十分受かるだろうし、推薦だって出してあげられるんだけど…。ちょっと聞いたのよ、最近あなた変だって。」
予感、的中。こうなった理由はだいたい見当がついている。クラスメイトを、自分より成績のいいあたしを売って内申点をあげようとする女なんて、ただ一羽。ウミバト。そこまでしてユリカモメに入りたいのかしら。滑稽ね。
「…変っていうのは?」
「ちょっと疲れておかしいんじゃないかって。あ、ごめんなさい、言い方悪いわね、これじゃあ。」
「私、全然大丈夫ですよ。」
「でも、本人に自覚はなくてもってこともあるでしょう?だから先生、予約しておいたのよ。」
嫌な予感しかしない。
「スクールカウンセリング。もしよかったら行ってみて、話すだけでも気晴らしになるだろうし。」
先生は微笑む、この瞳に私は映っていない。生徒に優しくしてあげる真摯な自分に酔っている。そんなのは要らぬおせっかいよ。吐き気がする。私は私の異常さも、理解しているつもりよ。
「ありがとうございます。気が向いたら行ってみようと思います。」
満面の笑顔で差し出された紙を受け取る。愛想だけはいい自分でよかった。大人ウケは悪くないのだ。反抗的でも。反骨精神を秘めていても。
「失礼しました。」
一礼し、職員室を後にした。後ろ手でドアを閉め切ると、左手に持った紙を握りつぶした。かわいい小鳥さんと、まだおむつのような卵をお尻につけた数羽の雛鳥。白衣を着て微笑む眼鏡をかけた成鳥。ははは、高校生にもなってこんなの。大人に馬鹿にされてる。最悪。誰が行くもんか。
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