欲望Ⅱ


「好き、嫌い、好き、嫌い…」

忠誠の蜜蜂は祭壇で小ぶりの花の花弁を毟っていた。

「嫌い。…まあ、いいわ。『好き』になるまでやり直せばいいんだもの。」

手を放す。はらはらと、花弁が舞って無残な姿になった花が落ちる。そして蜜蜂は指を鳴らす。すると花壇にまた一輪の花が咲いた。彼女は手を伸ばし、それを摘み取った。

「好き、嫌い、好き」

健気に生えたその花弁をひとつ、またひとつ、千切ってゆく。

「花が散るくらい、構わないわ。どうせまた、咲くもの。…けれど。彼女だけは、もう二度と、」

力任せに握りしめたこぶしの中で、気づけば、花の茎が折れてしまっていた。花はしおらしく、倒れている。

「…いいえ、違う。彼女は死んでなんか、いない。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る