『妖怪丑三つ時』
やましん(テンパー)
『妖怪丑三つ時』
男は、あまりに毎夜寝られず、寝ても、上司や部下に嫌がらせされるか、怪獣や宇宙人や巨大な昆虫や異世界人に襲われるという、悪夢ばかり。
すっかり、やせほそってしまった。
堪えかねた男は、ある深夜、ついに、近ごろ名高い陰陽師を尋ねたのである。
「あなた、『妖怪丑三つ時』に、祟られてますな。恐らくは、むかし、妖怪の気に入らないことをしたのでしょう。夜中を越して仕事をし、帰りがけに、自動車などで、ちょうど通りかかった妖怪の顔に、何かしらひっかけたとか。」
「そのように言われても、むかしは、よく深夜まで仕事してたし、自分では、わからない。どうしたら良いのですか。」
陰陽師は、少し考えてから、こう言った。
「かつての一番嫌いな悪い上司を、丑三つ時になんとか呼び出して、このお札を背中に張りつけ、じぶんが悪かった、と、言わせなさい。そうすれば、妖怪は、そちらについてゆくであろう。ちなみに、あなた、このままでは、あと、一年は持たぬであろうな。
男は、しばらく陰陽師をじっと見つめていた。
ときは、まさに、丑三つ時となっていた。
男は、「わかりました。では、お札をください。」と、言った。
陰陽師は、さらさらと、わからぬ文字か呪文を書いて、それを男に渡した。
その瞬間、陰陽師は、出していたジュースが入ったコップを、なぜか、ひっくり返した。
なんで、ひっくり返ったのかは、わからなかったのだが。
「あやあや、これは失礼した。」
陰陽師は、タオルを探して後ろ向きになった。
男は、その背中に、密かに、もらったばかりのお札をはりつけた。
「あやあ、ズボンが、濡れましたなあ。」
男が、言った。
「なんと、おお、これはまた、失礼した。すべてわたしの責任です。わたしが、悪かった。
」
「いや、いや。このくらい、なんの。いや、ありがとうございました。さっそく努力してみましょう。これは、少ないのですが、おれいであります。お札は、頂いて参る。」
男は、『お札』をプラスチック・ケースにいれ、懐にしまい込むようにした。
「では、失礼いたします。」
「成功を祈ります。」
男は、森の中に消え失せた。
『どこかで見たようなお人だった、だがなあ。』
陰陽師は、この仕事に就いて、あまり長くはない。かつては、とある大企業の人事部長だったが、退職後に、いささかの修行のうえ、親の跡を継いでいたのである。
男は、じつは、その会社の末端社員だったが、この陰陽師に、かつてパワハラをされ、精神を病んで退職した。髪型を変えて、サングラスもしていたし、30キロはやせていたから、まったく気がつかなかったのであろう。
この夜以降、悪夢は、陰陽師を悩ませることとなり、遂にかつての幹部同士の争いになったらしいが、そのころ、この男はすでに、よその地に移ってしまっていたという。
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『妖怪丑三つ時』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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