第42話 敵地へ
「あの船へ!」
扉が開くと、昼間だった。
シリコンバレーに在る研究所ではもう夕方近くで薄暗く成り始めていたのに、こっちはピーカンの真っ昼間って事は、時差が6時間位ありそう。
船は修理用ドック内に収容されているみたいで、前後左右はには鉄の壁で囲われたこの船がすっぽりと入る大きさの四角い深い穴の中に入っていて、その鉄の壁の上、つまり地上の高さからは鉄骨剥き出しの柱が等間隔に立ち、その上にはアーチ状の屋根がついている。多分、衛星から見えない様に覆い隠しているのだろう。
地上には作業員と思しき人や重機が動き回っているのが見える。
扉から出た場所は、あの船のひしゃげた扉の外。つまり、船の横側の甲板の上だ。
それにしても、研究所で入ったのは左右に開く自動扉なのに、出たのは向こう側へ押して開くドアノブの付いた鉄のドアなんだよね。自分で使っている魔法にこんな事言うのもなんだけど、何だか不思議な感じ。
私達は、敵地だというのに特に警戒心も無い様子で、無警戒に周囲をキョロキョロと見回しながら観光客の様に歩いて船の前方の広い甲板の上まで歩いて来た。
なんか、魔法が使えると身の危険とかそういう安全に関する警戒心が薄くなって来ている様に思う。
だって、ナイフも銃弾も(たぶん)効かないのだろうし、他者から危害を加えられる心配が無いと思うと人間ってこうも無防備に成るもんなんだなーって……
「案の定だけど、待ち伏せされていたわね。」
「想定の範囲内よ。」
あ、前言撤回。私以外の二人は十分周囲に警戒をしていたみたいです。
DDとピートが何か二人だけで納得した様な事を言っている。
何だろうと思っていたら、銃器を持った大勢の男達に囲まれてしまっていた。そんな物、魔法使い相手に通用しないのにな。
銃とかテーザー銃とか、通用しないと分かっている相手に何で向けるかな。万が一相手が油断してたら当たるかもっていう低い可能性に賭けているのかな?
……なんて呑気に思っていたら、正面に居た数人が左右に退き、その後方の修理ドックの壁の上にいる車両に備え付けられている筒がこちらを向き、何かを発射した。
「いけない! バリアー!!」
「バリアー!」
二人が大声で叫んだ。
後ろで急に大きな声を出されて、私はびっくりして『ひゃっ!』みたいな変な声を出してしまった。
後ろを振り返ると、二人共鬼の様な形相で睨んでいる。あ、私を睨んでいるんじゃないや、視線は私を通り越して前方を見ているんだ。
【【Roger(了解) 絶対障壁起動】】
二人の道具が即座に反応して魔法のバリアを展開する。
シュパァーーーーーーン!!
ガガガン!!
直ぐに振り向いた私の目の前直近で物凄い音がした。びっくりした!
「な、何事!?」
その大きな音に私はびっくりしてよろけ、後ろへ転びそうになったのを、二人に支えられた。
少し落ち着いて前を見ると、金属の大きなダーツみたいな物が空中に浮かんでいる。
二人が最初に張った
「対戦車用の徹甲弾かしら。いや、衝突の直前で後方の炸薬が爆発して再加速した様に見えたから、対魔法使い用に考案された武器みたいね。」
DDが冷静に分析する。
「あ、危ないじゃないか!怪我でもしたらどうするのよ!」
私は争っているという感覚はあったものの、本気で相手が自分を殺しに来ているというイメージは薄かったのかもしれない。
私達の使う魔法があまりにも強力過ぎて、どこかで安全なゲームでもしている感覚だったのかも。
「障壁パネルを3人分抜いてるわね。一人10層で30層、三人居なければお陀仏だったわ。」
ピートも冷静です。あれ? ボーッとしてるのは私だけか? 何か今日の私はおかしいな、真剣さと言うか集中力が散漫な気がする。ボーッと生きてんじゃねーよっておかっぱの5才児に叱られちゃう!
ああ、こんな時でもこんな事を考えている私って、やっぱりどこか現実感が無いんだな……
「
「いや、それにしても速すぎるわ。あなた、本当にバリアーの命令出したの?」
「え? 出してないよ? 防御はオートマチックでしょう?」
「「え? なにそれ?」」
今の二人の表情を見るに、二人のはオートじゃないのかな? あれ? 私のは何で自動防御なんだっけ?
「あ!」
「何よ?」
んー…… と思いだしてみると、ずっと前にシェスティンお婆ちゃんに再開した時、お婆ちゃんがこの玉にこう命令したんだった。
「お婆ちゃんがね、この玉に『お前達、その娘を守っておやり!』って命令して、そのまんまになってる…… のを思い出した。」
「なによそれ、ずるいわ!」
「ずるいと言われても、どうしなさいというのよ。私より上位の命令が入っていると、私じゃ解除出来ないのよね。それに良い事ばかりじゃないよ。魔法を使用数一杯まで使っていると、優先順位の低いのを強制的解除されてしまうのよね。あなた達だったら、全部を自分でコントロール出来た方が良いんじゃないかしら?」
「確かに、それもそうかも……」
「はっはっは! これは凄い!」
銃を構えている男達の後ろから笑い声が聞こえ、スーツを着た男が姿を表した。
えーと、どの部分が凄かったのかな?
「「あっ! おまえは!」」
その声の主を見た瞬間、ピートとDDが同時に叫んだ。二人はこの男に見覚えが有るみたい。
「誰?」
「何言ってるのよ! 機密を盗んだスパイよこいつ!」
「あなたねえ、米国に来る飛行機の中でずっと隣りに座ってたじゃないの。もう忘れちゃった?」
「あれっ? そうなの? なんか雰囲気違うね?」
あの時は高級そうなスーツをびしっと着こなした紳士だったけど、今は何と言うか悪の秘密結社の幹部っぽい?
私って、人の顔を覚えるのが苦手で、人を認識するのに特徴のある記号を目印にしている場合が多いんだ。髭とか眼鏡とか髪型とか、女性なら化粧とかね。場合によっては服とか雰囲気とかだったりもする。
仲良い人ならある程度見分けられるんだけど、数回会っただけの人だとそういう記号を変えられちゃうと全く分からなくなっちゃうんだよね。客商売には全く向かない人なんです。
「で? どんなところが凄かったの?」
「空間転移の技術、そして今の
何だそっちか。私の魔法が凄かったのかと思ってちょっと喜んじゃったよ。がっかりだよ。
「こんな所で立ち話もなんだ、一緒に来て貰おう。大人しく従ってくれれば危害は加えないよ。」
「私達に命令をするな! お前の言う事など聞くと思っているのか!?」
DDご立腹です。そりゃそうか、元部下に自分とこの技術を盗まれて、それ以上の物を作られちゃったら頭に来るよね。
「では仕方が無い、手荒な真似はしたくは無かったが。」
男は手にした缶のピンを抜くと、私達の足元へ転がした。その缶からは何かのガスが吹き出し始めた。
「毒ガス!?」
私達は咄嗟に後ずさり、自分の周囲に
しかし、男は私達を逃さない様に、三人を包み込む様に
「!!」
「毒ガスで私達を殺すつもりか! 大爆発を起こすぞ!」
「そんなつもりは無いよ、少し眠って貰おうと思ってね。」
「催眠ガスか! まずい、脱出しなければ!」
「自分の
「あっ、確かブルーボールで壊せたよ!」
双子の刺客に襲われた時、
「おっと、
緊急時に瞬時に適切な方法を選択できなかった私達は、即効性の麻酔ガスにより意識を失ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます