第41話 ドア・ツー・ドア

 「何であなただけ帰って来ちゃったのよ!!」


 そんな事を言われましても……

 研究所へ戻ったら、DDとピートにメッチャ怒られた。


 「何でって言われても、連中に付いて行ったのはシェスティンお婆ちゃんの意思なんだからさー。」

 「あの人を敵に渡しちゃ駄目なのよ! だってあの人は……」


 何だ? 歯切れが悪いな。

 まあ、国家機密とかそれに近い感じの存在なんだろうけどさ、DDの言い方にはそれ以外の理由もありそうな感じがした。


 「あの人は! ……あの人は、我々アメリカの味方というわけじゃないの。」


 んん? どういう事?

 DDは、凄く言い難そうに話し始めた。


 「あの人は、私達の手の内に居る時は私達の味方である事に違いは無いの。だけど、私達が敵だと認識している連中もあの人にとっては敵では無いのよ。」


 えーと、混乱してきたぞ? ちょっと言っている意味が良く分からないんだけど……


 「つまりね、世界中にある敵対組織は、ほとんど全部あの人の組織なの。」


 今度はDDに代わってピートが説明をしてくれたのだけど、やっぱり何を言っているのか良く分からない。どゆことよそれ?


 「つまりね、シェスティン様は私達に魔法や技術を授けてくれる。でも、それは私達の感覚で言う敵味方は関係ないのよ。あの人にとっては、所謂地球人に魔法や知恵を授けてやってる、位の感覚なのよ。」


 なんてこった。

 地球人、皆兄弟ってか。

 高次元の存在であるシェスティンお婆ちゃんから見たら、全部自分の子供達みたいな感覚なのかも。

 お母さんが長男にスマホを買い与えたら次男も欲しがるから買い与え、三男も欲しがり始めたから買い与え…… 兄弟同士が仲が悪くて喧嘩が絶えないなんて事実は、親の目から見たらどっちもどっちで気にも留めていないってところかしら?


 子供目線で見たら、お母さんが三男ばかり構うのは長男と次男が気に食わなくて、三男を叩いてみたり、お母さんを蹴ってみたり腕を引っ張ったりと、僕の事も構ってよって成ってるって事なのか。

 で、今シェスティンお婆ちゃんはこのUSAを離れて他の子供の所へ行ってしまったと。


 「どうりで世界中に別荘持っているはずだよ!」

 「「そこかよ!」」


 この事態に直面して危機感が全く無い私も大概だけどね。

 でも、シェスティンお婆ちゃんは人間ごときが作った法律には縛られないし、逮捕も拘束しておく事も不可能なんだから、あれこれ悩んだり心配したりするだけ無駄なんだよね。あの人の自由意志に委ねるしか無い。

 言ってみれば、意思の疎通が出来る神様みたいな存在なのだから、情に訴えて出来るだけ長く自分の所に留まって貰って恩恵に預かる位しか出来ないんじゃないかな。


 「あなた、全く事態の深刻さを理解していないみたいね。これが我が国にとってどれ程……」

 「あー、私、アメリカ人じゃないんで。」

 「同盟国でしょう!」

 「そんな事を言われても、私でもあのお婆ちゃんをコントロールする事なんて無理だよ。」

 「…………」


 DDが必死なのは分かるけどさ、私に当たられてもどうしようも無い。DDもそれが分かっているので黙り込んでしまった。

 機械みたいに沈着冷静な彼女がイライラを隠さないのは見ていて分かった。


 「じゃあさ、連れ戻しに行けば良いじゃない?」

 「相手はポータルゲートで移動して行ったのよ? 行き先が分からないわ。」


 「あ、そうだ。シェスティン様の付けている、水晶のペンダントで位置を特定出来るんじゃないの?」

 「あのペンダントの発する電磁波は微弱で、せいぜい探知範囲は5キロ程度なのよ。」


 ピートがアタッシュケースを開けて、その中に内蔵されている機械を操作し始めた。


 「やっぱり駄目だわ。探知範囲には居ない。世界中に設置してある基地局のアンテナにも反応は無いわ。」


 ピートのその言葉にDDは眉間を押さえた。

 場は沈痛な静寂に包まれた。


 「あ、そうだ!」


 急に発した私の緊張感ゼロな素っ頓狂な声がその静寂を破り、二人が私を振り返った。

 二人が私の次の言葉を待って、じーっと見つめてくる。怖い。


 「あ、あのね、多分なんだけど、私、お婆ちゃんの行き先分かるかも?」

 「「なんですって!?」」


 二人に詰め寄られた。だから怖いって。

 格闘技の有段者であろう二人に掴み掛かられる前に私の考えを話してしまおう。


 「多分ね、自身は無いんだけど、お婆ちゃんの行き先というか、あの船の今居る場所へなら行けるかもしれない。」

 「「詳しく説明しなさい!」」

 「痛い痛い! 喉が絞まる!」


 ゲホッゲホッ…… 絞め殺される所だった。

 私は二人にどういう事なのかを説明した。


 「私、あの時あの船のドアに触った気がするのよね。」


 ドアに触れたのなら、私の空間扉ドア・ツー・ドアで移動出来るかもしれない。魔法名は今私が考えた。


 「気がするとは?」

 「うーんと、自信は無いの。あの時、触ろうとしたらドアが壁ごとひしゃげちゃって、触った様な触って無い様な……」

 「どっちなのよ!? はっきりしなさい!」

 「そんな怒らないでよ! 自分でも自分の魔法能力を正確に把握していないんだから。もしかしたら、触らなくても目で見て認識すれば良いのかもしれないし……」

 「…………」


 「あー、もう! じれったいわ! そんなのやってみれば分かるでしょう!」


 確かに。なんか、やる前にあれこれ余計な事を考えてしまって行動に移れないのは私の悪い癖だ。


 「分かったわ。イチかバチかやってみましょう。ただし、行けるのはシェスティンお婆ちゃんの居る場所ではなくて、あの船が今ある場所だというのは覚えておいて。」

 「了解よ。では、全員準備をして3分後に集合。」

 「「了解!」」



 ◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 研究室の扉の前で腕を組んで待っている私の元へ、2人は2分足らずで完全装備を整えて戻って来た。流石プロの諜報員。

 DDはハンドガンとナイフをベルトに刺している程度なのに、ピートは両手に自動小銃を持ち、弾薬を幾つも詰めたリュックも背負っている。


 「あなたねえ、魔法を使えるんだから、そんなに大荷物持ってどうするのよ。」


 DDが呆れた様にピートの全身を眺めながら言った。

 魔法を貰って間も無いピートは、昔の戦い方の癖が抜けなかったのであろう。

 ピートもDDに指摘されるまで気が付かなかった様で、あ、しまったという顔をして装備を床に降ろしていった。


 「武器はハンドガン一丁も有れば十分よ。ナイフは色々と使えて便利だから持って行きなさい。」


 なんか、ピートがプロとしてのプライドを傷付けられたみたいに複雑な顔をしている。

 でも、魔法使いとしてのキャリアはDDの方が長いのだから、それは認めて素直に従っている。


 「はい、もういいですかー? 行きますよー!」


 私はわざと大きな声を出して2人に私を注目させた。だって、プロのプライドとか私にとってはどうでもいい些末な事でしか無いのだから。

 私は、研究室の自動扉に手を着いて叫んだ。


 「ドア・ツー・ドア!」

 【Roger(了解)空間扉起動】




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る