第36話 共同闘争
「痛い痛い痛い、放して!」
私の体と重なっていたアストラル体のヴィヴィアンが、シェスティンさんに胸ぐらを掴まれた格好で徐々に出て来た。
しかし、その体が半分位出た所で、ガクンと止まってしまった。
それでも引っ張り続けるシェスティンの力で、私も引っ張られて前のめりにつんのめりそうになり、同時に急な頭痛に襲われた。
「あいたたたたたた! シェスティンさん、ストップストップ!」
急な偏頭痛というか、頭の内部が引き裂かれるのかと思える程の激痛だった。
シェスティンさんは、私のあまりにもの痛がり様に驚き、ヴィヴィアンを掴んでいた右手を思わず放した。
ヴィヴィアンは、再び私の体の中へすうっと消えていった。
「痛ったー…… 何今の激痛。」
私は、頭を抑えて左右に振ってみたが、既に痛みは無かった。
「あーびっくりした! 死ぬかと思ったわ。」
「ううむ、お前の魂と奴の魂の一部が癒着してしまっておる様じゃ。」
「ええっ!? どういう事? 魂がくっついちゃってるの?」
シェスティンさんは、魔力の籠もった目で私をじっと見つめて何かを確認している。
目が赤く光っていて怖いよ。
「魂が癒着しているというよりは、半分程を共有しておる様じゃ。どうしてこんな事に成ってしまったのか。」
おそらく、ヴィヴィアンの魂が生成されている途中で、シェスティンさんから逃れる為に私の体の中へ退避してしまったのが原因なんじゃないかと説明された。
この状態では、1つの体を2つの魂で共有する事になってしまう。
ヴィヴィアンが私の口を使って喋ったのは、こういう理由みたいだ。
このままでは私からヴィヴィアンを分離する事は不可能だという。
詳しく説明すると、2人の魂が半分ずつ重なって共有状態になっているそうだ。
別の言い方をすると、1.5個分の魂を2人で使っている。
だから、片方に1を与えるともう片方は0.5となってしまい、生存可能な魂のエネルギー下限を割ってしまう。
両方を生かすとすると、分離は最早不可能なのだ。
シェスティンさんは、分離をするとしたら躊躇無くヴィヴィアンの方を犠牲にするだろう。
ヴィヴィアンもそれが分かっているから怯えている。
でも私は、なんとか共存出来ないかと思ってたりする。
「ね、ねえ、このままじゃ駄目かな? ヴィヴィアンも怖がってるし。」
「いや、このままではお前の体にどんな悪影響が出るか分からん。
シェスティンさんが胸の前で両手を交差させると、変電所のトランスが唸る様な低いブーンという音がして、両腕の肩までが少しぼやけた青白い半透明化した。
あれがアストラル化というやつなのだろうか。
シェスティンさんは、そのアストラル化させた両方の手を私に向かって突き出して来た。
ヴィヴィアンを再び掴んで引きずり出そうというのだろう。
「い、いやああああああ!!」
しかし、ヴィヴィアンは先程の激痛が余程怖かったのか、今度こそ本当に消滅させられる恐怖からか、私の体の主導権を強引に奪い、悲鳴を上げながら空中に飛び上がった。
私は、意識は有るのだけど自分の体が勝手に動いている不思議な感覚を、割と面白がって冷静に観察していた。
私の体は、天井に激突するのかと思いきや、驚いた事に全身をアストラル化して天井をすり抜け、上層階を突っ切り屋上も突き抜けて、建物を見下ろす高度まで登ってアストラル体を解除した。
見下ろす建物は、シリコンバレーのDDとピートにシェスティンさんが譲渡した研究施設だった。
多分、あの別荘よりも魔法関係の研究設備や医療設備が充実しているここへ、シェスティンさんが運んだのだろう。
私は、腕組みをしながら足元の研究施設を見下ろしていた。
「あれっ? 私の意思で体動くじゃん。」
「はい、主導権を奪った訳では無いです。どちらでも動かせます。」
成程、ラジコン自動車にコントローラーが2つ付いている、的な感じなのか。どっちを使っても動かせますよって事ね。
そこでふと、疑問が生じた。
「お互いが逆の動きをしようとしたらどうなるの?」
「それは多分、私の方がキャンセルされると思います。」
「じゃあ、試しに右腕を上げるという動きをしてみて? 私はその逆に右腕を下げる。」
「やってみます。」
目線の高さまで上げた右腕を、ヴィヴィアンは上へ、私は下へ動かそうと試みる。
「いい? せーの、はいっ!」
腕は普通に下へ下がった。
力を抜くと上へ上がる。でも、下げようと思えば下がる。
ああ、私が意識していなければヴィヴィアンの意識で動かせるのか。ふうん、これって意外と便利なんじゃない?
例えば、歩くのがだるくなったらヴィヴィアンに交代して歩いてもらうとか。
「でも、体の疲労感は一緒だと思いますけど……」
そりゃそうか、言われてみればそうだ。
でも、通学バスを乗り過ごして遅刻しそうな時とかに、代わりにヴィヴィアンに歩いてもらって、その間私は寝ていたり出来るんじゃないかな?
「うふふ、いいですよ。でも、その時は空間扉を使いましょうよ。」
「それはそうか、あはは。」
とか和やかに雑談していたら、ヴィヴィアンの操作で私の体がすっと前方へ移動した。
振り返ると、今迄私の居た場所に空間扉が開いてシェスティンさんの両腕が突き出ていた。
「おおう、危ない危ない。ヴィヴィアン、ナイス!」
「こりゃ、お前達何を呑気にしておる! ドリーや、こっちへ来なさい。お前の意志の方が優先されるのじゃろう?」
空間扉から全身を現したシェスティンさんが、激おこでこっちを睨んでいる。
「今のこの状態で不都合は無いみたいだから、このままでいいよ。私はヴィヴィアンに消えて欲しくないの。」
「今は良いかも知れぬが、その内そやつの力の方が強く成った時、全部を乗っ取られるやも知れぬのじゃぞ?」
その可能性は無いとは言えないのかも知れない。
でも、そうなったらその時はその時だ。それよりも、私はヴィヴィアンに消えて欲しく無い。
折角私が命を与えた私の分身に居なく成って欲しく無いんだ。
それに、この子はそんな悪い子じゃないと確信出来る!
「甘いのう。私はお前の様に情けを掛けて騙されて酷い目に遭う人間を何人も見て来た。そいつは嘘を吐く事を覚えている。現にお前を騙して名前を付けさせたのじゃろうが。」
「そ、それは……」
いや、未だヴィヴィアンが嘘をついたと決まった訳じゃない。
そうだ、シェスティンお婆さんとの鬼ごっこで、私が勝てるアイデアが有ると言ったんだ。
それを証明すれば、嘘をついた事には成らないじゃん!
「ヴィヴィアン、名前を付けてあげれば私が勝てるって言っていたよね? それを試してみよう!」
「分かったわドロシー、サーチと飛行は私に任せて。あなたはシェスティン様を捕まえる事にだけ集中して。」
「何だか良く分からないけど、作業を分担するわけね?」
「そう、それから私達は一心同体なんだから、一々口に出して会話しなくても、頭の中で考えただけでそれは私の考えに成るの。
おお、何だか凄そうです。
今度こそ勝つる?
「お前達、何をコソコソやっておる! 来ないならこちらから行くぞ!」
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