第27話 事案発生です!

 「魔導倉庫は、その鍵を私にもくれるの?」

 「いや、この鍵は私の居た世界では必要じゃったが、地球では要らぬな。お前さんは既に第5次元領域への扉は開いておるよ。」

 「えっ? そうなの?」


 確かに、物体引き寄せアポーツやら空間扉やらは、第5次元を利用しているとお婆さんは言った。

 だけど、肝心の私自身がその空間を認識していない。ジニーが勝手に使っているだけなんだ。

 私は、入口を入ったら直ぐに出口だと思っていた位で、その間にある第5次元空間を全く認識出来ていないのだけど、どうなんこれ?

 そこまで考えて、ピンと来た。頭の上に電球が、ティンと光った感じだ。


 「ひょっとして、出口を作らなければ良いんじゃね?」


 お婆さんは、私を見てニヤニヤしている。

 何だろ? 我が子の成長を生暖かく見守っている感じ?

 私は私の仮定が正しいのかを確かめるために地面に扉の絵を描き、玉に命じた。


 「空間扉起動。出口を作らないでね。」

 【Roger(了解) 空間扉起動 出口無し】


 絵に描いた扉が開いた。

 中は、お婆さんが魔導倉庫を開いた時みたいに虹色にウネウネしている。


 「それがお前さんの魔導倉庫じゃよ。」

 「これが私の魔導倉庫……」

 「中に入れた物を忘れん様にな。物が多く成ってくると、段々と何が入っているのか分からなく成って来るんじゃ。」


 ああ、ありがちだ。私、自分の部屋でも物を良く無くすもん。まして無限に物が入る倉庫じゃあねー。中で物を無くしたら、探し出せる自信無いわー。


 「中に入れた物は妖精ジンが覚えておるから、アレ出してで事足りるぞ? 自分で探す必要は無いんじゃ。入れた事すら忘れる様ではどうしようもないがな。取り敢えず、そこら辺の土やら岩やら何でも入れておくと良いよ。」

 「えー? そんな物入れるのやだな。必要なの?」

 「意外とな、使う事があるんじゃ。騙されたと思って入れておきなさい。どうせ容量は無制限なんじゃから。」


 そんなものなのかな。何かを埋めたく成ったりするのかな? まあ敢えて逆らう理由も無いので、言われた通り砂漠の砂やら岩やらを大量に詰め込んでみた。不安に成る位いくらでも入るね、この倉庫。

 そんな事をしていたら、辺りの地形が変わって来てしまったので、適当な所で終了。


 えっと、お婆さんがくれると言っていたのって、あと何だったっけ?


 魔法同時使用数を1つ追加。

 魔導倉庫。

 思考操作。

 他心通テレパシー


 この4つだっけ。


 「もう全部やったじゃろうが」

 「えっ!? テレパシーしか貰ってないよ? 魔導倉庫は元々使えたんじゃん。」

 「私が教えなければお前は永久に使えなかったぞ?」

 「ぐぎぎ…… じゃあ、残りの3つは?」

 「妖精ジンを1匹追加して、他心通テレパシーを常時使える様にしたじゃろう? それで妖精ジンと直接意思疎通出来る様になったじゃろうが。」

 「んあ!?」


 この糞婆! 妖精ジン一匹で残り3つをクリアした事にしやがった!


 「なんだい、口の悪い娘だね。」

 「いけね、考え事が筒抜けだった。」


 つまり、魔法を1個追加と言っても、その追加された1個は常時発動のテレパシーのみなので、実際の使用数は変わってないよね?

 何か、騙された気分なんですけどー!


 「納得行かないー、うぅー!」

 「私は約束はきちんと守る性格なのでな。嘘は何もついておらぬぞ?」


 つまり、赤い物、丸い物、甘い物の3つをくれると言って飴玉を1個渡されたみたいな感じだ。大人ってずるいなー。

 まあいいや、工夫次第アイデア次第で1つの魔法は色々に使える事が分かったのは収穫だ。


 「じゃろう? 私はそれを伝えたかったのじゃ。」

 「ウソつけ!」


 ここでまた、ティンと閃いた。


 「もしかして、金や白金プラチナとかも作れちゃう?」

 「もしかしなくても、作れるぞ。だけどなぁ……」


 お婆さんは、少々渋い顔をしながら言葉を続けた。


 「どんどん作れば大金持ちだとか考えておるんじゃろうが、そうは上手くいかんぞ?」

 「何でよ?」


 つまり、無制限に貴金属や宝石を作れば、ある程度は儲かるかも知れないが、直ぐに相場を崩して値下がりする。それによって大損する人もいるかもしれないと言うか、かなりの数居るので、死ぬ人も居るかも知れないし、世界の経済に混乱をきたす。

 大勢の人から反感を買い、命も狙われるかもしれない。


 「それは嫌じゃろう? そんな即物的な収入を考えなくても、魔法を使えるだけで合法的に金を稼ぐ方法は幾らでもあるんじゃ。人に恨まれて大金を手にするよりは、人に喜ばれて金を稼げる方が何倍も良いじゃろう?」


 お婆さんがその方法を取らず、幾つもの会社を作って雇用を創出し、大金持ちに成っているのはそういう理由が有るんだね。

 聞いた所によると、私の思い付いた金銀財宝を作り出すという方法は、大昔にやってみた事があるのだそうだ。

 その結果はと言うと、人の欲望を刺激して恨みや妬みを買ったり、争いを生み出すだけだった事を学んだだけだって。


 「お前さんの思い付きそうな事は、一通り私がやって来ているので、何でも聞くと良いぞ。」

 「お婆さんも苦労して来たのねー……」


 「所で、私はお前さんの祖母では無いので、名前で呼んでくれんかのう。」

 「分かったわ、シェスティンさん。じゃあ、私の事も『お前さん』じゃなくてドロシーと呼んで。」

 「分かったよ、ドロシー。」

 「うふふ、シェスティンさん。」


 私達は、砂漠のど真ん中でクッキーを食べ、紅茶を飲みながら談笑した。

 誰か第三者が私達の姿を見つけたら、きっと夢か幻かと思ってびっくりする事だろう。


 「こりゃあ一体どういう事だぁー!?」


 遠くの方の岩陰から若い男の声が聞こえた。

 シェスティンさん、人の接近を探知出来ないの?


 「分かっておったが、害の無さそうな現地人じゃったから放っておいた。」


 まあ、見られて困るものでも無いのか。面倒臭そうなら、空間扉で何処かへ移動すれば良いだけだもんね。

 男はゆっくり歩いて来ると、私達が座っているレジャー用のテーブルセットの傍までやって来た。


 「こいつは驚いた。幻じゃなくて本物の女だー。」


 男は私の隣にどっかと座ると、テーブルの上のカゴに盛ってあるクッキーを鷲掴みで口へ放り込み、私の前にあるティーカップを取ると半分位残っている紅茶を一気に飲んでしまった。


 「お前、妙な民族衣装を着ているな。一体何処のもんだ?」


 やべえ、私、こういう乱暴で礼儀知らずな男は苦手だ。

 それに、お婆さんの方には一切目もくれず、しきりに私にばかり話しかけて来る。


 「お前は何処から来たんだ? こんな所で何をしている? 俺の嫁になれ。」

 「はあ!?」


 男の喋る言葉は分からないが、さっき貰った他心通テレパシー能力のおかげで意味は自動翻訳されて私の頭の中へ入って来る。

 私は助けて欲しくてシェスティンさんの方をチラチラ見るのだけど、優雅に紅茶を飲みながら、この異常事態をガン無視決め込んでいる。

 私一人で何とかしろと言う事か。

 何なんだこの男は? 何でこんな所に居るんだ? 初めて会ったおかしな衣装を来た変なメイクの私に嫁になれって?

 男は、言葉が通じないと思ったのか、私の手を掴み引っ張って立たせると、いきなり私の体を持ち上げ担いだ。




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