第26話 シルクロード

 「この場合は、お前さんの思い付く限り、裏技だろうが何だろうが全部やってみると良いじゃろう。禁止事項は無いでな。」

 「うん、分かったよ!」


 私は魔法の中で一つだけ心配事があったんだ。それは、物体引き寄せアポーツ

 あれって、何処から持って来ちゃってるんだろう?

 多分、私の知っている範囲の何処かから持って来ているのだとは思う。その疑問を素直にお婆さんに聞いてみた。

 聞いてみたと言うか、他心通テレパシーで筒抜けなんだろうけどね。


 「あのさ……」

 「うむ、その問題じゃがのう、お前さんの想像通り、妖精ジンがお前さんの記憶に有る何処かから取り寄せておるのじゃろう。」

 「やっぱりそうか。ねえ、取り寄せるんじゃなくて、作り出せないものかな?」

 「それは、無から生成するという事か?」

 「度々使っておいて何だけど、やっぱり窃盗は嫌なんだ。空中に作り出せれば良いんだけどな。」

 「キュー○ーハニーみたいにか?」

 「え!? 知ってるの? そ、そうそう! あれの空中元素固定装置みたいにさ。」


 お婆さんが日本のアニメを知っている事にびっくりしたよ! でもまあ、話が早くて良かった。

 顎に手を当て、ぶつぶつ何かを呟いている。


 「塑性加工ねんど術を分子レベルで適用して…… いや、原子の構造を組み替えれば……」


 お婆さんはポンと手を打つと、『ハンバーガー出ろ!』と言った。

 砂漠の地面の上に、2個のハンバーガーがころんと出現した。


 「先に椅子とテーブルを用意しておくべきじゃったな、失敗失敗。」


 粗忽な所が意外と可愛いのが分かった。

 お婆さんは、私とピートが取り返した鍵を取り出すと、右手に持って魔力を込めてみせた。

 すると、驚いた事に空中に見た事も無い紋章が浮かび、お婆さんはその真中に在る鍵穴に鍵を突っ込んで撚ると、紋章の真ん中に縦に黒い線が走ったかと思ったら、両開きの窓の様に左右に開いた。

 開いた場所は、何だか良く分からない、虹色のウネウネした空間に成っている様に見える。

 お婆さんは、そこからキャンプに使うテーブルとベンチ、日よけのパラソルとティーセット、ポットにお皿と次々に取り出し、鍵を引き抜いて窓を閉じると、地面に転がっているハンバーガー2個を拾い上げるとベンチ椅子にどかっと腰を下ろした。


 「まあ、お座り。」


 お婆さんは、私を対面の椅子へ座る様に勧め、ハンバーガーを1個私に手渡した。


 「これは、そこらへんに在る空気や地面の原子を寄せ集めて、原子変換して再構築してみたものじゃ。」

 「えっ? 無から作り出したの?」

 「いや、そこらへんに在る原子を再構築したと言ったじゃろう。元は土や岩や草や空気じゃな。」

 「それでも凄いや。」


 見た感じ、メッダーノォゥズのバーガーそのものだ。見た目も触った感じも同じ。包み紙も似た感じに再現されている。


 「上手く出来ておるか? まあ、食べてみようじゃないか。」


 私達は、ハンバーガーにかぶり付いた。


 「「ブーーー!!!」」


 次の瞬間、二人は吐き出した。

 何かもう、味の無い肉にコールタールの様なソース、紙みたいなレタス、鉱物油の様なマヨネーズ、そして、メラミンスポンジみたいな食感のバンズ。

 これは駄目だ。食べてはいけない物だ。

 二人は、お婆さんが淹れてくれた紅茶でうがいして、口の中に残った嫌な成分を全部吐き出した。


 「まっず! 何これ!? とても食べられた物じゃないよ!」

 「じゃなあ…… 食べ物を原子変換で作り出すのは結構難しいわい。見た目はともかく、味の再現が難しい。大体、食べて安全なのかも分からんしな。」

 「何で食べさせたし!!」


 お婆さんによると、今のはお婆さんの記憶の中に有る情報だけで作り出した物だけど、今度本物をジンにスキャンさせて、原子配列から全て記憶させれば、寸分違わない物を作り出せるんじゃないかとの事だった。

 そっか、それぞれ必要な物を暇な時を見つけて、コツコツ記憶させてゆけば作れる物が増えて行くぞ。


 「腐らない物なら、魔導倉庫の中に入れて置くと良いぞ。そこから取り出すなら窃盗には成らんじゃろう?」

 「そうだ! 魔導倉庫! それ教えて!」


 魔導倉庫! マジックストレージ! 絶対に覚えたい魔法の上位ランカー!

 ところで、魔導倉庫の中に入れた物って腐るの? 容量も知りたい。


 「腐るぞ。時間経過は外と同じじゃからな。容量は、ほぼ無限大じゃ。なにしろ、今の処私とお前さんだけの空間じゃからのう。」 「そっかー、生肉とかは仕舞って置けないのか。」

 「今使える手段だけで工夫するのが知恵というものじゃよ。」


 お婆さんは今、魔導倉庫を開けるのに実物の鍵を使った。

 お婆さんの居た世界では皆、この鍵を使って倉庫の開閉をしていたそうだ。

 というのも、多くの人が魔導倉庫つまり、『5次元空間内の4次元に住む私達からは触れない領域』の事なんだけど、皆が同じ領域へアクセスする様に成ると、物品の盗難とか要するにセキュリティ問題が出てきたのだそうだ。

 それを懸念した開発者である賢者が、その領域へ物理的な箱を幾つも入れて、特定の鍵でしか開閉出来ない様にしてしまおうとかんがえたらしい。

 鍵には、個人を認識する魔導式が組み込まれていて、その人の指紋で認証するのだとか。

 要するに、こっちの世界で言うところのレンタル倉庫みたいな感じだよね。5次元空間に設置されたレンタル倉庫だ。

 容積は、船のコンテナー位の大きさの物を入れてあるんだって。

 だけど、それを5次元空間へ入れたら当然5次元領域も開放されるわけで、倉庫の容量は軽く小さな体育館位に拡大してしまったそう。嬉しい誤算だったそうだ。


 鍵には、様々なセキュリティー対策が施されていて、芯に髪の毛程の太さのガラス管が埋め込まれていて、そのガラス管にびっしりと魔導式が書き込まれているんだって。

 無理矢理こじ開けようとすれば、そのガラス管は物理的に破壊されて魔導式は失われる。

 魔導式の内容を解析しようと所有者本人以外が魔力を流し込めば、ガラス管は焼き切れる。

 その他にもお婆さんの聞いた所によれば、悪いことをしようとすると呪いが発動するようになっているとかなんとか。

 これを作った賢者の性格が良く現れていると、お婆さんはため息をついていた。


 「じゃがのう、この地球では呪いとかの魔法は発動しないから解析し放題じゃったよ、ほっほっほ。」


 それで、鍵に妖精ジニーを一匹入れて、魔導倉庫を使える様に改造しちゃったんだって。

 元の世界に在った倉庫にはアクセス出来なかったけど、この広い地球上の5次元領域は全部使い放題だったそうだ。


 「でもその鍵を、二千年の内にどっかに無くしちゃってたと。」

 「う…… うむ、その通りじゃ……」


 粗忽か! でも、長い年月の逃亡生活で持ち物を無くしてしまうのは仕方の無い事かもしれない。

 聞けば、水晶のペンダントも持っていた剣も全部無くしてしまったそうだ。それを1個ずつ回収しているんだって。


 「それで後幾つ残ってるの?」

 「剣だけじゃな、多分。」

 「その剣にも妖精ジニーは入ってるの?」

 「うむ、入っておるよ。」


 何で剣にジニーを入れたんだろう? もっと小物にしておけば良かったのに。

 そう言ったら、『だって、便利じゃろう?』だって。そこら中にジニーを憑依させてるんじゃないよ、もう! そのせいで面倒事に巻き込まれてるんじゃん。


 「面目無い。」

 「それで、剣も何処に有るのか分かってないわけね?」

 「うむ、当時世界中を旅して回ったからのう…… じゃが、大分絞り込めては来たぞ。このシルクロードの、東洋側の何処かじゃろうと見当は付いておる。」

 「めちゃめちゃ範囲広いよ!」




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