第25話 高次元のドア

 「そうじゃのう…… 妖精ジンの居場所は、かなり近づかないと分からんなぁ……」

 「そうなんだ、意外と不便なのね…… って、妖精ってジンなの!? あの、ランプの精のジニー!? 最強の魔法使いじゃない!」

 「私の居た世界では、ジンより強い魔法使いは幾らでも居たからのう…… 神である神竜とか、大賢者とか、イフリートとか、私の親友も強かったな。じゃから、ジンが最強というイメージは無いわ。そもそも、ジンはイフリートの子分じゃろ?」

 「いやいや、イフリートとジニーはどちらが強いかっていうのは、アラビアンナイトの前後で意見が分かれていて……」


 そこで思い出した。

 このお婆さん、二千年前のアラビア辺りで行き倒れていたって言ってたっけ。

 ひょっとすると、アラビアンナイトに出てくる物語の幾つかはこのお婆さんが元だったりするのかな?

 いや、二千年前とか信じている訳じゃ無いんだけどさ、ジニーを何匹も使役しているのは事実だしなー……


 この地球ではお婆さんが最強の魔法使いで、その次がこの妖精ジニーという訳か。

 お婆さんを抜けば、最強はジニーと言っても過言では無いわけね。


 「いや、私は元々魔法使いでは無いんじゃよ。」

 「えっ? どういう事なの?」


 お婆さんの話によると、元々魔力はあまり持っていない方だったため、魔法はあまり使えず剣士の道を歩んでいたのだそうだ。

 だけど、ある切っ掛けで体内にイフリートの細胞であるジンを取り込む事になってしまい、その拒絶反応で死にかけたのだとか。

 それを助けてくれたのが、当時家族同然に暮らしていた人達と大親友だった。

 今ではお婆さんはジンを使い熟し、ジンの生成するマナを使って様々な魔法を使える様になったのだという。


 「一般的に魔導師は、自分の体でマナを生成する事が出来、そのマナを消費して魔力を行使するのじゃが、どういう訳かこの地球の人間はマナを生成する事が出来ないのじゃ。」


 お婆さんの居た世界では、魔法を使えないと言われる人でも僅かながらマナの生成は出来るという人は結構居たそうなのだ。

 だけど、この地球の人は、全くマナを生成出来ない。最強の超能力者だと言われる人でも、お婆さんの居た世界で言えば、全く魔法を使えない人に分類されるレベルでしかないそうなのだ。


 だから、私達はアラジンの魔法のランプ方式で、お婆さんの作った道具によって魔法を使っている。

 道具アーティファクトに入っているジニーに命令(お願い)をして、自分の代わりに魔法を使って貰っているのだ。


 それを、お婆さんは思考操作出来る様にしてくれるんだそうだ。

 道具アーティファクトに入っているジニーと、他心通テレパシーを介して思考のままダイレクトに命令出来る様にしてくれるんだって。

 実質、自分で魔法を使うのとほぼ変わり無い状態に出来るらしい。


 お婆さんの場合は、魔法は自分で使えるので、ジニーにマナを生成させているだけなのだけど、私の場合はマナの生成も魔法の行使もジニーに丸投げだ。

 だけど、見た目はほぼお婆さんと同等の事が出来るそうだ。

 ジニーのマナは尽きる事が無いので、実質無限に魔法を使う事が出来る。これは凄い事ですよ!


 「じゃが、その道具があまり離れると他心通テレパシーが届かなくなるのでな、魔法は使えなくなってしまうから、肌身離さず持っておるのじゃぞ。」

 「どの位までなら大丈夫なの?」

 「そうじゃのう…… 100メートル程度かのう。お前さんは道具無しでは他心通テレパシーが使えんからのう。ジニーがお前さんを認識し、相互通信させるにはその位の距離が限界じゃろうな。」

 「それ以上離れると?」

 「爆発するな。」

 「爆発するのか。」

 「うむ。」


 爆発したら、私も巻き込まれるじゃん。ヤバイわー。

 100メートルかー。意外と短いな。爆発半径はその数倍は有りそうなのに。たま盗られたら、文字通りたま取られる訳ですね。


 お婆さんの場合でも、精々数百メートル程度らしい。

 妖精ジニーの探知が難しいわけだ。

 てゆーか、テレパシーってもっと届くものかと思っていたよ!

 トランシーバーや携帯電話の方が断然便利だよ!

 遠隔通信に関してだけは、地球の科学の方が魔法を上回っている気がするー。


 「御歓談中申し訳ないのですが、そろそろ業務に戻りたいのですが宜しいですか?」

 「おお、お前さん方の事をすっかり忘れておったわい。」


 お婆さん、会社の経営をまるっと部下に丸投げしてしまったけど、大丈夫なのかな? DDはともかく、ピートがさ。


 「ちょっと、今失礼な事を思ったでしょう? スーパーエージェントの私は、どんな潜入活動も出来る様に、あらゆるスキルは身に付けているのよ。会社経営なんてお茶の子再々よ。」

 「あら、期待しているわよ。」

 「任せなさいっての!」


 何だか意外と大丈夫そうなので、私達は修行の旅に出発しましょうかね。

 スパイの男の件は、DDとピートが何とかするでしょう、きっと。


 「では、私等は出発するとしようかのう。」


 そう言うと、お婆さんは目の前にピンク色のドアを出現させた。


 「これって、どこでも……」

  「く~かんとびら~!」

 「!!」


 お婆さんが物まねをした!? しかも、大山のぶ代バージョンだ!


 「大親友がこの扉をよく出しておったのじゃが、私はどんなロマンチックな物語があるのかと想像を巡らせておったのに、まさか日本のアニメに出てくる道具じゃったとはな……」


 なんだろ? その大親友とやらに物凄く親近感を覚えたぞ。会ってみたいな。


 「その内、お前さんに紹介する事もあるかもしれんな。さあ、扉へお入り。」


 お婆さんは、空間に出現させたピンクの扉のノブに手を掛けると、開いて見せた。

 扉の向こう側には、見渡す限りの褐色の大地が広がっている。何処かの砂漠の様だった。


 「では参ろう。DDや、ピートや、後は任せたぞ。偶に様子を見に来るからな。」

 「「はい! おまかせを!」」


 二人に挨拶をして扉を潜ると、そこは灼熱の砂漠だった。

 ここは一体、何処の砂漠なんだろう? スマホを取り出してみたのだけど、案の定圏外だった。GPSで場所を確認しようと思ったんだけどな。


 「ここは何処なの?」

 「中国の真ん中の北側の辺りじゃよ。」


 真ん中の北側の辺りって、ザックリしすぎ。でも、中国かー。一瞬で移動しちゃうんだな。それと、ドアが無くての良いのか。

 お婆さんは何も無い空間に扉を出現させたよね。


 「じゃが、お前さんみたいに何処かのドアからしか移動出来ないっていうのも、魔法っぽくて良いぞ。意外とそういう縛りは必要なのかもしれんな。」


 そんなもんなの? 私にはお婆さんの魔法の方が便利に思えるんだけどな。

 頑張れば私にも出来るのかな?


 「それがな、私の空間扉とお前さんの空間扉は、ちょっと違うんじゃ。」

 「えっ? それはどういう事?」

 「アクセスしている空間が違うんじゃなぁ。言葉で説明するのは難しいんじゃが……」


 簡単に言えば、お婆さんのは8次元、私のは5次元空間? みたいな感じらしい。


 「亜空間とかでは無いんだ? お婆さんの方が、より高次元って事で良いのかな?」

 「まあな、私はちょっと事情があって8次元まで必要だったのじゃが、5次元で十分じゃよ。そこが魔導倉庫の空間であり、アポーツや空間扉の移動空間でもあるんじゃ。」

 「えっ、そうだったの? その3つが同じ魔法だったなんて。」

 「要はイメージ次第なんじゃよ。お前さんは頭が柔らかい様じゃな。」


 同じものを使うにしても、言われた通りに生真面目な使い方しか出来ない人も居れば、奇想天外な愉快な使い方を発明出来る人も居る。勿論、無茶苦茶やってぶっ壊しちゃう人も居るんだけどね。

 ピートやDDが前者だとすると、私は後者のタイプらしい。

 どちらが良いとか悪いとかでは無いのだけどね。前者は、一見融通の効かない頑固者の様に見えるかもしれないけど、言われた通りに忠実に仕事をこなす優秀なビジネスマンタイプとも言えるし、後者は芸術家や発明家タイプに見えるけど、ルールの盲点を突くのが得意な迷惑野郎だったりする。

 暗黙の了解でゆるーく纏まっていたコミュニティーが、一人の破壊者のせいでルールがガチガチになってしまって息苦しくなったりする。


 私は発明家なのか、破壊者なのか、どっちだ?




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