第24話 産業スパイをどうしよう?

 「私がどんな無能なCOOだろうと使い熟して見せますわ。」

 「私がどんな無能なCEOだろうと現場を回してみせます!」


 「ほっほ、お前さん達の給料と退職金はそこから出るからな、頑張って稼ぐんじゃぞ。」


 なんなん? こんなの役員や株主が許さないでしょう。

 アメリカのドラマとかでは良く有るけどさ、どうなってんの?


 「ああ、うちは株式会社では無いし、全部私一人が回しておったからな。今度からは二人で分担すれば良いのじゃから、楽なもんじゃろう。」


 マジか、このお婆さん化物だ。


 「じゃあ行こうか。DDや、ピートや、後は任せたよ。」

 「「はい、お任せ下さい!」」


 「ちょっと待って! 大事な事を忘れています!」

 「何じゃったかのう?」

 「裏切り者の処分!」

 「ああ……」


 忘れるなよ! 機密情報盗まれておいて呑気過ぎるだろ。大体、何を盗まれたんだよ!


 「ああそうじゃった。それを説明しようとしたらお前さんが駄々を捏ねよったんじゃ。」

 「私のせいかよ!」


 私達は、お婆さんに連れられて建物の中心部に在る、研究施設の方へ案内された。

 そこへ行くまでには、幾つもの扉を潜り抜けなければ成らない。その全部の扉には、カードキーやら暗証番号やら指紋認証やら掌紋認証やら虹彩認証やらのセキュリティーが設けられている。

 ハッキリ言って、普通に通行するだけでも面倒臭いのに、よくこれだけの関門を突破して情報を盗み出せたなと驚くばかりだ。


 「人間が出入りしている以上、完全なセキュリティーは無理じゃな。」


 そうなんだよね、大体、どんな厳重なセキュリティーを施した所で、情報を漏らすのは人間なんだよ。

 どんなに強固なセキュリティーソフトを入れたって、絶対に突破出来ないファイアーウォールを構築したって、凄腕のハッカーやクラッカーが律儀に突破して来て情報を盗み出すなんてケースは稀で、それを管理している人間を金の力とかハニートラップとかで抱き込んじゃえば一発なんだよね。。

 セキュリティー管理会社の人間がパスワード漏らしたり、名簿持ち出して売っちゃったりってケースもよく聞くよね。

 結局、人間が最大のセキュリティーホールなんだよ。


 まあいいや、既に起こってしまった事をとやかく言っても仕方が無い。問題は、何を盗まれたのかという事だ。

 私達を連れて来たお婆さんが見せてくれた物は、広大な研究施設の中に設置された、2つの巨大なリングだった。


 「何だこれ?」


 いや、私はこんな様な物を見た事が有るよ。

 ハリウッドの映画なんかで時たま見かけるアレだ。


 「ポータルじゃよ。」


 そう、別の空間へ瞬間移動出来る装置、転送ゲートだ。

 多分、片方のリングが入り口で、もう一つが出口なんだ。


 「いや、どっちから入っても良いぞ?」


 お婆さんと微妙に噛み合ってない。

 でもこれ、空間扉と同じ物だよね?


 「そうじゃな、私達の魔法の空間扉に近い物じゃ。それを魔法を使わないでこちらの技術だけで再現しようとしておる。」


 魔法では無く、この世界の技術だけで同等の物を造ろうとしていたのか。


 「これは、完成しているの?」

 「実験だけでは一応成功しておる。じゃが、膨大な電力を必要とするし、高価過ぎる消耗部品も幾つも有って実用化出来る所までは行っていないのじゃ。」


 つまり、一回テレポートするのに火星に人間を送る位のお金が掛かるんだそうだ。

 帰ってくるのにも同じだけのお金がかかる。

 でもまあ、その位なら頑張れば出せる国だって有るよね。

 仮に火星にポータルを設置出来れば、ロケットで何ヶ月も掛けてえっちらおっちら飛んで行かなくても、同じ費用でゼロタイムで移動出来るんだ。

 どんなに大金が掛かると言っても、それに見合うだけの価値は有る。

 いかに未完成の技術とはいえ、欲しい国は有るだろう。


 だけど、1つ大問題が有るんだ。行った先でその必要な電力が確保出来るとは限らない。

 どんなに高価な消耗品だろうと、必要とあらば行きの転送で持って行けば何とか成るだろう。

 だけど、向こう側の装置を動かすのに必要な電力はどうすれば良いのだろうか? 向こうへ発電所でも建設しなければどうにも成らない。

 魔法には電力を生み出す方法が有る。私が時々電撃をお見舞いしているアレだ。


 それをこちらの既存の技術で再現しようとすると、何らかの熱源を確保し、それを使って水を沸かして水蒸気を発生させ、その力でタービンを回して発電機を回すしかない。

 そう、水力発電も地熱発電も火力発電も原子力発電も、熱源が違うだけで全部水蒸気で発電機を回しているのは同じなんだ。

 それ以外で電力を生み出す方法は無いのかと思うよね、普通。せっかくの原子力をただの熱源に使っているだけってさ、ちょっとがっかりだよね。


 でも、今のこの地球の技術レベルでは、結局の所発電機を回すのが一番エネルギー効率が良いのだ。

 他の発電方法も無い事は無いのだけど、巨大な電力を生み出すにはどれも力不足なんだよね。


 「それでどの国も必死に魔法を解析しようとしておるんじゃ。まあ、時間の無駄じゃがな。」

 「時間の無駄なの?」


 お婆さんの考えだと、この地球には魔力を発動するのに必要な何かが足りないらしい。

 じゃあ、お婆さんは何で魔法を使えるのかというと、その何かを持っているのだそうだ。

 お婆さんの体から出てくる妖精もそれを持っている。だから、妖精の入っている道具が有れば、魔法を行使出来る。

 だけど、それ以外の人間には魔法は使えない。

 そして、今の地球人ではその何かを突き止める事は出来ないだろうと、お婆さんは考えている。


 それでも良いと言うので、気の済むまで好きな様に研究をさせているそうだ。

 え? 誰がそれでも良いって言っているのかって? そりゃあ、政府げふんげふんだったり、政府の息の掛かったげんふげふん企業体だったりするんじゃないかな? 知らないけど。


 対価としてお婆さんは莫大な富と治外法権的な不可侵の身分を与えられているっぽい。

 何でそんな特別待遇になっているのかと言うと、誰もお婆さんを拉致したり拘束したり監禁したりする事が不可能だから。

 本当は、お婆さんに好き勝手に国外へ移動して欲しく無いんだろうなー。


 ちなみに、DDは政府からお婆さんのお目付け役に任命された、スーパーエリートらしいですよ。

 ピートは、そのお婆さん監視組織(仮名 の、実働部隊の構成員の一人だそうだ。

 お婆さんが勝手にDDをCEO、ピートをCOOに任命しちゃったんだけどね。二人の人生も、本当に波乱万丈だよね。


 で、話が脱線しまくっているんだけど、あの産業スパイの男の盗み出した機密っていうのも、盗られた所で再現は出来ないだろうなーというのがお婆さんの見立てらしい。

 重要機密が盗まれたっていうのに、お婆さんがこんなに呑気にしている理由はこれか。

 まだお婆さんが協力しているここの研究施設が、可能性は限り無く低いけど一番マシだろうと言う所みたい。


 「成る程ね、だから世界中でお婆さんの取り合いに成っているのか。」

 「全く、迷惑な話じゃよ。」


 敵が狙っているのはお婆さんじゃん? あれ? 私の役割って何だっけ?

 確か、囮だよね?

 何の囮だっけ? 敵の持っているアーティファクトを取り戻すために、何処に潜んでいるのか分からない敵に目を付けられる様に派手に活動して目立つ事だったよね?

 敵に目を付けられたら、逆にこちらのエージェントが敵の組織を特定して、敵の所持しているアーティファクトを奪取する、と。


 あのスパイの男をマークしていれば、敵と接触するから1つは見つかるよね。

 期せずして私の役割をやってくれたみたいなもんか。


 「あのさ、お婆さんはアーティファクトに入っている妖精さんの居場所は探知出来ない訳?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る