第20話 楽しいお買い物
ドラ○もんの便利な道具だって、戦争に使おうと思えば超兵器だもん。
シェスティンお婆さん、人間の業の深さにはがっかりしただろうね。
「ところでドロシーや、お前さん空間扉を開けるのかい? あれは私の居た世界でも限られた人間しか出来なかったというのに。」
「うん、なんかお願いしたら出来た。」
「なんと! これは想像以上の逸材じゃったわい!」
なんだか、あの空間扉という魔法は、想像以上に凄い魔法なんだって。
この魔法が有れば、地球上の何処だって自由自在に行き来出来るし、時間も移動出来るんだとか。本当かな?
だったら、シェスティンさんは過去に戻って悲しい出来事を無かった事にしてしまえば良かったのよ。
そう言ったら、それをすると、その時点から世界は分岐して別の平行世界に成ってしまい、今この世界での幸せだった事象も消滅するかもしれないそうだ。
つまり、ある気に入らない出来事だけを消去して、その事実だけが無くなった世界にする事は出来ないのだという。
ある不幸な出来事に端を発した幸せという物も存在するのだから。
全部鎖の様に繋がっているんだ。
ストッキングの伝線の様に、ある場所の糸が切れれば、そこに繋がっている全部が綻びて行ってしまう。
ちょっと不謹慎かもしれないが、ある者の不幸はある者の幸せであったりするからだ。
ある残虐な独裁者の失脚は、市民にとっては幸福だという様な事例だね。だけど、その残虐な独裁者は、家庭では良い父親だったりする。とても難しい。
戦争は、勝った方が正義、負けた方を悪とされるが、実際はどちらも正義の為に戦っているんだ。それぞれの正義と正義のぶつかり合いなんだよ。
勝った方はそのまま正義は勝つ! で幸せかもしれないけれど、負けた方は自分達の正義が踏みにじられて不幸だ。
正義と悪、幸と不幸は表裏一体なのだから。
だから、あの出来事は悪だと決めつけて、過去に遡って消去してしまうと、その出来事の上に成り立っていた正義も消滅してしまう可能性が有るんだ。
もっと神様みたいな遥か上空から視点で、人間の歴史なんて知ったこっちゃねーわ、種として存続していればオッケーでしょう、ポイーっとやっちゃえる存在でもないと、人間如きがおいそれと時間軸を弄るのは難しいのかもね。
「UKの自宅から、USAの大学に通う事も可能じゃぞ。もう連中に捕まる事も無いじゃろうからのう。」
「確かにそうかー。あ、でもそれすると他の人に説明するのが面倒にならない? アメリカの学校に通っていると言っても、ずっとこっちに居るじゃんとか言われたら、どう説明しよう? それに、今自宅に戻ると家族に危害が加わりそう。」
「それもそうじゃのう…… よし、私の使っている拠点が幾つか有るから、好きな所へ住まわせてやるぞ?」
「やったー! ありがとう、お婆さん!」
「ほっほっほ、良い良い。」
私は思わずシェスティンお婆さんの首に抱き付いてしまった。
DDが反射的に動こうとしたのだが、お婆さんがそれを手で制し、笑顔で受け止めてくれた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
シェスティンお婆さんが用意してくれたのは、大都会の中の高層アパートの一室。
ここは、前のペントハウスとは違って一般の人も住んでいる超高級アパートだ。
一般の人といっても、このクラスのアパートに住めるのは、かなりのセレブだと思うんだけどね。
リビングの広さなんて、どんだけよ? うちの家がまるごと入っちゃうんじゃないの? 天井の高さ何メートルよ。高級ホテルのロビーに有るみたいなでかいシャンデリアが下がってるんですけど? ソファーはカッシーナかー…… 調度品が全部高そうなアンティークだし、うわ、食器が全部ウェッジウッドで揃えられてる。カトラリーはマッピン&ウェッブ、グラスはブライアーグラスですか? 触るのも怖いわ!
「ここから飛び立ったら、また敵に察知されて滅茶滅茶にされちゃわない? 損害額が幾らに成るのか考えるだけでも怖いんですけど!」
「そこで空間扉じゃよ。」
「?」
つまり、ここから何処かへ転移して出動すればいい。帰る時は、何処かからここへ転移して来ればいい。
やだもー、魔法便利ー。
「じゃあさ、フロリダの某テーマパークも一瞬で行けるよね? 妖精さん。」
【…………】
「何で何にも言ってくれないのー!?」
【場所が分かりません】
「ああ言い忘れておったわい。その空間扉な、行った事のある場所しか行けぬぞ。」
「ええー!? 何でー?」
「一度行かないと、座標を特定出来ないのじゃ。」
「なんだもー、意外と不便だな。あ、でも帰省の時と日本へは行けるな。」
「暇な時にでもあちこちへ足を伸ばしておくと良いじゃろう。」
「シェスティン様、次のご予定の時間です。」
「おおそうか、DDや、有難うよ。」
シェスティンお婆さんは、空間扉でDDと一緒に帰って行った。
この広い部屋の中には、私とピートだけが取り残された。
「今度のピートは、どういう立場になるの?」
「今度のピートって何よ。ルームメイトよ。メイドという設定は外れたわ。」
「なぁんだ、じゃあ、ピートのあの美味しい料理はもう食べられないのかー。」
「いえ、ここには使用人は居ないから、食事は自炊よ。家事の分担を決めましょう。」
「こんなお城みたいな豪華な部屋なのに、自炊っていうのはどうなのよ。」
ここで私はティン! と閃いた。
そうだよ、食事も服も魔法で出せば良いんじゃん!
「駄目よ。あれ、
言われてみればそうだった。
バレなきゃ良いじゃん、いやいやモラル的に不味いでしょう。
私の頭の上で悪魔の私と天使の私とが喧嘩している。あ、天使が勝った。
そりゃそうだよね、窃盗はマズイよ。そのうち金が欲しいなんて考えだしたら最悪だよ。
「じゃあ、食事とその他の家事の掃除洗濯、それを分けて一日交代にしましょう。」
「いや待って、イギリス人のあなたに食事の担当をさせるのは、恐怖を感じるわ。食事は私、掃除洗濯はあなたでいきましょう。」
失礼な! しかし、おでん缶の実績がある私には、彼女の意見を否定する事は出来なかった。
約束通り、ピートは食事の用意を始めるのだが、私はまだ特に部屋は汚れていないし洗濯物も無いので、ソファーに座ってその様子を観ていた。
「ねえ、家政婦雇わない?」
「駄目よ、私達秘密が多いんだから。」
「それもそうか……」
ちょっと食材の買い出しに行ってきますと言って、ピートはエレベーターで降りて行った。
なんと、うち専用エレベーターだよ。流石超高級アパートメント。
そんな事に関心して居たら、ポーンと音がしてエレベーターのドアが開いた。
「あれ? もう戻ってきたの? お財布でも忘れた?」
「ちょっと一緒に来て。」
ピートが私の手を引っ張ってエレベーターに乗せられた。
1階に着いてプライベートエリアの自動ドアの外へ出ると、そこは巨大なショッピングモールだった。
「うわお! 何これ!?」
下層階は、超高級ショッピングセンター、中層階はオフィスフロア、上層階がセレブ専用の居住階に成っていたらしい。そして、地下階は、食料品フロア、その下が駐車場フロア、更にその下は地下鉄に直結と、なんか一生このビルから出なくても生活出来ちゃいそうな作りになっている。
「ヤバイわ。足が退化しそう……」
地下食行って更に驚いた。何この値段。メロン1個800ドルって何? 頭おかしい。
「ねえちょっとピート、もっと庶民向けの市場へ行かない?」
「何言ってるの、慣れなさい。私達は今そういう生活をしているのよ。」
目の焦点が合って無いわよ。値札を見ないでカートのガゴにポンポン食材を放り込んで行くの怖い。
って、いやあぁぁぁl! あのメロンに手を掛けたー!
「ピート! ピートってば! 正気に戻って! お金持ってるの!?」
「だだだ大丈夫なのよ。わわ私達の生体認証で、おおおお会計は勝手に済んでしまうの。」
何それ怖い。どんな魔法だよ! こらピート、こっち見なさい! 冷や汗が凄いわよ!
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