第19話 VS
しかし、それにしても視界が悪すぎる。
まるで地上部分だけが暗くなっているみたいに……
「はっ! ミラー!」
【Roger(了解) 光学魔導起動
DDの周囲の空間がキラリと光った瞬間、地上の三方向から銀の直線が伸び、その空間へ入って元の方向へ反射させられた。
レーザーは、コンクリートの床へ当たり、小さな穴を開けた。
「やるわね、それぞれ元の方向へ正確に反射するなんて。」
「あなたこそ、レーザービームの発射地点に留まっていなかったのは流石だわ。」
「電撃発射。20万ボルト、0.1ミリアンペア……」
「レーザーと赤玉同時発射!」
この何も無い空間では、床から突き出ている物体である人間は、格好の落雷目標だ。
だが、DDは電撃の強度を調節する為に命令を正確にし過ぎた。
そのため、命令の文言が長くなり過ぎ、ピートの命令の方が素早かった。
「電撃解除、ミラーとバリアー!」
慌ててレーザーを反射する。
言葉にすると、レーザーを見てから切り替えたみたいに誤解するかもしれないけど、光速のレーザーを見てから避けるのは不可能だよね。
実際はピートの命令から発動までのタイムラグの間に素早く切り替えた感じ。DDの反応速度は早かった。あれは相当訓練しているね。
ガメラじゃないんだから、光った避けたぞゴーゴーゴーって訳にはいかないよね。
「想定の範囲内よ!」
ピートは、今の攻撃も防がれるのは織り込み済みだったらしい。
煙幕の煙を魔力で移動させて、DDのバリアーを包み込んでしまった。
DDは、浮上術の他に、ミラーとバリアーを強制的に使わせられてしまったので、合計3つだ。煙を除去する余力は残っていない。
どうする? 煙だからって馬鹿に出来ないんだぞ。火災の際に死傷する確率は、直接火による火傷以外に、煙を吸い込んだことによる窒息が多いんだ。
DDは、浮上術を解除して落下して来た。
そうだよね、その3つの内で1つ解除するとしたらそれだよね。
ゴトンという音がして落下したけど、バリアーに守られているのでDDに怪我は無い。
しかし、バリアー内に充満してしまった煙を排出するには、バリアーも解除するしか無い。
「ごほっ! ごほっ!」
バリアーを解除し、ピートと距離を取ろうと後ろへ飛び退いたDDは、激しく咽ている。
その隙きを見逃すはずも無く、身体強化したピートは素早く走り寄り、背後へ回ってDDの首へ腕を回す。
DDは格闘術の基本通りにその腕を払い除け反撃しようとするのだが、身体強化されたピートの力にかなうはずも無く、敢え無く降参した。
「実践で鍛えた現場の力を舐めるんじゃないわよ。」
「ごほっ、別に舐めてなんて居ないわよ。私は魔法の使い方を指導するように仰せ付かったのに、あなたは魔法以外も使うんだもの。」
「そりゃあ、実際の戦闘では使えるものは何でも使わないと生き残れないもの。」
確かに、魔法だけを使って模擬戦闘をするとは言っていなかったからね。
DDは、魔法の使い方を指導するつもりだったのに、ピートがガチの模擬戦だと勘違いしちゃったせいだ。
「まあいいわ、魔法の使い方に関しては特に問題は無さそうですし。ドロシーは今の模擬戦を観ていて、何か感じたかしら?」
「うーん、そうですねー。ピート凄いと思いました。」
「え、ええ、そうね、彼女凄いわね。」
DDは、聞いた私が馬鹿でしたとばかりに眉間を押さえた。
ピートの戦闘スタイルは、もうあれで良いんじゃないかな。魔法は補助程度に使えれば十分な感じだよね。
次は私の番か。
「ドロシー、次はあなたの魔法の使い方を見せて。あ、言っておくけど、魔法のみで戦う事。」
「心配しなくても、私はピートやあなたみたいに戦闘訓練は受けていない、極普通の女子大生ですから。」
訓練場の真ん中で少し距離を置いて私はDDと向き合って立ち、ピートの始めの合図で試合開始だ。
「では、よーい、始め!」
おや? 今度は飛び上がらないのかな? まあ、どっちでも良いけど。
「変身術。」
【Roger(了解) 変身術起動】
「身体強化術。」
【Roger(了解) 身体強化術起動】
私は変身術を、DDは身体強化術を使った。
DDは私が何故もう一度変身術を使ったのか分からない様だった。
「ゴムゴムのー、なんとか!」
ドゴーン!
DDが吹っ飛んだ。対して鍛えてもいない私のパンチで。
人間って、パンチとかの攻撃が当たる瞬間って、身構えたり体に力が入ったりして、無意識にダメージを軽減しようとするのね。
実際、筋肉に力を入れて固くする事によって、痛みを軽減したり衝撃を内部まで伝えない様にしたり、踏ん張る事によって転んで追加のダメージを喰らわない様にしてるわけ。
だけど、想像もしていない方向から不意のパンチを食らったりすると、普通なら耐えられる程度のパンチでもノックダウンされてしまったりする。
今正にそれが起こったのだ。
床に尻餅を突いて頬に手を当ててポカーンとした顔をしている。
「……何よ今の?」
「腕を伸ばしてみました。」
ちょっとやってみたかったんだよね。腕伸びたら便利そうだから。
DDは、この距離で届く筈の無いパンチが届いた事にビックリしていた。
「そ、そんな馬鹿な使い方……」
「? 変身術って、体の形を変えられる魔法だよね?」
変身術っていう位だから、自分以外の他の人に変身したりする魔法であって、人間以外の形に変身するとは思っては居なかったのだろう。完全に思い込みで、自分で作り出した常識に囚われてしまっていた為に、DDは一発を貰ってしまったのだ。
「い、今のは無しです! もう一度。」
「でも今のって、ドリーが武器を持っていたらDDは死んでいたよね?」
ピートがニヤニヤしながら煽る煽る。DD悔しそう。
「良いですよ、もう一度やりましょう。」
可愛そうなので私が上から目線で助け舟を出す。
DDちょっと複雑そうな表情。
「では改めて、よーい、始め!」
ピートの始めの声を聞いた瞬間、DDは後ろへ飛び下がった。もう二度と同じ手は喰らいませんよって事か。
そして、身体強化によるスピードでジグザグに走り回る。
速いな。ピートよりも速いかも。目で追うのがやっとだよ。
「DDの右の靴とバケツを交換。」
【Roger(了解) アポーツ 靴とバケツを交換】
ガランガラガラ、ドシャーン!
「ぷっ!」
ピートが吹いた。
片足をバケツに突っ込んで派手にコケたDDが、顔を真赤にして怒りの表情をしている。
「頭の上に
【Roger(了解) アポーツ
カーン!
これは、音の割に痛くないやつ。
「なっ、なっ!」
頭を擦りながら言葉に成らない声を発してブルブル震えている。
「真面目にやりなさーい! これは訓練なのよ!?」
DDが、常に沈着冷静なキャリアウーマンっぽい表情をかなぐり捨てて、遂に怒り出してしまった。
「あははははは、DDや、お前さんの負けじゃ。」
空間からシェスティンお婆さんが笑いながら姿を表した。
ずっと隠れて観ていたのかな?
「し、しかしですね、シェスティン様。この様な巫山戯た魔法で……」
「この娘の魔法の使い方は本当に面白い。空想力が豊かなのじゃ。戦闘用に使う事ばかりを考えているお前さんらでは思い付かん事をしてくる。」
そして、DDがクールダウンして来るのを数秒待ち、話を続けた。
「私はな、最初こういう楽しい使い方をしてくれるのを期待して、これらの道具を作ったんじゃ…… 生活をちょっと便利にしたり、他愛も無い悪戯をしたり、とかな……」
お婆さんは、昔を思い出したのか、ちょっと寂しそうな顔をした。
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