第18話 模擬戦闘訓練
「では、あなたは宝珠に導かれし
「その呼び名は頭の中からデリートして下さい。」
「え?」
「ノイータとだけ、お願いします。」
私の真剣に懇願する目を見て、DDは『わかったわ』とだけ言って言い直してくれた。
「では、ノイータへチェンジしてみて。」
「はい、ノイータへ変身。」
【Roger(了解) 塑性加工術起動 変身術起動】
私の着ていた服は、真っ黒なゴスロリ衣装へ変わり、髪と化粧も変わった。
それを見て、DDはすぐに問題点を指摘して来た。
「あなた、何故塑性加工術と変身術の2つを起動するの? 姿を変えるだけなら、変身術だけで可能なのよ?」
「えっ? そうなの!? 玉に任せっきりだったから、良く分からないんだけど……」
「いいわ、ちょっと見てて。」
DDは、自分の左腕に巻いているリストウォッチに向けて命令を発した。
「バトルモードへチェンジ。」
【Roger(了解) 変身術起動】
キャリアウーマンっぽいスーツ姿がピチッとしたつや消し黒の戦闘用スーツへ変更され、髪色も瞳の色も変わった。
「どうかしら? 身バレを完全に防ぎたいなら、顔貌、身長や体型まで、なんなら人種だって変える事も可能よ。」
「えー!? マジで? 化粧に悩む必要も無かったんじゃん。」
DDの説明によると、変身術は自分自身と自分が触れている物体の姿を自由自在に変更する事が出来る魔法なんだそうだ。服は身に着けているのだから、変身術で変更出来るらしい。
じゃあ、塑性加工術というのは何かというと、それ以外の物体の形状変更なんだとか。
よく違いが分からないのだけど、変身術は、魔法を解除すれば元に戻ってしまうが、塑性加工術は戻らないんだって。
私は、ノイータの姿を作る時に、最初に塑性加工術で服を変え、その後に思い付いて髪や化粧を変身術で変えて完成形にしたから、玉の妖精さんは、そのプロセスを忠実に記憶してしまっているんじゃないかな?
「服と容姿を別魔法で変えているから、変身や解除のプロセスがもたつくのよ。統一した方がいいわね。」
塑性加工術で変更した物を元に戻すには、再加工というプロセスが必要に成ってしまうので、ノイータに変身したりドロシーに戻ったりを素早く切り替えたいなら、変身術を使った方が適切だろうという事だった。
成る程ね、確かにそうだわ。
「どうすれば統一出来るの?」
「一度、改めて変身術だけでその姿を作れば、記憶されるはずよ。」
「そうなんだ!? じゃあ、玉の妖精さん、次からは変身術だけでおねがいね。」
【Roger(了解) 次からは変身術だけで行います。】
今のやり取りを見て、DDが目を丸くしている。
どした? 私何かおかしな事した?
「いやいや、私は一度改めて変身術で作れば、って言ったのよ。それを言葉だけで変更可能だなんて。まるで、道具と会話しているみたいに見えたわ。」
「え? 簡単な会話なら出来るよ。知らなかった?」
DDは考え込んでしまった。
あれ? どっちが教える立場なんだっけ?
そして、自分のリストウォッチに向けて小声でボソボソ呟いている。
「あなた、会話出来たの?」
【少しだけ】
DDは、一瞬だけパアッと嬉しそうな顔になった。
私達の視線に気が付いて、直ぐにキリッとした顔に戻ったけど、私は見逃さなかったぞ。
「だからね、友達に話しかけるみたいに結構曖昧なお願いをしても、妖精さんが考えて出来る範囲でかなえてくれるんだよ。」
「ええー……」
「なんて事かしら、シェスティン様はそんな事教えてくれなかったわ。」
「私だって教えてもらって無いよ。自分で色々やってみてみつけたの。」
うーん、なんだろうね、シェスティンお婆さんは作った本人で何でも出来ちゃう人だから、初心者がどういう所で引っかかるとか分かってないのかもしれない。
よく、天才は最高のコーチには成れないって言うでしょう? それだよ。
何でも苦労せずに初めから出来ちゃう人は、出来ない人の苦労なんて分からないんだよ。何でそんな簡単な事が出来ないの? って思うらしいよね。
いや、敢えて何も言わない事で、自分なりの使い方を見つけて欲しいと思っているのかもしれない。
「型通りにばかり訓練してないで、自分で色々弄くり回してみなさいって事なんだと思う。」
「戦闘訓練とは全く逆の事を言われてしまったわ。」
ピートからツッコミが入ってしまった。でも、これに関しては私の言っている事の方が正しい自信はあるぞ。
これは道具と言っても、道具扱いするとヘソを曲げる位の意思が宿っているのだから。
「ふうん、私がレクチャーするよりも、あなたは好きにさせた方が良い結果を生みそうね。そっちのあなた!」
「は? えっ? 私?」
ピートは、いきなり指名をされてびっくりしたみたいだった。
「あなた、私と模擬戦闘をしなさい。ドロシーはそこで見学して居て頂戴。後で意見を聞くわ。」
「はあ? エリート様が現場の人間を舐めてるのかしら? 痛い目見るわよ?」
私は興味津津で見学させてもらう事にしよう。
実際、ピートだって私から見たらエリートの部類なんだけどな。一緒に生活してみて、その一般人とは違うスペックの高さには驚かせられたもん。
「そう敵意を向けられても困ります。模擬戦闘ですから、ちゃんと手加減しますよ。」
「そういう態度が腹が立つのよ。」
「では始め!」
私の合図で二人は同時に魔法の起動命令をする。
「リフター!」
【Roger(了解)
「身体強化!」
【Roger(了解) 身体強化術起動】
DDは空中へ飛び、ピートは身体強化魔法で地上を走る。
普通に考えると、上を取った方が有利だ。だけど、身体強化魔法は変身術と一緒で、一度魔法を掛けて状態を変更した後は、僅かな魔力の供給だけで状態変化を維持出来るのに比べ、
つまり、何が言いたいのかというと、空を飛ぶと魔法を1つ使ってしまっている状態だという事。
ピートは、上を取られる不利と魔法を3つ使える有利を天秤に掛けて、魔法3つの方を選んだのだ。
ピートは、広い施設内をジグザグに走り回る。
身体強化による走行スピードは凄い。高速道路を走る自動車位の速度は出ているんじゃないかな?
これではDDも狙いを付けられないのでは?
「レッドボール2発発射」
【Roger(了解) 赤玉2発起動 発射】
DDは、上空から爆撃を開始した。
レッドボールは、対象物に当たった後に爆発するので、地上の動きを制限するのには都合が良い。
床面に爆煙がもうもうと立ち込める中、その更に上の空間に滞空し、DDは地上の様子を観察する。
煙が晴れるのを待って、更に追撃を加えようと考えていたのだが、おかしい、変だ、煙がなかなか晴れない。
ピートの姿を見失ってしまった。火薬の爆発でも無いのに、こんなに濃い煙が立ち込める筈は無いのに。
「ははっ! 魔法以外の物を使っちゃいけないなんてルールは無いからね。」
ピートはポーチから取り出した発煙筒を焚いていた。
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