第17話 ディーディー

 「私はな、世界中を回って彼女と似た、神聖な魂の持ち主を探し回っておったのじゃ。」

 「それが私? 神聖 な魂だなんて、そんな、照れるな。」

 「お主の性格は関係無いぞ。魂魄のエネルギーに含まれる、ある欠片のピースが良い具合に揃っている人間という意味じゃ。」


 なんだよもー、上げて落とすなよー。


 「それで? その彼女は今どうしてるの?」

 「ああ、神になったな……」

 「はあ?」


 このお婆さんの話は、全く何処までは本当なんだか。


 「その、ある欠片が揃っている人間というのが私という事なのね。それが揃っているとどうなるの?」

 「妖精を自由自在に扱える様になるぞ。」

 「つまり、この玉のパフォーマンスを最高に引き出せるというわけね。」

 「飲み込みが早くてよろしい。」


 今現在現存している旧アーティファクト、アーティファクトに旧って言うのもおかしな話なんだけど、お婆さんが最初に作ったシリーズの事ね。

 これは、その欠片というものを持たない普通の人間でも扱える様に、使用権限を持たせない代わりに性能はそこそこなんだって。


 つまり、製作者であるお婆さんが、人の命令を聞きなさいと予め命令を与えている為に、あくまでも命令者はお婆さんだという事になっているのだそうだ。

 本来ならば、そのナントカの欠片を持っていない人間には扱えない物を、裏技的に使える様にしている状態みたい。

 上司が、仕事の出来る先輩OLさんに後輩の仕事を手伝ってやりなさいと命令しているみたいなもので、先輩はそれほど本気を出していない、みたいな感じなのかな?


 アーティファクトは回収して、その命令を解除してしまうか妖精さんを抜き取ってしまえば、もう使えなくなってしまうのだそうだ。

 私の持っている様な新型、新型と言っても古いものは200年以上前らしいのだけど、そのナントカの欠片を持っている人しか扱えない代わりに、最高のパフォーマンスを発揮出来る様に成っているのだという。

 万が一許可した人間以外に奪われてしまった場合を考えて、様々なセーフティーを施してあるというのは、前に話した通り。爆発するというのもその1つね。

 だけど、人間は悪知恵が回るというか何と言うか、更にその裏を掻く方法を見つけて来るので、いたちごっこなんだって。


 「つまり、私が魔女やっているのは、最初から仕組まれていたという事か。」

 「すまぬな、最初からお前さんには目を付けておった。」

 「何時頃から転がされていたのかな?」

 「お前さんが生まれた時からじゃよ。」


 マジかよ。

 精々アキバでペンダントを拾った時あたりからだと思っていたのに。生まれたときからコロコロされていたとは。


 「私、ちょっと怒ってますよ。」

 「すまぬな、どう接触しようか考えておってのう。じゃが、お前さん、子供の頃は魔女に成りたがっておったじゃろう?」


 う、それは子供の頃の他愛無い妄想っていうか、いや、今でもちょっと…… いやいや、実際魔法使える様に成って嬉しかったというのは嘘じゃないんだけどさ、何だこのモヤモヤ感は!


 「それで、私にやらせたい仕事って何なの?」

 「道具アーティファクトの回収を手伝って欲しいのじゃが…… 特に何もしなくても良いぞ。」

 「え? どういう事?」

 「お前さんは、それを使ってただ派手に暴れ回ってくれるだけで良いのじゃ。」


 あー、成る程。私は体の良いデコイってわけか。

 身の危険が有る分、報酬は欲しい所だけど、さっき断っちゃったしなー……

 仕事を断っても良いけど、魔法の玉は返却って事に成るのか。なんか、すっげー悪どいヤクの売人みたいな商法だぞ。最初は無料で配っておいて、それ無しには居られなく成ってから取引を持ちかけるってさ。ヤバイよね。


 「うーん、これは悩ましい取引ですねー。」

 「今直ぐ返事をくれなくても良いぞ。よく考えると良いじゃろう。もし引き受けてくれるなら、無報酬という訳にはいかぬから、そうじゃのう……寸志位は出そうかのう。それで良いか?」

 「よし! 引き受けた!」

 「お? 一晩位考えなくても良いのか? 引き受けてくれるのは嬉しいが。」

 「うん、だって二択だもん。魔法を使えない平凡な人生を送るか、ワクワクドキドキを取るかなら、後者を選ぶ他選択肢は無いよ。」


 お婆さんはとても喜んでいた。

 魔法使いでもどうにも出来ない事ってあるのかもね。

 人の心は魔法でもお金でもどうにもならないか。いやまて、どうにもなっちゃったぞ、私。まんまとハメられたか?

 お婆さんは、私の顔を見てニヤリと笑った。


 「DDや、この娘に魔法の使い方をレクチャーしておやり。」

 「はい、畏まりました、シェスティン・セイラー様。」


 ふうん、お婆さんの名前は、シェスティンって言うんだ。


 「あの! 私はどうしたら良いんですか?」


 おおう、ピートの事を、まるっと忘れていた。こんな所へ呼びつけられておいて、びっくりする位蚊帳の外だったわ。


 「お前さんはもう用事が済んだから下がって良いぞ。」


 うわ、冷たい。だったら何でここへ連れて来たし。

 末端の職員と言う割には大事な話を最初から最後まで聞かせちゃって、何か意図が有ったんじゃないの?


 「お前さんはここの職員じゃろう? 給料を貰って働いておるのじゃないのかい?」

 「はい、その通りです! 御用が無ければ、私はこれにて失礼致します!」


 ピートがキビキビとした所作で敬礼をして退室しようとしたのをお婆さんが引き止めた。


 「お前さんには特別に任務を与えたい。」


 シェスティンお婆さんは、私達が双子から取り上げたアーティファクトをテーブルの上へ置いた。

 1つはクラシックなデザインの鍵と、もう1つは刃渡り10センチ位の素朴な作りのナイフだった。


 「こっちの鍵は私の大事な物でな、ずっと探しておったのじゃよ。取り返してくれてとても感謝しておる。そこでじゃ、感謝の印として……」


 シェスティンさんは、鍵の方を自分の首に掛けて仕舞い、ナイフの方を革のシースから抜くと、刃を上にして左手に持ち、右手の人差指で刃の先端を軽く弾いた。

 ピーンと軽い音がして、見ているとナイフから光の玉の様な物が抜け出てシェスティンさんの体の中へ入って行った。


 「これでもうこのナイフは魔法を使う事は出来ない。お前さんの何か大事な物をお出し。」


 ナイフを鞘に収めると、左手をピートの方へ出して言った。


 「えっ? 大事な物、ですか?」

 「何でも良いよ。何時も身に着けている、小さな物がいいね。」


 ピートは少し考えてから、手を首の後へ回して服の下に掛けていた銀の十字架のネックレスを引っ張り出した。


 「母の形見なんです。」


 シェスティンさんはそれを無言で受け取り目の前に掲げると、体から3匹の光る妖精が飛び出した。

 妖精達は、ネックレスを確認する様に飛び回っている。


 「お前達、この娘意外の命令は絶対に聞くんじゃないよ。もし、他人に取り上げられる様な事になった時は、直ぐに抜け出して戻っておいで。」


 妖精達は、頷くとネックレスのペンダント部分にすっと入って行った。


 「絶対に取られるんじゃないよ。期間限定のレンタルじゃ。」

 「あ…… ありがとう、ございます。」


 ピートは、キョトンとしてネックレスを受け取った。


 「お前さんは欠片を持っていないので、本来の性能は出せないじゃろうが、無いよりはましじゃろう。」


 「それじゃDD、後を頼むよ。」

 「はい、畏まりました。ではあなた達は私に付いて来てください。」


 シェスティンお婆さんは、CEOの椅子へ座り、私達二人はDDの後へ付いてエレベーターに乗った。

 エレベーターに乗ると、DDは鍵を取り出し、階数のボタンの並んだパネルの下の方にある鍵穴に挿して捻った。

 すると、エレベーターは地下駐車場の階を越えて、更に下がって行く。

 地下駐車場を過ぎてからの時間経過を考えると、ビルの十数階分の高さを降りたのかも知れない。

 エレベータのドアが開くと、そこは何も無い、だだっ広い空間だった。

 前後左右の幅は300メートル、天井の高さは40メートルは在りそうだ。大型の旅客機の格納庫みたいな空間だった。

 こんな広い空間の中へ放り出されると、何と言うか本能的な恐怖感があるのは何でだろう?


 「ここは?」

 「地下の演習場よ。偵察衛星から見られる訳にはいかないので。」


 よくもまあ、こんなものを作ったものだと感心させられる。

 演習場と言われたけれど、何の? と聞くのは野暮だろうな。ここは道具アーティファクトの演習場なのだろうね。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る