第16話 CEO
「えーと、私、あなた達の秘密基地(笑 に連れて来られちゃった訳なんだけど、学校には通わせて貰えないの? 軟禁されちゃうのかな?」
「そんな事しないわよ。うちのボスに会ってもらうの。」
「ボスってどんな人なの?」
「それがねぇ、会った事無いのよ。だから、私も楽しみなの。なんでも、組織でも上の方の3人しか会った事無いらしいわ。」
役員専用の直通エレベーターに乗せられ、途中階に止まる事無く最上階へ。
エレベーターの扉が開くと、もうね、廊下の雰囲気からして全然違うの。廊下なのに、毛足の長い絨毯が敷いてあるんだよ。
エレベーターから降りると、ドアの横には高そうなブランド物のスーツをピシッと着こなした女性が立っていた。
女性は、にっこりと微笑むと、
「DD《ディーディー》です。CEOがお待ちかねですわ。こちらへ。」
「ドロシーです。」
「ペイトロゥニーリャです。」
私とピートが握手をすると、女性は先に立って歩き出した。
私は、握手した感じでこの人は強いのだろうなと思った。だって、女性の手にしては握力が強く、何かの武術の達人みたいにタコでゴツゴツしていたから。
この人は秘書と名乗ったけど、きっとボディーガードなんだろうな。
私達は、DDと名乗る女性の後ろへ付いて長い廊下を歩いて行くのだが、廊下のふっかふかの絨毯が、想像以上に沈み込み、歩き難い。
この絨毯へダイブし、寝っ転がりたい衝動を理性の力で強引にねじ伏せつつ暫く進むとと、廊下の突き当りのどっかのショールームの入り口かと思う程の大きなガラスの扉の前に連れて行かれた。
その扉が音も静かに自動で左右に開くと、カウンターが有り、二人の女性が座っている。
私達の姿を認めた右の一人がカウンターの受話器を取ると、私達の来訪を中へ知らせる。
女性はもう一人に目配せしすると、左の人が『こちらです。』と横の扉を開けて中へ案内してくれる。
DD、ピート、私が部屋へ入ると、扉は後ろで閉められロックが掛けられる音がした。
そして、正面の机の向こう側に座っている老人の顔を見た途端、ピートは銃を抜いた。
DDは素早く反応し、その銃を叩き落とそうとしたのだが、私の
私が事前に、私とピートを危険から守る様に玉に命じておいたのだ。
DDは忌々しそうな顔をして懐に手を差し込もうとするのを、老人は手で制し立ち上がった。
「あっ! お婆さ……」
「1号! 何故此処に居る!」
私の呼びかけを遮る様にピートは声を張り上げた。
「まあそう警戒しなさんな。説明してあげようじゃないか。そこのソファーへお座り。」
お婆さんの勧めで、私達は応接セットの方へ移動して座る。
DDは、お婆さんの後ろへ立ったまま、私達の動きに注意を払っている。少しでもおかしな動きをしたら、ただじゃ置きませんよって目をしている。
「銃を降ろしなさい。そんな物が私達に効かない事は良く知っておるじゃろう?」
お婆さんはにこやかに言うが、ピートは敵意を隠さない。
しかし、銃が効かないのは事実なので、渋々銃を仕舞った。
「武装を解除しないで此処へ連れて来た意味を察しなさい。」
DDに冷たい目線を向けられ、そう言われた。
言われたピートは、ぐぬぬという顔をしている。
「ねえ、お婆さんは何故此処に居るの?」
話が進まないので、私が口を開いた。
「だって、ここは私の会社じゃもん。」
「「はあ!?」」
私とピートは、間抜けな声を上げてしまった。
「えっと、ピート達の組織のボスはお婆さんで、お婆さんは自分の組織に追われているって事?」
「私は身を隠しておるからのう、建前上はそう言う事にしておる。まあ、末端の方は本気で信じとる者もおるじゃろうのう……」
「末端……」
私はピートの顔を見た。
「な、なによ! 末端で悪かったわね!」
ピートが不貞腐れている。
「で、この組織って、株式会社なわけ?」
「ぷっ! あははははは!」
私の頓珍漢な質問に、お婆さんは思わず吹き出した。その後ろでDDも笑いを堪えている。
「馬鹿ねー、隠れ蓑に決まってるじゃない。それと、資金源?」
味方だと思っていたピートに馬鹿にされた。
そっか、どんな組織だって、お金が無ければ活動出来ないもんね。
「こんな大きな会社持ってるんじゃ、ビルの1つや2つ使い捨てにしても屁でもないのかー。」
「この会社だけでは無いぞ。あと10幾つかの会社をもっておるぞ。」
「マジか。」
私はてっきり政府の秘密機関だとばかり思っていたよ。
「ああ、政府も関係あるぞ。じゃなければ空軍基地なんて使えんじゃろう。じゃが、国民の税金をこんな私事に使わせる訳にはいかんからの。資金位は自分で稼いでおるよ。」
財界の影の
一国の政府位、小指で動かしちゃいますってか。
「まあなぁ、この国が出来る前から関わっておるからのう。多少は融通効かせてもらっておるわ。」
この人本気で言っているのかなぁ?
うーん、でも本当に魔法使うし、結構本当の事? それとも、そういう一族の歴史を、自分の事の様に喋っているだけなのかな?
まあ、そこはまあいいや。
問題は、私が何でこんな面倒事に巻き込まれちゃっているのかな? という事。
最初は魔法を使える事に舞い上がっちゃってたけど、その対価に自分の命を差し出さなければ成らないっていうのは、まるで悪魔と契約したみたいじゃない。
常に生命の危険に晒される生活は、嫌だよ。
「じゃから、あの時私事に巻き込んでしまってすなぬと謝ったではないか。」
「あれは、あの時の事で、その後もずっととは聞いてないんだけど!」
「じゃから、お礼にその玉をあげたじゃろう。」
「その代金に生命を差し出しますとは言ってません!」
「我儘じゃのう…… お給金はちゃんと支払うぞ?」
「そういう問題じゃあ…… うわお!」
お婆さんが小切手帳からピッと一枚切り離して、サラサラと書き込んだ数字を見て、目ん玉が飛び出た。
いや、ゼロが何個並んでいるんだよ! NBAの年俸かよ! これ、人生がダメになる数字じゃん!
「足りないのかい?」
「駄目です、駄目です! こんな年俸貰っちゃったら、命掛けなくちゃ成らなくなっちゃう!」
私は、その小切手を押し戻しながら言った。
「これは年俸じゃないぞ? 月給なんじゃが……」
「余計にダメー!! あなたは私の人生をぶち壊したいの!?」
「ほう……」
お婆さんは、ニヤリと笑った。
隣でそれを見ていたピートが、目を$マークに変えて言った。
「貰っておきなさいよ! お金なんて、いくら有っても邪魔にならないんだから!」
「余計な事言わないで!」
「はい! はーい! 私が代わりにやります! だから……」
「お前さんじゃ駄目なんじゃ」
そう言って、お婆さんはその小切手をさっと回収してしまった。
「昔のう、お前さんみたいに私に説教をしてくれた、大親友がおったんじゃ……」
お婆さんは、昔を懐かしむ様に遠い目をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます