第15話 秘密組織の秘密基地(笑
これで勝ったと思ったのだけど、私が水中へ押さえ込もうとする力に抗う様に、浮上しようとする力がふっと消えたかと思ったら、急にガクンと私の体が引っ張られた。
「あっ! 私も水中へ引っ張り込もうって魂胆か!」
ずるずると海面の方へ体が引っ張られる。
ピートが私の腕を掴んで抗うのだけど、魔力のパワーは人力でどうにか出来るレベルじゃない。
どうしよう、このままでは私達も水中に引きずり込まれてしまう。
私の足が、水に着きそうに成った時に、ある事を思い付いた。
「あっ、そうだ! 水を凍らせてしまえ!」
【Roger(了解) 分子運動制御
敵の二人が沈んでいる辺りの海面がビキビキと音を立てて凍結していった。
少しすると、ふっと私の体を引っ張っていた魔力が消えた。
私とピートはその場で尻餅を突いてしまった。
「殺しちゃったの?」
「まさか! 敵のバイタルサインチェック!」
【Roger(了解) 敵バイタルサイン 意識レベル低下、血圧低下、脈拍スロー、呼吸スロー、体温低下】
「良かった!低酸素と寒さで失神しちゃっただけみたい。直ぐに引き上げよう。」
魔力で水中の氷の塊を引き上げると、直径10メートルはありそうな程の大きさだった。
それを陸上へ移動させ、氷を真っ二つに割ってみると、中心に直径2メートル程の空洞があり、その中から気絶した女性が二人出て来た。
ピートが二人を拘束し、首から下げていたアーティファクトを取り上げてからヘルメットを脱がすと、綺麗な金髪の同じ顔をした十代位の女性だった。
「敵の双子のアーティファクト使いよ。私達の業界では有名人。」
双子の連携の良さで、片方が攻撃の時はもう片方が防御、飛行の時には浮上と推進という様に、言葉で指示をし合わなくても瞬時にお互いのする事をスイッチして分担出来る、優秀なソルジャーだったそうだ。
「でも、私に負けちゃう様じゃ、大した事なさそう。」
「いやいやいや、あなたのアーティファクトの性能がチートレベルなのよ。」
「そうなの? これ、そんなに凄いの?」
「凄いなんてもんじゃ無いわよ。いい? 見てて。」
ピートは、双子から取り上げたアーティファクトの一つを手に取ると、攻撃魔法を命令した。
「レッドボール。」
【ナーム(はい) 赤玉起動】
ピートが海の方向へ突き出した右手の先に、赤い玉が生成されてゆく。
「シュート。」
【ナーム(はい) 赤玉発射】
右手から発射された赤い玉は、100メートル程先の海面へ着弾し、爆発した。
「どう? 分かった?」
「え? 何だろう? 威力とかコントロール的な問題?」
「あなたの撃ってみて。」
「う、うん、赤玉発射。」
【Roger(了解) レッドボール発射】
私の体の前に生成された赤い玉は、ピートのと同じ様に飛んで行って海面へ吸い込まれ、爆発して水飛沫を上げた。
威力も飛翔速度もピートの撃った物と同じ位だ。
「あ、でも私、分かちゃった。」
私の方は命令が結構適当でも私の意図を正確に汲んでくれている。
「そうなのよ。こっちのは、魔法の起動と発射を別々に命令しなければ成らない。2段階の命令に成るのに対し、あなたのは的の指定も無しの、かなりファジーな命令でも正確に発動される。まるで、優秀なAIが搭載されているみたいなのよね。」
うん、AIというか、妖精なんだけどね。
この前、AIって言ったらへそ曲げられちゃったし。
アーティファクトと確保した敵の使用者の双子は、遅れてやって来た組織の人間に引き渡し、私達はペントハウスへ帰る事にした。
あんな事件があった後にまだあそこへ住むのかと思ったが、他の住居を用意してくれるので私物を取りに戻るだけの様だ。
私は、飛行術を起動し、ピートを連れて何時ものルーフバルコニーから室内へ入った。
「あーあ、酷い。滅茶苦茶じゃない。」
あいつら、ここぞとばかりに暴れまわったみたい。
この分だと、自分の部屋の私物も無事じゃ済まなそうかなー。
そう思って部屋のドアを開けてみたら、案の定だった。ああ、学校の教科書も焦げてる。
「連中、他にもアーティファクトを隠してあるかと思って家探ししたみたいね。」
「壁にもこんなに大きな穴開けちゃって。他の住民激おこなんじゃないかな?」
「他の住民? 居ないわよ?」
「へ?」
「このビルにはあなたと私しか住んでいないもの。」
どうやら、このビルは組織の所有物で、解体予定の廃ビルだったらしい。
私達の住居の最上部だけ、新品同様にリフォームしたんだって。
どおりで爆薬とかシャッターとか仕掛け三昧だったわけだ。
「あ、でも、下の方の階にお店入っていたよね?」
「あれも、内の職員がやってたのよ。」
「マジか……」
私は、一応無事だった私物を回収し、ピートの用意した車で他の場所へ移動する事になった。
車の中で、一応追跡者や監視者が居ないかチェックしてみる。
「私達を見張っている者は居ない?」
【Roger(了解) サーチ 後方に付いて来るグレーのセダンがあります。】
「あ、それ身内です。」
ピートが一応内の組織でも十分注意していると教えてくれた。
【上空200キロメートル地点でこちらを観察している目があります。】
「上空200キロ!?」
ピートが直ぐに無線機のスイッチを入れた。
「こちらピート。偵察衛星で監視されています。……はい、了解。」
車は、直ぐ近くのショッピングモールの立体駐車場へ入り、赤いファミリーカーの隣へ停まる。
私達はその赤い車へ乗り換え、赤い車に乗っていた家族は私達の車へ乗り換える。そして、何事も無かったかの様に駐車場を出て行く2台の車。
その後、銀行の地下駐車場へ入ったり地下道を通ったりしながら都度車を乗り換え、とあるIT会社の大きなビルの地下駐車場へと滑り込んだ。
ゲートでピートはIDカードを見せ、そのまま地下道を進む。
「上のIT会社は隠れ蓑なんだけど、ちゃんと製品開発もしているのよ。凄いでしょう。」
うん、知ってる。有名な会社だから。超有名なSNSのアプリとか作っているよね。
私も使ってたよ。そうやって世界中から情報を集めていたんだ。
「あなたの事を突き止めたのは、あなたが日本のアキハバラでアップした写真からなのよ。」
「マジですか。こえーよー。」
思い出した。あのペンダントを拾った時に、写真を撮ってアップしたんだった。
日本滞在中に持ち主が見つかればいいなーと思ってやったのに、こんな事に巻き込まれてしまうとは。
「皆気軽に写真をネットにアップするけど、個人情報ダダ漏れなのよね~。」
「何他人事みたいに言ってるのよー!」
「あなたの今までにアップした写真から、国籍も現住所も名前も年齢も家族構成も趣味もクセも通院歴も何もかも分かっちゃうのよ。それは、敵も一緒だったのだけどねー。」
頭を抱えた。でも逆に個々まで隠し事が出来ないとなると、清々しい気持ちに…… なるかー!
「消せ! 今直ぐ私の個人情報を消せ!」
「無理なのよー、既に複数のデータベースに分散保管されちゃってるから。一度ネット上に流れてしまった情報は、永遠に消えないの。」
「分かったよ。いいよ。ピートの個人情報取得。」
【Roger(了解) ピートの個人情報……】
「待ってー! 悪かった、悪かったからー!」
そんなやり取りをしていたら、どうやら秘密基地(笑 に到着した様だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます