第14話 さあどうする?

 私達は、ビルの裏口から出て、歩道を海の方向へ全速力で走っていた。

 全速力と言っても、履いているのが厚底ハイヒールなので、隣で走っているピートよりも全然遅い。

 大体、このコスチュームは走る事を想定していないんだからー。


 「人の中に紛れて海岸まで走るのよ。」

 「私達、目立ってると思うんだけど。」


 飛んで行けば直ぐなんだけど、なるべくなら敵に見つからない様に移動したい、という事らしい。


 「伏せて!」


 ゼーゼー言っている私の頭を、ピートが横から押さえ付けた。

 いきなり頭を押さえられて、前のめりに歩道のタイルにしたたかにおでこをぶつけてしまった。


 「痛ったーい! 何す……」


 ドゴーン!


 「きゃあああ!!」


 頭の上を掠める様に、何かが飛んで来て地面に当たり爆発した。

 近くを歩いていた数名の歩行者が巻き添えになった。

 あいつら、一般人を巻き込むのも御構い無しかよ!

 せっかくこっちが他人を巻き込まない様に開けた海沿いへ出ようとしてるのに!

 バレバレじゃん。そもそも、向こうも探査は出来るはずだよね。

 ゼーゼー言いながら走ってた私達、間抜けー。


 「けが人を治療して。」

 【Roger(了解) 治療術起動】


 巻き添えに成って倒れている通行人の体が光り、次々と傷が治って行く。


 「ピートを連れて飛んで。」

 【Roger(了解) 飛行術起動 ウィズピート】


 私は、ピートの手を取ると、二人はミサイルの様に飛び立った。


 「ふんっ、私達からは逃げられないわ。」

 「障壁解除、ジェット推進。」

 【ナーム(はい) 魔導ジェット起動】


 二人が私と同じ速度で追いかけて来る。

 音速飛行するには、浮上術リフター防護壁シェル推進術ジェットの3つを同時に発動しなければならない。

 だけど、あの二人は風防と断熱の役割をする防護壁を、風防はあのヘルメットに、断熱はあのスーツに代替させて、2つの魔法だけで飛んでいるんだ。

 ある程度の速度へ乗れば、浮上術リフターは必要無くなるので、熱の壁へ突入する前に改めて防護壁シェルを張り直すのだろう。


 「何か、凄い曲芸みたいな使い方しているのね。」

 「その分、機能を理解し、使い方に習熟している。舐めて掛かると危ないわ。」


 暫く、空中で追い掛けっ子をしているが、特に捕まるでも攻撃されるでも無い。


 「だって、両方共魔法の使用数を限界まで使っちゃってるもん!」

 「じゃあ、私が攻撃すれば良いんじゃん。」


 ピートが後ろへ向けて発泡した。

 だけど、お互いにジグザグ飛行しているせいで全く当たらない。

 そうこうしている内に、向こうも銃を撃って来た。


 「やめてー! 飛行中に防御力が無いのは、こっちも同じなんだからー!」


 そんな間抜けなやり取りをしている内に、沿岸エリアが見えて来た。


 「あ、そうだ。防護壁シェル解除、障壁バリアーに切り替え。」

 【Roger(了解) シェル解除 絶対障壁展開】


 障壁バリアーへ切り替えた途端、飛行速度がガクンと落ちた。多分、形状がエアブレーキみたいに空気抵抗が大きいのかも。

 ピートが撃った銃弾が、中で跳弾する。

 3反射位した銃弾が、ピートの腕を掠った。ひいいー!

 私の方にも飛んで来たけど、私の体は自動で防御されているみたいで、銃弾は私の直ぐ側で停止し、下に落ちた。

 しかし、防御した分、今起動中のどれかが停止したわけで……

 浮上術リフターが停止していた。


 私達は、空気の抜けた風船みたいに滅茶苦茶に空中を飛び回り、海岸沿いに在る公園の地面に激突した。

 障壁バリアーのおかげで、二人共怪我はしていないのだけど、障壁バリアーの中で滅茶苦茶にシェイクされてしまい、目が回ってフラフラだ。


 「あなた、凄いアーティファクトを手に入れたくせに、全然使い熟せてないのね。」


 敵の二人も流石に呆れた様に言った。


 「ジェットだけでも上手くバランスを取って、ホバリング位出来るのに。」

 「出来るか!」


 そんなの、やった事も無いド素人に、いきなりプロ並みのサーフィンをやってみせろって言う様な物だ。普通、立つ事すら出来ないんだぞ。

 私は、上空で私達を見下ろしながら嘲笑している二人に対して毒づいた。


 「大人しく、そのアーティファクトを渡して頂戴。」

 「馬鹿だなー、知らないのか? 爆発するんだぞ!」

 「そんな事位知ってるわよ。爆発させずに所有権を解除する方法が有るのよ。」


 私だって知ってる。ピートに聞いたから。


 「私が幸せに天寿を全うすれば、でしょう? 気の長い話ね。」

 「そんなに必要無いのよ? 薬物を使って、脳内で幸せな夢を観させたまま、何故か衰弱してこの世を去るの。そうねえ、一週間も有れば十分かしら?」


 衝撃的な事実だ。

 私は、ピートの顔を見た。彼女はこの事を知っていたのか?

 しかし、ピートは、真っ直ぐに私の目を見て静かに言った。


 「知っていたわ。でも、信じて頂戴、私達は決してそんな事をさせない為にあなたを保護したの。」


 私は無言で頷いた。

 信じよう。少なくともピートからは邪悪な気配は感じない。

 ピートは、上空の二人へ向けて銃を撃ち、他の魔法を使わせない様に牽制する。


 「ねえ、障壁を貫通して攻撃する方法は無いの?」

 【2つ有ります。1つは、連続的にダメージを与えて魔力切れを誘う方法。】

 「そうか! 妖精の数は3対2だから…… でも、妖精って魔力切れ起こすの?」

 【おそらく、気の遠くなる程の時間を必要とします。】

 「どの位?」

 【計算上では、135日と6時間12分23秒】

 「あーはいはい、却下却下。もう1つは?」

 【障壁バリアーが透明な為、光線系魔法は透過します。】

 「お、それ良いじゃん! それやって!」

 【しかし、相手も同じ事が出来ます。】


 ぐぬぬ、これはぐぬぬ。

 135日も魔力の削り合いという泥仕合も嫌だし、どうすればいい?


 「魔法を2つ使わせた状態を維持出来れば、こちらに勝機はあるわ!」

 「そうなんだけどさー、そんな事可能?」


 ピートがクイクイと上を指差す。

 あ、今か。


 「光線系魔法発射。」

 【Roger(了解) レーザービーム】


 辺りがふっと暗くなったかと思ったら、輝く一本の直線が片方の女の太腿を貫いた。

 レーザービームだけど、レーザー発振で光を増幅させている訳ではなくて、周辺に存在するフォトンを集めて全部同じ方向へ揃えて一直線に発射しているみたい。


 「アツッ!」


 痛いというよりも、熱いって感じなのか。

 二人は、障壁バリアーを貫通する攻撃がある事に驚いた様だった。

 だけど、そう言う方法が有る事が知られれば、向こうも同じ事は出来る。

 この状況を不利と悟った(気が付かなかったのかよ)二人組は、回避行動を取りつつ地上へ降りて来た。

 しかし、想定の範囲内。大人しく地上へ降ろす訳無いだろ!


 「海中へ突き落とせ!」

 【Roger(了解) 魔力操作】


 私のレーザービームを警戒して飛び回る二人が、見えない巨大な手で掴まれでもしたかの様に、急に方向を変えて水面に叩きつけられた。

 そのまま水中へ引きずり込まれて行く。

 さあどうする。水中ではジェットは使えないぞ? 浮上術リフターに切り替え無ければ浮かび上がれない。障壁バリアーを解除すれば、溺れてしまう。これで2つの魔法を使い続けなければ成らない。

 しかも、水中では障壁バリアー内にある僅かな酸素だけしか呼吸出来ないので、脱出に手間取れば窒息してしまう。

 私は、人殺しはしたくないので、降参すれば助けてあげるよ? さあどうする?




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