第13話 逃走

 女の片方が、右腕を上げると、魔法の起動命令をした。


 「ブルーボール。」

 【ナーム(はい) 青玉起動】


 ピートは、ブルーボールを生成途中の女へ向けて、銃を撃った。

 しかし銃弾は、ウロコ状の障壁で弾かれた。


 「成る程、二人一組で攻撃と防御を担当しているんだわ。」

 「どういう事?」

 「あいつらの持っている古いタイプのアーティファクトは、誰でも使える代わりに命令は一回に1個しか出来ないのよ。それを二人一組で運用する事によって、その弱点をカバーしているんだわ。」


 成る程ね。

 命令を1個ずつしか出来ないなら、攻撃中を狙えば防御は出来ない訳か。

 その既知の弱点を、二人一組にする事によって、片方が攻撃魔法を使っている最中はもう片方が防御に回る事で、お互いにカバーし合っているんだ。


 あれを作ったお婆さんは、当初、お世話になった村人の生活の助けに成る事だけを考えていて、戦争の道具に使うなんて事は想定していなかったから、一度に1個の魔法を使えれば十分だと思っていたのだろう。


 「シュート。」

 【ナーム(はい) 青玉発射】


 シュドン!

 パキーン!


 青い玉、多分プラズマの塊は、私達の隠れていた、太さ1メートル程もあるコンクリートの柱をいとも容易く貫通し、私の障壁に当たって弾かれた。

 焦った、一瞬だったので良くは見えなかったのだけど、ウロコ状の障壁のパネルの2枚位が割れた様に見えた。多分この障壁は多層構造になっているんだろうね。


 「驚きね、物陰に隠れると攻撃の当たる瞬間が分からないので、障壁を張るタイミングが取れずに、普通初心者は簡単に当たってくれるのだけど。」


 当たってくれるのだけどって、当たったら死ぬじゃん。

 私が死んだらどうなるのか知らない訳じゃ無いだろうに。

 即死させなければ、どうとでも出来るって思っているのかな?

 考えてみれば、私も大怪我程度なら魔法で治せる気がするな。

 よし、そっちがその気なら、こちらも思いっきりやってやる!


 「今度は私の番だ。赤い玉発射。」

 【Roger(了解) レッドボール起動 発射 Completed(完了しました)】


 ドシュンッ!

 ズドーン!


 案の定、あいつらの障壁は抜けない。

 ブルーボールとレッドボールの違いって、何なのだろう? 赤い玉の方が、向こうで爆発する分強いのかな?


 「青と赤の違いって何? こっちも青いの撃てる?」

 【温度が違う為、貫通力が異なる。生物に限れば、有効範囲の広い赤の方が効果大。青はこちらも撃つ事は可能。】


 「成る程、では、青い玉発射。」

 【Roger(了解) ブルーボール起動 シュート】


 ドンッ!

 パキキンッ!


 私の撃った青玉は、私の時と同様に相手の障壁に当たり、跳弾してビルの壁を貫通して外へ飛んで行った。

 今、こっちの攻撃のタイミングに合わせる様に、もう一人が青玉を撃って来たのだけど、それも私の障壁へ当たって防がれた。

 その様子を見て、相手の二人は顔を見合わせて何かを話している。


 「戦闘中に仲良くお喋りとは余裕ね。」


 ピートは、煙幕弾を投げ、銃を撃ちながら私の手を引っ張り、廊下へ出てエレベーターシャフトの裏側へ回り込んで、彼女の腕に巻かれているブレスレットから何かを操作した。

 すると、今迄私達の居たフロアの方から大きな爆発音が鳴り響いた。


 「こういう事態を想定して、このビルにはあちこちに仕掛けが施されているのよ。」


 て事は、私は今まで爆薬の上で生活をしていたわけかい。

 あーあ、素敵なペントハウスだったのに、もう滅茶苦茶だよ。

 ピートは、エレベーターのドアをこじ開け、中を確認する。当然、この階にはエレベーターは止まっていないので、中にゴンドラは無い。


 「あなたが学校から帰って来て、そのままだから。」


 ピートが上を指差すと、一つ上の階に止まっているゴンドラの底が見えていた。


 「ここを降りるの?」

 「そう。」


 ピートがバックパックからフック付きのロープを取り出そうとしたので、わたしはそれを止めた。


 「私とピートを下の階まで降ろして。」

 「1階まで降りるわ。」

 「訂正、1階まで降ろして。」

 【Roger(了解) 魔力操作 浮遊術起動】


 ピートの体が、ふわりと宙に浮くと、私と一緒にエレベーターホールの中をゆっくりと降下して行く。


 「本当、魔法って便利よねー。しかも、あなたのアーティファクトは性能が凄いわ。」

 「なんでも、最高傑作らしいですよ。」

 「誰が言ったの? ああ、1号さんか。」


 ピートが冷めた様な顔で言った。どうやら1号さん、つまりあのお婆さんは、自分がアーティファクトの製作者だと言い張る、頭のちょっとおかしい人という認識をされているらしい。

 まあ、私だって2000年前に作ったとか、3万年以上も生きているとか言われても、にわかには信じられないのだけど、直に話した感じでは、その数字以外は至極まともに感じたんだよなー……


 私のアーティファクト、つまりこの玉は、3匹の妖精が入っているそうで、同時に3つの魔法を行使出来るそうだ。

 つまり、物を持ち上げて障壁を張ったまま攻撃も出来る。

 マッハで飛行する飛行術という魔法は、浮上術リフター防護壁シェルそれに魔導推進術ジェットという3つの魔法の組み合わせなので、他のアーティファクトでは真似が出来ないらしい。


 1階まで降りて、ピートがドア横の何かのレバーみたいなのを操作すると、チーンと音がしてドアが開いた。

 出た所は居住区エリアへ行くエレベーターホールなので、人影は殆ど無い。

 このビルは、下層が商業テナント、その上がオフィスと居住用賃貸に成っている。

 最初は、オフィス用の空きフロアで迎え撃とうと考えていたのだけど、魔法の威力が想像以上に大きくてビルの破壊が甚大だというので場所を変えようという事らしい。


 「それ、あなたが爆薬で吹っ飛ばしたからじゃないの?」

 「あんなの、内側がちょっと焦げるだけよ。あなた達の撃つブルーボールがビルの構造材を貫通するので、あのまま戦闘を継続していたら倒壊しかねないの。こっちよ。」


 私達二人は、ビルの裏口から出て、沿岸エリアの方へ向かった。






 ◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇






 「ごほっ、ごほっ、咄嗟に障壁を張ってもらって助かったわ。」

 「あのアーティファクト、同時に攻撃と防御が出来るみたいだわ。魔法の発動も私達の物より早い。」


 一人が、首から掛けていたクラシックなデザインの鍵を取り出して見せた。

 もう一人は、小さなナイフだった。それを腰のベルトに付けたシースに挿している。

 二人はそれぞれそれを仕舞うと、次の魔法を唱えた。


 「サーチ、ノイータ。」

 【ナーム(はい) 魔力サーチ起動】


 「分かったわ。地上を東へ向かっている。」


 二人は、お互いの体を密着させ固定すると、次の魔法を命令する。


 「浮遊術。」

 【ナーム(はい) 浮遊術起動】


 そして、爆発で吹き飛んだ窓から外へダイブした。

 二人の体は、落下の途中で横方向へ滑空を開始した。

 ビルをぐるりと回り込み、東西へ伸びる大通り沿いを東方向へ飛ぶと、直ぐに目標を発見した。


 「攻撃を開始するわ。」

 「OK、直撃させてアーティファクトを破壊しないようにね。」

 「任せて。レッドボール生成。」

 【ナーム(はい) 赤玉起動】

 「シュート。」

 【ナーム(はい) 赤玉発射】




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