第7話 コスプレが必要です!

 そんなスーパーヒーロー(ヒロイン?)活動を半月も続けていたら、なんだか街の評判になったみたいで、マスコミが動いていたみたい。

 朝刊の一面に私の写真が載っていたのを見た時には、コーヒー吹いた。


 「なんだか、この街にもスーパーヒーローが現れたらしいなあ。」


 新聞を読んでいたお父さんが、呑気な声でそんな事を言った。

 写真はブレている上に、夜の闇に黒いジャージが溶け込んで、良くは判別出来ない物だったけど、気付かない内に写真を撮られていたのはマズい。

 不鮮明な写真でも、知人が見れば正体がバレる危険性はあるからね。

 次からは活動場所を変えよう。

 それから、毎日じゃなくて、不定期にしよう。

 衣装コスチュームも、もっとイカス感じに何か考えようかな。

 改めて第三者視点で撮られた写真を見て思ったのだけど、黒いジャージの上下は何かダサいや。


 その日は、街へ衣装コスチュームのヒントに成りそうな物を探しに出かける事にした。

 ブティックでカッコいい服を見て回ったり、作業着専門店へ行ってみたり、アメコミのヒーローが載っている雑誌を買ってみたり、日本のアニメの雑誌を買ってみたり。

 アメコミのスーパーヒーローは、大体ピチッとした、ボディラインがモロに出る衣装が多いよね。スタイルが良くないと駄目だ。

 日本のアニメの魔女っ子は、ヒラヒラふわふわの衣装が多くて、どちらかと言うとカッコいいというよりも可愛いという感じだ。

 私のこの歳で、ピンクのヒラヒラの可愛い衣装は…… 誰かに見られたら死ねるな。

 あれは、アニメだから成り立っているのであって、現実であの格好をしたら、痛い人なだけなのでは…… と思ったのだけど、ある事実に気が付いた。


 そうだ、確か、アニメの衣装を自作して着て写真を撮っている人達が居た。

 確か、コスプレイヤーとか言った気がする。

 私は、直ぐにスマートフォンで画像検索してみた。


 ……ううむ。

 これは目立つな。夜に活動するとなると、目立ちたく無いんだけどな。

 バッ○マンとかキャッ○ウーマン位かな、真っ黒なのは。

 いっそ、魔女のコスするか? 真っ黒なの。

 真っ黒なゴスロリとか、メイド服…… いやいや。変な方向に行きそうになった。

 いや別に、黒に拘っている訳では無いんだけどね、紺色でも良いし。

 あ、でも、思いっきり目立つ衣装っていうのもアリなんだろうか? ガードマンとか警官とか、制服の方に目が行ってしまって、逆に顔が印象に残らないって言うもんね。顔から目を逸らせる効果が有るなら、それはそれでアリな気がするな。

 何だか楽しくなって着たぞ? よし、家に帰ってデザイン画を描いてみるか。


 私は早速家に取って返し、部屋に籠もってスケッチブックに幾つもの衣装デザインを描いてみた。

 幾つも描いてはボツにし、結局、体の線がハッキリ出てしまうピチッとしたスーパーヒーローっぽい衣装よりも、ふわっとしたスカートのゴスロリっぽい衣装になった。


 「何か、目を引く、シンボルっぽいマークと名前も欲しいわね。」


 スーパーヒーローって、皆胸に特徴的なマークを付けているよね。

 私は魔女だから、魔法陣? 五芒星が良いかな。五芒星の魔法陣をデザインしよう。

 レースの長手袋に、黒いタイツ。黒い厚底のハイヒール。猫耳…… は、止めておこう。


 さて、この衣装を作るのに、布は何を買えばいいのかな? いや、私が縫うの? お裁縫なんてやった事無いのに?

 いきなり挫折した。

 皆、どうやって調達しているのだろう?

 ネットで検索すると、器用な人なら自分で一から縫うのだろうけど、簡単に済ませるなら市販の衣装を改造するか、完全にオーダーメードで作ってくれる所もあるので、そこに発注するかするみたい。


 「幾ら掛かるんだよ!」


 それで、何日かかるんだよ!

 私は、スケッチブックを放り投げて、ベッドへ倒れ込んだ。


 「魔女なんだからさー、魔法でちゃちゃっと何とか成らないかなー?」

 【Roger(了解) 塑性加工術起動】


 そう聞こえたかと思ったら、今着ている服が光りに包まれ、デザイン通りのゴスロリ衣装へと変わった。

 胸には、デザイン通りに、黒字に金色の五芒星魔法陣が輝いている。


 「なんだ、出来るんじゃん。だったら髪型も髪色も変更出来るんじゃないの?」

 【Roger(了解) 変身術起動】


 すると、体がモーフィングの様に別人に変わった。

 私の髪は、明るめのブロンドのロングで、瞳は紺色なのだけど、変更後は、東洋人の様な、真っ黒な髪色で髪型はボブ、瞳の色も黒になった。これなら、誰かはもう分からないだろう。

 どうせなら、視線を一部に惹きつけて、顔全体の印象を曖昧にする様なメイクもしよう。

 目を縁取る様な黒いアイラインと真っ赤なっ口紅も追加だ。それから、左目の下の泣き黒子ほくろの位置に、小さな銀色の星も付けた。やり過ぎな気もするけど、これで行こう。

 魔女って、この目の下の星を付けている人が結構居て、これはチャームの魔術記号らしいんだよね。

 私が誰にチャームの魔法を掛けるのかは謎だけどね。


 「よし! これで行こう!」


 と、その時、コンコンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえ、ガチャッとドアが開いてお母さんが入って来た。


 「ステルス!」

 【Roger(了解)】


 「あれ? おかしいわね、話し声が聞こえたと思ったんだけど。」

 「どうしたの? お母さん。」


 私は、姿を消して窓から出て、変身を解いてから別の窓から入って、お母さんの背後から声を掛けた訳。


 「何処に居たのよ、あなた。」

 「トイレよ。」

 「変ねぇ……」

 「何か用事が有ったんじゃないの?」

 「あ、そうだ、例の留学の書類を取りに来たから、あなたも挨拶しなさい。これからお世話に成るんですからね。」


 階下へ降りると、この間来たあのスーツの男が玄関で待っていた。

 母親から書類の入った袋を受け取り、男へ私が手渡すと、少し離れた所にいる母親には聞こえない位の小声で話し掛けられた。


 「あまり目立つ様な事はするな。」

 「何の話?」

 「ヒーローごっこなんていう子供のお遊びは程々にしとけよ、と言っているんだ。」

 「何時も見張っているのね。バレない様に考えてるわよ。」

 「お前が留学した途端、ヒーローも向こうへ引っ越したらバレバレだろう。」


 それもそうか。

 あのゴスロリ姿はこっちでは止めておこう。アメリカへ行くまでは黒ジャージで我慢だ。


 私は、笑顔で手を振り車を見送ると、辺りを見回してみた。

 そして小声で命令する。


 「サーチ、監視者。」

 【Completed(完了しました) 二階の窓右斜め方向350メートルの距離に在るビル、13階の左から3番目の部屋に、赤外線暗視装置付き望遠カメラがこちらを向いています。】


 成る程、赤外線か。それで夜中に光学迷彩で家を抜け出てもバレている訳ね。

 しかし、ご苦労様な事。






 その日の夜、私は何時もの黒ジャージに着替えると、光学迷彩と赤外線遮断障壁で身を隠して、窓から飛び立った。

 そして、件のビルの件の部屋の窓で望遠カメラのモニターを覗いている二人の男に声を掛けた。


 「何時も夜勤ご苦労様。」


 びっくりしてこちらを振り向く二人。

 私は、窓枠に腰を掛け、二人に差し入れの缶コーヒーを窓枠の所に置いて、にっこりと微笑んでから夜の闇の中へ飛んで消えた。

 その日の成果は、酔っぱらい二人の喧嘩を仲裁(両成敗)して帰宅。朝までぐっすり眠った。


 次の朝、監視者を再サーチしてみたら、もうあの部屋には居なかった。




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