第6話 私はスーパーヒーロー
ドロシーが飛び立った後、程無くしてヘリから地上へ降下して来た男達が辺りを捜索していた。
「これを見て下さい。」
「二人か。」
小屋は無く成っていたが、男達は二人の足跡を発見した様だった。
人が歩けば、何らかの痕跡は必ず残る。それは、足跡だったり折れた草だったり。小屋サイズの何かが在った場所には、平らに押し潰された下草が在った。
「過去の記録と同じですね。一体、どうやって移動しているのか…… まるで魔法の様です。」
「魔法か…… 我々人類の知らない超技術にしろ、それは是非我らの手中に収めたい。他国が持っていて、我らの持っていない技術等、有ってはならないのだ。」
お婆さんは、居場所が見つかる度に場所を転々と移動して来たのだろう。
男達は、イングランドで出会った連中と同じ組織なのか、別の組織なのかは分からない。
言動から察すると、幾つかの国家間で、この魔法技術の取り合い合戦が起こっているのかもしれない。
古代であれば、便利な道具程度であっただろう。
だけど、現代に於いては、兵器としての利用価値が高い。
訓練された兵士一人が、音速で飛行し、姿を消し、銃弾も弾くバリアを張り、敵の位置を探知し、大型トラック何台分もの荷物を運び、火薬も使わずに大爆発を起こせる。
もしこれを量産し、兵士一人一人に持たせる事が出来れば、大変な優位に立てるし、逆に敵が持ったら驚異なんて代物じゃない。
そりゃあ、必死に探しますわね。
お婆さんの道具は、二千年の時を越えて、更に大事に成ってしまっている様だ。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
私は、家の近所の公園の人目に付かない所へ降り立つと、ステルスを解除した。
家へ帰ると、家の前に見覚えのある黒い車が停まっている。
私は、ため息を付いた。
念の為に、スマートフォンで車の写真を撮りまくる。ナンバープレートの写真も写した。
「ただいまー。」
家へ入ると、スーツの男3人と母親が、ダイニングのテーブルで何かを話している最中だった。
特に、いきなり暴力に訴えて来る積りは無い様でホッとした。
私が入って来たのに気が付いた母親が、ニコニコしながら手招きする。何だろう?
「ちょっとちょっと、良い話なのよー。何でも、成績優秀な学生を政府のお金でアメリカへ留学させてくれるんですって!」
「何よいきなり。怪しくない?」
「こちらが学校の推薦状と、政府発行の留学ビザ、学校の編入手続きや、渡航費用と現地での必要資金の支給手続き等の諸々の書類。そちらでは、パスポートを用意して貰うだけです。」
「ドロシー、どうなの? 良い話じゃなーい。」
いやいや、めっさ怪しいんですけど。お母さん、あなた騙されて愛娘を怪しい組織に売り渡そうとしてますよ。
そして、留学先で私は行方不明に成るわけですね。
でも、家族に乱暴を働かないだけマシか。
まあ、そうだよね。家族を人質に、アーティファクトを寄こせなんてやったら、目撃者多数、近所でも評判に成るし、警察も動かざるを得ない、マスコミだって動く。如何に政府機関だからといって、これを全部封じ込めるのは不可能だ。仮に出来たとしても、莫大な人員と金と時間が掛かってしまう。出来る訳が無いよね。そんな最悪な手段を取れる訳が無い。
それで、穏便に私を外国へ連れ出す作戦を取った訳だ。
外国留学で浮かれて羽目を外した女子学生が、行方不明に成ったって、それは自己責任であって、政府は何も感知しないもんね。
ここで私が断ったら、最悪な手段の方へ切り替わるのかもしれないけどさ。
「わー、うっそー! 私が留学の特待生に選ばれたのー!? 嬉しい! 信じられなーい!」
うーん、我ながら大根役者だ。
これ、母親の安全を考えたら、乗るしか選択肢は無いじゃないか。
「では、サインはここへ、保護者様のサインはここへお願いします。1ヶ月後の夏休み明けには留学地へ出発出来る様に手続きします。記入済みの書類は、後日回収に参ります。出発までにパスポートのご用意はそちらでお願い致します。」
男は、そう言うと帰って行った。
妙な動きをしたら、分かっているなと言わんばかりに、私の目を睨みつけて行ったよ。
お母さんは、そんな事には全く気が付く風でも無く、無邪気に喜んでいる。
「まあー、うちの子が留学特待生だなんてねー、夢じゃないかしら。」
お母さん、私の成績は、中の下ですよ。下の上と言っても良い位なんだけどな。
1ヶ月の猶予を与えられたのは、寧ろラッキーだったかも。その間に、この玉で出来る事を必死で探そう。
その日から、私の自主特訓が始まった。
夜な夜な、黒いジャージに身を包み、目の部分を黒いマスクで隠し、髪の毛をキャップで隠した私が、光学迷彩で姿を隠し、自分の部屋の窓から飛んで行くのだった。
ところで、顔を隠すと言えば、西洋では怪傑ゾロとかスーパーヒーローもそうなんだけど、目を隠す場合が多いよね。
日本の場合は、忍者に始まると思うけど、鼻から下を隠す。
これって、西洋と東洋では個人を認識するのに、注目する顔の部位が違うのだろうか? 西洋では目を見る場合が多くて、東洋では鼻から下を見ているのかな?
笑顔の認識は、日本は目で西洋では口らしい。推論と逆だよね、どういう事なのかな?
刃物の扱い、例えば鉋、鋸、包丁等は、日本では引いて切るけど、西洋では押して切るんだよね。偶々なんだろうけど、何かと逆で面白い。
閑話休題。
私は、繁華街の高い建物の屋根の上でステルスを解いた。
ここでは毎日の様に何らかの犯罪行為やいざこざが発生しているので、練習台には打って付けだと考えたからだ。
所謂、スーパーヒーローもどきね。
夜の繁華街は、本当に怪しい臭いがプンプンする。
上から通りの下を注意深く観察していると、ほうら居た。
人気の無い裏路地で、女の人が数人の暴漢に襲われているよ。殴られてバッグを取られそうに成っている。
私は、その路地の暴漢の脳天へ向けてダイブした。もちろん、着地は踵からだ。
暴漢の一人は、認識していない真上からの落下物に、地面へ倒れ伏した。
もちろん、手加減はしているよ。だって、10階建てのビルの屋上から人間が落ちてきたら、当たった人間は死んでしまうから。
暴漢の残りは二人か。二人が通路を塞いで、一人が暴力で金品を強奪する係か。
今、暴力担当をノシてしまったので、後は楽勝かと思いきや、あ、ナイフを出しやがりましたよ。
一人の男が、私の背後へ回り込もうとする。前後で挟み撃ちにしようという戦法で、前の男に対応しようとすると、後ろが死角になるという、まあ、基本だよね。
でも、私に敵意を向けると、玉の妖精さんが自動で防御してしまうんだ。
お婆さんの、『お前達、その娘を守っておやり!』という命令が、私の上位命令としてずっと効いているのだ。
だから、私を攻撃しようとすると……
バキン!!
ほらね、前に居る男が突き出したナイフは、自動的に貼られたバリアーに当たり、空中でストップする。
そして、強力な電撃が一瞬だけ流れる。
男は、弾かれた様に後ろへすっ飛び、先端の溶けたナイフが地面に落ちた。
「お、お前! 今何をしやがった!」
私は何にもしていない。だって、オートマチックなんだもん。
私は、分かりませんという様に、掌を上に向けて、肩をちょっと竦めて見せた。
最後の男は、私が二人の大男をあっという間にノックダウンしてしまったのを見て、及び腰になってしまった。
うーん、攻撃して来てくれないと、自動防御が発動しないんだよね。
「ナイフ消去。」
【Roger(了解) ナイフ消去】
男は、信じられない物を見るといった表情で、自分の手からナイフが消えている事にすら気が付いていない。
もっとびっくりしてくれないとつまらないな。
まあいいや、さっさと片付けよう。
「電撃。死なない程度にね。」
【Roger(了解) 電撃 死なない程度】
私の突き出して右手の人差指の先から電撃が飛び、男の前に突き出していた両手に落ちた。
男は、後ろへ吹っ飛び、地面を転がって行き、ビルのレンガの壁にぶつかって痙攣している。
本当なら私の突き出した右手の人差指だってただじゃ済まないのだろうけど、何とも無い。玉の妖精さんが、私が自分でやった事ですら律儀に、あらゆるダメージから私の体を守ってくれているみたい。
私は、地面に落ちている女性のハンドバッグを拾い、呆けている彼女へ渡してあげた。
そして、キザにポーズを作って彼女に挨拶をすると、空を飛んで家の窓からステルスモードで帰り、ベッドへ潜り込んだ。
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