第三話 STMU

「クソ、あいつら置いていきやがって。覚えてろよ」


トラックに置いてかれた刃は、徒歩で帰ることになった。

呼び戻す手段もあったが、あいにく持っていた通信機は、先程の戦闘でお釈迦になってしまった。

仕方なく、何もない荒野をただひたすら歩くことにしたのだ。


「やっと着いた」


3時間かけ目的地であるクロスシティに到着した。

 高くそびえるビル、道路を行き交う無数の車、街頭に雑踏する人々。先程の村とは何もかもが違っていた。

 ふと、上を見上げるとタワーの一部に設置された大きな液晶画面から、番組が流れていた。


『そもそもクロス大陸の由来とはどう一体に何でしょうか?』


アナウンサーのお姉さんが隣に座る男に質問していたところだ。

男は机の下から1枚のパネルを出す。


『この地図を見ながら説明していきたいと思います。まず、クロス大陸・・・クロスはを意味します。この地図でいうと、中央にあるのがクロス大陸になります。そして、この大陸の周りには囲むように4つ大陸がありますね?クロス大陸から見て北にあるのが大陸面積No1の巨人タイタン大陸。逆の南にある丸い大陸が地球アース大陸。西は異星人が在中する異星スター大陸。東は大陸が獣人アニマル大陸。これらの直線上に重なる、つまり線が交わる場所がここ、クロス大陸です』


なるほど、そういう意味だったのですね、とお姉さんが笑顔を見せた。


『それだけではありません。いつもは各々の大陸で暮らす種族が、ここクロス大陸では同じ屋根の下で、仕事や友好などで苦楽を共にする場でもあるのです』


『ある意味世界が1つになった場所とも言えますね』


『まさしくそうですね。まぁ巨人族は縮小薬を飲まないとですけどね』


2人は笑っていた。同じ屋根の下、か。刃は確かにそうだと思った。なんせ今話しておいたお姉さんは、猫の見た目の獣人族だし、男の方は3つ目の異星人だったのだから。

周りを見れば人類、獣人、異星人が共に歩き、共に話、手を交えていた。最も先ほどの番組でもいっていたように、巨人族は縮小薬を飲まないとクロス大陸には上陸できないのだが、それでも巨人族もいるにはいた。


刃は額に流れる汗を拭きながら、雑踏する多種族の中に紛れた。

 歩く事5分、その建物が見えてきた。ビルの高さは、この地域ではトップ3には入るであろう摩天楼。

そして、存在をアピールするように大きくビルの中間には『STMU』と名前がデカデカと告知されていた。


言い遅れたが、刃はこの組織に所属する1人である。

       

STMUスタム

正式名称はSecretTerrorism Measures Unitであり、頭文字からとって、STMU。

その名の通り、極秘にテロ行為に対処する組織。200年前に設立したSTMUは、これまで多くの事件を解決し、世界を平和に導いた。


(まぁ、こんなに大きくアピールしてる時点で、シークレットの意味ないけどな)


都市の中心に堂々と建つSTMUの本部を見上げながら、改めて思った。


 自動ドアが開き、久しぶりに受付ルームに入った。今はあまり人がおらず、現在は仲良く話す2人の受付嬢しかいなかった。


「お勤めご苦労様です」


受付嬢の挨拶に、掌で空を切りながら答え、奥の改札機に向かう。

改札機を通るにはSTMUのIDカードを電子パネルに照らす必要があった。

IDカードを探すべく、刃は懐を調べ始めるが、カードどころか、何か入っている感覚もない。


「あれぇ?おっかしいな。いつもここにしまってるのにな…」


まさか村に落としてしまったか、その考えがよぎった瞬間、冷や汗が流れる。

また、あそこまで行くとなると時間が掛かってしまうと思ったからだ。


「…冗談だろぉ」


「おーい、刃」


絶望していると、誰かが刃の名を呼んだ。

白衣を着ており、長細い顔で丸い眼鏡をした痩躯の青年。刃は歓喜の声をあげた。


「レナード!久しぶりだな」


「ああ、久しぶり」


レナード・リメッヒ。刃の親友でSTMUの研究員としてここで働いている。研究には様々な部門があるが、彼はその中で開発部門に配属され、成果を出そうと日々奮闘している。


「少し痩せたな」


「そうかな?

 君の方は、相変わらず元気そうだね」


刃とレナードは握手を交わす。およそ1ヶ月ぶりの再会ーー2人の顔は自然と笑顔になった。


「痩せたって事は、また研究に没頭してたんじゃあないか?」


「うーん、考え始めると時間を忘れちゃうんだよね」


レナードは丸い眼鏡を中心を手であげながら、苦笑いを見せた。


「お前の悪い癖だ。健康に気を使わないと、そのうちまた、倒れるぞ」


「あはは、ごめんごめん。これから気をつけるよ…たぶん」


「最後なんて言っーー」


「ここで話すのもなんだし、とりあえず入りなよ」


追求を逃れようとそそくさと改札機に向かうレナード。しかし、「待て」と刃が掌で彼を呼び止めた。


「どっ、どうしたんだい?」


恐らく、注意されるのであろうと思っていた彼だが、友人から出た言葉は予想とは違っていた。


「すまないが、俺の部屋にある予備のIDカード持ってきてくれないか?」


「えっ、あ、うん。分かったよ」


戸惑いながらも、レナードは刃の部屋へと向かった。

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