第7話 センシティブなお年頃
それから数日。
オレはLGのレベル上げに勤しみつつ、ひっそりとネットカフェご隠居生活を謳歌していた。
今のところ、誰にもバレることなく過ごせている。
一回どっかの記者が嗅ぎつけてここにやってきたらしいが、店長が追い返してくれたらしい。
まさに店長様様である。
さすがに休日のピークタイムともなると人が増えて身動きはできないものの、それを除けば案外自由に行動できるのは大きかった。
一つだけ不満があるとするなら―――。
「ねぇ~」
「………ズズッ」
「……茅原さぁん?」
「……………ズズズッ」
「それで、いつおしえてくれるんですか?」
「あー、平日の昼間のコーヒーって何でこんなにもうまいんだろうな……」
「暇なんですよね~? だったらいいじゃないですか~」
逆上からの頼みがとてつもなくしつこいことだろう。
しばらくオレの所に来なかったので、興味が失せたのかと思いきや、突然家(特等席)に転がり込んできて、LGを教えて欲しいと頼みこんできたのだ。
聞くところによると、久々にやったらドハマリしたそうで上手くなりたいらしい。
だが、生憎とこちらもそんな余裕はない。
「そんなに上達したいなら店長からコーチングしてもらえばいいだろ? あの人ならコーチとしても優秀だ。お前の強みを最大限に活かすプレーを教えてくれるぞ」
「店長はああ見えて結構忙しそうですし……。その点、茅原さんならずっと暇ですよね?」
「悪い。オレも忙しいんだわ他を当たってくれ」
「いやいや。茅原さんニートじゃないですか。週7でLGしかやってない超絶暇人じゃないですか」
「ったく、分かってねえな。これからやることがいっぱいつまりにつまってんだよ」
「じゃあ月曜から予定言ってみてくださいよ」
「オールLGだ」
「ざっくりと一言でまとめましたね……」
逆上が呆れたようにため息を吐くと、テーブルに置かれたタピオカミルクティーをちゅーちゅーと吸う。
「それよりお前ってさ……」
続きを言いかけようとして、止める。
あまりセンシティブな話題には触れたくなさそうだ。
「なんですか?」
「いや、やっぱいい」
「そんなこといわれると余計気になるんですけど……」
今は平日の昼だ。
こいつの年齢なら学校くらいあると思ってたんだが……。
オレがその旨をやんわり伝えると、逆上は納得したように首を左右に振ってみせた。
「なんだ、そんなことですか。ほら、私の行ってるとこって割と自由なので時間割とか自分で決めれるんですよ」
「へぇー……?」
とかいいつつ、自主休講してるなんてオチじゃないだろうな。
「……何ですかその目。絶対ウソついてるって思ってますよね?」
「大丈夫だ。オレは別に学校に行ってなくても気にしないから、無理しなくていい」
「何で行ってない前提で話が進んでるんですか……。ちゃんと茅原さんが寝てる時に行ってますから問題ありませんよ」
なるほど。
オレの場合昼夜逆転生活してるし、その間に行ってても不思議じゃないか。
「よーっす」
あれこれ雑談していると、二階の休憩室に店長がやってくる。
「ああ、店長いいところに――」
「あ、店長こんにちは~。それより茅原さん教えて下さいよー」
「思ったよりも仲良くやってるなお前たち。もしかして、コレも近いか?」
店長はニヤニヤと笑いながら、オレたちに向けて小指を立ててきた。
「「………」」
その瞬間、場に戦慄走る。
……あれか、これがジェネレーションギャップってやつか。なんて返せばいいか困る。
逆上も白けた眼差しで店長を見つめていた。
「ったく、ノリが悪いなお前ら……」
「店長がつまんないこと言うから悪いんですよ。正直これっぽっちも面白くないですからね」
逆上が冷ややかな口調で言い放つ。なんだかんだ容赦ないな、こいつ。
まぁ、それはそれとして、だ。
「あの店長。それよりコレなんとかしてくれません? 最近めちゃくちゃ付き纏われてるんですけど」
「教えてやりゃいいだろ暇なんだから」
「…………」
そして、(味方は)誰もいなくなった。
隣にいる逆上がニヤニヤと笑みを浮かべながら、こっちをみている。
正直そこまで嫌というわけではないが、このまま安易に引き受けるのはちょっと癪だ。
安請け合いはしたくない。
どうしようか悩んでいると、店長がふと思い出したように口を開く。
「そういや義章。ここでしばらく匿ってやるのはいいが、暇なときは店の手伝いくらいしろよな」
「えー……まぁ、隣のフードコーナーの厨房とかだったら全然いいですけど」
「何いってんだ全部に決まってるだろ」
「うぇ……」
端末の整備とか得意じゃないんだよなあ……。結構手間かかるし、壊れたらほんとシャレにならんし。
店長は奥の戸棚の方へと移動し、そこから工具セットらしきブツを取り出しながら言う。
「もし分かんないことがあったら、そこにいる逆上に聞け。特に機器メンテに関しては前のとはだいぶ勝手が違うからな。頼んだぞ」
そう言い残して、店長は階下へと降りていった。
休憩室に再びオレと逆上の2人が残される。
「ブランクってことは、茅原さんここで働いてたことあるんですね」
逆上が横目にオレを見ながら、含みありげに言う。
「まぁ、ちょっとの間だけな」
「ふむふむ……。ということは、今日から私が茅原さんの先輩になるってことですよね? そっかそっかぁ……」
勝手に一人で納得しはじめる逆上。
もう既に嫌な予感しかしない。
「いやいや。オレの方がここで働き始めたの早いから」
「そんなのすぐやめてるんですからノーカンですよノーカン。もしかして茅原さんって、先に生まれた方が絶対えらいとか言っちゃうタイプですか?」
「おう、よく分かったな」
「そんな胸張って自信満々に肯定されても……。こほん。まあいいです。今日からあたしが先輩ってことで、ここはひとつよろしくお願いしますねっ」
勝手によろしくされてしまった。
しかも先輩を意識しはじめたのか、若干上からな口調になっている気がする。
「ところでお前いくつだ?」
「いくつに見えると思います?」
「なぜ女という生き物は、そんなくだらないことをさも愉快げに聞いてくるのだろうか……」
「あの……、心の声ダダ漏れなんですけど……」
「おっと、悪い悪い」
「わざとじゃないですよね……?」
どうやら疑心暗鬼にさせてしまったらしい。軽蔑のこもった眼差しが飛んでくる。
オレは気を取り直して、逆上の頭頂部から踵まで全身をくまなく見つめる。
「…………ほう」
背丈はまぁ普通くらい、か。
瞳は理知的だが、かといってそこまで大人びてるようには見えない。
胸も平均以下。間違いなく平均以下。
「……中学生くらいか?」
「茅原さん、今どこを見て判断しましたか?」
ガッツリバレていたようだ。
「言っておきますけど、私一応これでも高2ですからね」
「ニアミスってやつか」
「いや、全然惜しくないですからね? しかも答え方の範囲広すぎますし大体当たるじゃないですか……」
いちいち文句の多い女だ。
頃合いを見て、オレが席から立ち上がり扉の方にまで向かうと、逆上が後ろから声をかけてきた。
「もし仕事のことで分からないことがあったら、ちゃんと私に聞くように。そこはしっかりお願いしますよっ?」
「はいはい」
適当にあしらっておく。
ったく、もういっちょ前に先輩面ふかしやがって。
まぁ、こいつに何か頼らなくても何とかなるだろう。
数年いなかったとはいえ、あの頃の感覚はまだ残っているんだからな。
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