第3話
LGにログインするとプレーヤーは最初に《広場》という場所に飛ばされる。
ここでは自分のキャラクターがゲーム内でどう動くかなどといったテストやスキルメイキング、他のプレーヤーとチャットができるくらいだ。
LGは元々MMORPGだったので、その名残としてこういったRPG的要素が受け継がれているらしい。
「個人的には好きじゃないんだけどな……」
こんなもんなけりゃ、サブ垢なんて作らなくてよかったのに。
いやでも、メインでログインしてもどのみちフレンド通知でバレるから変わらねえか……。
愚痴ってもしょうがないので、オレはさっさとAI戦をプレイすることにした。
ほんとは実力勝負のランクマッチがやりたかったが、新規アカウントなので、仕様上これしかできないようになっている。仕方ない。
難易度は一番難しいといわれている【Ultimate】級を選択。
ランクマッチをするにはある程度、試合をこなさないといけない。
そのためにはさっさとレベルを上げないとな。
肩を軽くほぐしながら、オレは意識を画面に集中させていった。
◆ ◆ ◆
LGではゲームが始まる前に、【ピックフェイズ】というものがある。
MMORPGのように特定の職業といったものは存在しないが、その代わりに、プレーヤーには【ロール】と呼ばれる役割があるのだ。
タンク・ファイターといった前衛、アサシン・メイジ・ガンナーなどといった火力(キャリー)の後衛。そういったものが細かく分類されている。
だから【ピックフェイズ】では、より良いチームバランスをとるために、プレーヤーがどのロールをやるのかを互いに相談しあって決めなければいけないのだ。
画面が切り替わり、オレを含めた合わせて計5人のプレーヤーがお馴染みのフィールドに召喚される。
すぐ目の前には【グロリアス・クリスタル】と呼ばれるコアが煌めいている。
LGでは、先にこのコアを破壊したチームが勝利となる。
「はいっ! 私、キャリーやりたいですっ!」
ピックフェイズが始まると、専用のボイスチャットで真っ先にそう宣言したのは赤髪のちっこい少女風アバター。声も女性らしい。
LGでは、ボイスチャットで仲間とコミュニケーションを取るのが一般的。
細かい情報を伝えるのに、一番的確に素早く伝達することができるからだ。
「キャリーって、後衛だよね? 魔法? それとも物理?」
と、その隣にいた海賊アバターに身を包んだ男が訊ねる。
「もちろん魔法で!」
赤髪アバターは揚々と声を上げながら、スキルセットをみんなに見せびらかしてくる。
ベースダメージが中々高く、モーションもかなり良さげな感じだったので、コンボも決めやすそうだった。
「じゃあ俺はフロント……タンクやろうかな」
そんな風に互いにスキルセットを見せ合いながら、次々とロールが埋まっていく。
「えーっと……【Flaw】さんはどうしますか?」
「……」
「あのー【Flaw】さ~ん? いますか~?」
「……あ、はいはい」
どうやら赤髪のアバターがオレに話しかけてきていたらしい、別のことに意識を集中させていたせいで気付かなかった。
「あー……、ロールどこ余ってる?」
「えぇと、ファイターとか前衛のポジションですね。一応遊撃なんかも空いてますけど……」
「んじゃ、ファイターで」
正直このスキル構成ほぼ初心者オススメセットだし、かといって初心者と思われるのも面倒なんだよな……。
ULTIMATE級はある程度熟練したプレーヤーが多い。
そこに初心者が入ってきたとなると、あまりいい顔をされないのは明らかだ。
ピックフェーズの末、チーム構成は、前衛(ファイターとタンク)が2人、後衛のキャリー(物理と魔法)が2人、サポート1人のオーソドックスな構成になった。
「それじゃ私、ミッドレーンいきますね」
「んじゃあ俺はトップ~!」
わいわいとボイスチャットが賑わいを見せる中、オレは無言でマップ内の中央地点へと向かう。
そしてミドルからトップ方面にかけてのところに、敵を見つけた。
AI・《ボーンベア》。
クマとイノシシを足して2で割ったような四足歩行アバター。
系統はタンク・ファイターだろう。オレと似たようなタイプだ。
オレは手始めにスキル・《ソード・ショット》をボーンベアに叩き込み、更に追い打ちでオートアタック(通常攻撃)を挟む。
敵のHPが2割ほど削れる。
まだゲームは始まったばかりでレベルは1なので、スキルは1つのみ。スキルのクールダウンがあがるまで後はひたすらに殴り合うだけとなる。
オレの攻撃に反応して、ボーンベアも反撃してくる。荒れ狂うようにこちらにめがけて突っ込んできた。
【Flaw】のHPバーが3割程減少する。加えて1秒弱のスタン。
そこからボーンベアのオートアタックによって、HPが更に削られていく。
(――なるほど突進スキルか。なら、いけるな)
すぐさまオレは反撃することを選択。
オレはボーンベアとうまい具合に距離を測りながら、殴り合い、近くにあるブッシュ(茂み)にまで誘導する。
オートアタックは対象を指定して攻撃するので、回避は不可。
お互い近接攻撃主体(Melee)なので、オートアタックの射程距離はほぼ同じくらいといっていい。
だが当然こちらに勝機はある。
「(クールダウンの差があるからな)」
《ソード・ショット》はただの片手剣で薙ぎ払うだけのスキルで、オートアタックにちょっと毛が生えたものでしかない。
ダメージも、モーションも、至って普通。
だがその汎用性はというと破格で、レベル1にしては、かなり優遇されているといっていいだろう。
そして、ボーンベアの突進スキルはスタンという行動阻害がある分、クールダウンは長い。
レベル1であるならば、恐らく20秒前後。
対して、オレの《ソード・ショット》は6秒でスキルを回すことができる。
そしてもうひとつ。
AIは膨大なプレーヤーのデータから、より人間らしく振る舞うようアルゴリズムが組まれている。
それはもちろん、数多ものプレイヤーの動きを参考にして作られている。
だが人間らしさを求める余り、そこが弱みとなってしまう部分もある。
瀕死になったら相手に勝てそうな勝負でも逃げてしまったりすることがあるのだ。
互いに攻撃を交わし合う。
ボーンベアのHPが2割程になって勝てないと判断したのか自陣へと撤退を始めた。
だがそのタイミングではもう遅い。
オレは余すことなく追撃していく。
そして。
《【Flaw】がAI・ボーンベアを倒しました。ファーストキルを獲得です。》
そんなアナウンスが流れる。
LGでは相手を倒せば大量のゴールドを得られることができ、より自分の装備が早く揃えられ、スピーディに育つことができる。
そうなれば自然とゲームに対する影響力もあがる。
それからもオレは、ペースを落とさずにゲーム時間5分で3キルを獲得。
「あれ? これって難易度【Beginner】じゃないよな?」
「そのはず、なんですけどね……」
海賊アバターの男がボヤき、赤髪アバターが苦笑いしながら答える。
そんな声を無視して、オレはただひたすらに目の前のプレーに集中する。
キーボードに添えた左手の指先をフルに活用して、右手は一切休めることなくマウスを動かしていく。
(いける……!)
《【Flaw】のダブルキル!》
(敵の方向スキルは避けて、と)
《【Flaw】のトリプルキル!》
ゲーム内アナウンスが休まることなく次々と流れていく。
「え?」
「うまっ……」
【Ultimate】級のAI相手に、1対3といった人数差を作られても負けない圧倒的な強さを発揮していた。
そうして一方的なワンサイドゲームが続いていき……。
ゲーム時間16分50秒。
圧倒的なゲーム運びによって、AI戦に勝利したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます