第2話
――『リーグ・グロリアス』。
それは5vs5のチーム戦で、相手の拠点破壊を目指して協力していくスタイルのゲームである。
MOBA(マルチプレーヤー・オンライン・バトル・アリーナ)とも呼ばれており、1人1体のキャラクターを操作してプレーするのは感覚的にはアクションRPG、戦略面ではチェスや将棋に近い。
自分でスキルを作り、組み合わせることができる自由度、それらによる無数のスキルの組み合わせ、仲間との協力、奥深い戦略の幅が若者の間で人気を博し、今最もアツいゲームともいわれている。
◆ ◆ ◆
「お、お客さん」
「……ん」
「お客さん、着きましたよ」
「……んあ?」
まどろみの中で、ゆっくりと意識が覚めると、運転手がこちらを心配そうに見ていたのに気付いた。
どうやら眠っている間に到着していたらしい。
「……どうもすいません」
料金を払い、ドライバーに礼を言ってから、オレはタクシーからそそくさと降りる。
春にしては真冬並の寒い風が吹き荒んでおり、思わずきゅっと肩をすくめた。
スマホで時刻を確認すると、深夜1時を回っていた。
「もっと着込んどくべきだったな……」
そう独りごちて、オレは目の前の店を眺める。
このご時世にしては何とも古臭いネオン発光の看板がキラキラと輝いている。
新規の客を一切寄せ付けないようなレトロな外観だった。
サイバーネットカフェ・《ゲーミングラバーズ》。
ここは、オレが学生時代に根城にしていた場所でもある。
プロになる前――アマチュア時代にお世話になった懐かしの故郷といってもいい。
それに、帰るならここしかなかった。
店の中に入ると、店内は外と変わらないほど薄暗かった。
今は深夜で常夜灯に切り替わっているので、モニターの明かりが漏れているだけで、ひっそりとしている。
オレはカウンターの方まで向かい、店員に会員証を掲示する。
「席は?」
「PC、シングル席の一番奥で」
さっと手続きを終えて、シングル席の一番奥に入る。
そこにあったのは、長らく使われてない形跡を感じさせる一世代前のPCだった。
「おぉ……」
久々に見たというのに、隅々まで清掃が行き届いていて驚きの言葉が漏れる。
店長が綺麗にしてくれてたんだろう。
ありがたいのと同時に、水を得た魚のようにやる気がみなぎってくる。
「よしっ……!」
早速オレは椅子に腰掛けて、モニターの電源をつける。すると全身にあの頃の感覚が戻ってくるように感じた。
椅子の傾き、モニターとの距離、程よい明滅具合……。
そういった諸々の全てが自身にフィットする。
ここはLGを最適なパフォーマンスでプレイするために作られた、専用の特等席といってもいい場所だ。
もう数年近くプロ生活をしてて足を運んでいなかったが、やはり最高の空間だ。
改めてそう実感させられる。
それから1時間近くにわたる長いアップデート(1年間やっていなかったから当然のことだが)を終え、久々にゲームにログインしようと思ったところで、オレはふと思い出した。
「……アカウントがない……」
正確には、『安心してログインできる』という言葉が前につく。
オレのメインアカウントはもちろん存在する。
だがログインした時点で、周囲に俺の存在がバレてしまう。
嗅ぎ回ってるやつもいるかもしれない。
それに今は土曜日の深夜、アクティブプレーヤーが最も多い時間帯ともいえる。
下手したら、SNSで拡散されて位置を特定されかねない。
「別のにするか……」
やむなく、オレは新規アカウントを作ることにした。
適当にデフォルトで用意されているスキルを組み合わせながら、自分のキャラクターを作っていく。
「ま、こんなもんでいいだろう」
キャラクターはすぐに完成した。
外見、スキル含めて、所要時間は3分もかかっていない即席だ。
ちなみにスキル内容はこんな感じだった。
スキル:
《クラシックリープ》:指定位置に移動する。
《ソード・ショット》:使用後、次の攻撃が自身の通常攻撃を強化したものに変化する。プレーヤーにヒットした場合は自身の移動速度が増加する。
《硬化》:一定時間防御力が上昇する。
《覚醒飛翔波》:指定した位置に自身が飛び込み、対象及び周囲の敵にダメージとノックアップを与える。
初心者向けので固められた極めてシンプルなスキル構成。
特にこれといった強みもなく弱みもなく、いうなれば器用貧乏。
まあでも、そこまで悪くはない。
【作成完了】をクリックするとすぐにプログラムが起動して、『算出中……』の文字が表示される。
スキルモーションを確認して、それに適したダメージやクールダウン、射程距離などといった細かいパラメータが自動で設定されていく。
しばらく経過してデータの設定が終了した。
程なくして、『プレーヤー名を設定してください』との文字が現れる。
「これでいいか」
少し考えた後、オレは決定ボタンを押した。
プレーヤー名:【Flaw】
それがオレの、LGでの第二のサブアカウントとなった。
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