第16話中世異世界転生・その8.5

「その、花子。いい加減俺のお腹をまさぐるのやめてくれないかな。もう本番じゃないよ」

「あ、ああ。そうだったわね。ごめんね、太郎。すっかり役に入りこんじゃって。ほら、今まで大活躍してたインちゃんがたまたま、タロウ君に助けられて、あっさりとタロウを好きになるって言うありがちパターンだったじゃない。ついついそのインちゃんになりきっちゃって」


 舞台が暗くなっても、しつこく太郎のお腹をなでくりまわしていた花子であるが、太郎に言われてようやくおさわりを中断する


「いや、全然いいよ。それだけ役に入りこんでたってことだもんね。それにしても、やっぱり花子はすごいなあ。本番中だけど、俺ドキドキしちゃったもん。あんなに迫真な表情を見せるんだもんなあ」

「そ、そうかな。あたし、すごいかな、太郎」

「そりゃあ、すごいよ、花子。舞台の上だけど、あのインちゃんが演技なんてとても思えないもん。真にせまっていると言うかなんと言うか。花子みたいなすごい役者さんと共演できて、俺、嬉しいよ」

「と、当然じゃない。このあたしと共演できるのよ。光栄に思いなさい。でも、太郎だって悪くはないわよ。まあ、太郎が良ければ、いつでも共演してあげるわよ」

「ほんと? 嬉しいよ。花子みたいなすごい女優と一緒に舞台をやれるなんて、最高だよ」

「ま、太郎の演技もいい感じだしね。ご褒美よ」


 素直に花子を女優としてほめる太郎と、ちっとも素直でない花子である。正直に太郎と共演したいと言えばいいものを。


「次でこの舞台も最後だね、花子。なんだかなごりおしいなあ。せっかく花子と共演できてると言うのに。今回の舞台は、ショートストーリーだからな。脚本も一万字もないよ。どうせなら、脚本が十万字くらいある大作をやってみたいよ。どうせなら主役で」

「太郎ならいつかきっとできるわよ。いつかきっと。太郎、いつもコツコツやってるじゃない。そんな太郎がむくわれなきゃあ、嘘ってものよ」


 そんなことを、せつなさそうな表情で言う花子である。そんな花子に、太郎はくったくなく言葉をかけるのだった。


「そうだね、その時は、花子と共演できたらいいなあ。花子がいないと俺、不安だよ。なんだかんだ言っても、花子とはつきあい長いからなあ。やっぱり気心が知れてる花子がいると安心するよ」

「な、何を言っているのよ、太郎。今からそんなこと言っていてどうするのよ。だいたい、まだ舞台の途中よ。余計なこと言っていないで、集中しなさい」

「それもそうだね。おっと、スタッフさんがゴーレムのパーツやらハリボテの氷やらを片付けてくれたよ。それじゃあ、舞台の再開と行こうか、花子」

「オッケーよ、太郎」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界ファンタジーの掟 異世界太郎の異世界あるある @rakugohanakosan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ