第15話中世異世界転生・其の8
「ああっ、この悪魔! わたしのタロウに何するのよ。ボム!」
俺のお腹を爪でつらぬいている悪魔を、インさんが呪文で吹っ飛ばす。さっきまでは、なんだかよくわからない詠唱みたいなのを唱えていたのだが、今回は“ボム”と言っただけである。
それでも、きちんと効果があるのだから、魔法というのは不思議なものである。それにしても、あんなにおしとやかだったインさんが、詠唱も省略するくらいだから、よっぽど俺が傷つけられたことを怒っているのだろう。
出会ったばかりの俺が怪我したからって、あんなに怒ってくれるとは、インさんは正義感もお強いんだなあ。
そんなことを俺が考えていると、インさんが鬼気迫る表情でこちらにやってくる。
「あああ、タロウ、無事かしら。タロウ、“わたし”のためにこんな怪我までしちゃって。今すぐ手当てしなきゃいけないわ。大丈夫、魔法でなんとかなるわ。でも、傷の具合をちゃんと確認しなきゃいけないから、少し服を脱がしちゃうわね。平気よ。タロウは天井のシミでも数えていればいいの」
「えっ、でも、女の子に服を脱がさせるだなんて……」
「いいから、緊急事態なのよ、じっとしていなさい」
一応は俺も男の子であるから、女の子に自分の服を脱がさせるというのは遠慮しなくてはいけないなあ、とも思ったのだ。だが、インさんが目を血走らせたうえに激しい息づかいで、俺の服を脱がせようとするのを見ると、とても抵抗する気にはなれない。俺の治療にそこまで一心不乱になってくれるなんて、ナイチンゲールみたいな聖女さまだ。
そんなこんなで、インさんにシャツをひんむかれた俺である。そんな俺を見て、インさんは、ますます表情をけわしくして、俺の悪魔の爪で穴があいた裸を、穴があくほど見つめてくるのだった。俺の怪我は、そんなにひどいのだろうか。
「ううむ、これは、見れば見るほど、いやあ、しかし」
「その、インさん。俺の怪我、大丈夫ですか」
「えっ、ああ、心配ないわ。このインさんが、ちゃんと元どおりにしてあげるから」
そう言うと、インさんは呪文を唱え始めるのだ。
「癒せ。
てっきり、何か得体の知れない光が俺の体を包み込むと思ったが、そうではなかった。インさんの両手が、俺が怪我をしたお腹のあたりをなでてくれる。それはもう念入りに。傷口を触られるのだから痛いかと思いきや、むしろ気持ちがいい。
かれんなインさんのボディータッチだから、気持ちいいのは当たり前かも知れない。
そうこうしているうちに傷もふさがってきた。すると、いつのまにか俺の手二つの指輪が握られていた。それを見たインさんが叫ぶのだ。
「タロウ、それが結婚のしるしよ」
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