第14話中世異世界転生・其の7.5
「ええと、大丈夫、太郎?」
「ああ、平気だよ、花子。ほら、この通り」
そう言って、太郎は花子に自分のお腹を見せる。どこも怪我はしていない。読者からは悪魔の爪が、太郎のお腹をつらぬいたように見えたかもしれないが、悪魔役は太郎のお腹から、自分の爪をちゃんとずらしている。
「それにしても、結構派手なアクションシーンだったけど、スタッフさん達問題ないかな。ねえ、花子」
「なんとかやってくれたんじゃない。竜巻やら吹雪やらで観客から見えなくしてるうちに、ゴーレム役やサイクロップス役の役者さんから、死体用に小道具さんが作ってくれたゴーレムのパーツやおっきい氷のかたまりっぽいハリボテにいれかえたみたいだし。リビングアーマーに至っては、最初からただの鎧をピアノ線で吊るしていただけだしね」
「そのピアノ線で吊るすのをやめれば、すぐにただの鎧に戻っちゃうわけか」
「それよりも、太郎。次はあんたの怪我を手当てする段取りなんだからね。ちゃんと血のりお腹につけときなさいよ」
花子にそう言われて、急いで自分のお腹に血のりをぬりたくる太郎である。
「ああそうだった。こんなものでいいかな、花子」
「うん、そのくらいでいいんじゃない。だけど、手当てと言ったって、インちゃんがタロウのお腹に手をあてたら、よくわからない光が輝いて、それできれいさっぱり元どおりって言うパターンじゃないのよ。大事なサービスシーンなんだから、気合い入れていくわよ。しっかり打ち合わせしなくちゃね」
本番前のリハーサルをしておこうと言う花子である。さすが女優さん。下準備にも手を抜かないようだ。
「サービスたって、花子。服を着たままじゃ手当てしにくいからって、嫌がる俺の服をインちゃんが脱がすシーンだろう。男の服を女の子が脱がしたからって、読者は喜ぶかなあ。こういったものを読むのは、だいたいがすけべな男の子だよ。そんな男の子に俺の裸がサービスになるかねえ」
「何を言っているのよ、太郎。最近の男の子の変態さを甘く見ちゃあダメよ。自分は嫌がっているのに、女の子に服を無理やり脱がされる。こう言うのだって、ちゃんとファンサービスになるんだから。太郎、あんたも役者なんだったら、読者の求めるものを演じて見せなさい」
「そんなものかねえ、花子」
「そんなものなの、太郎。と言うことだから、きちんと嫌がる演技をするのよ。悪代官に服を脱がされるバージンちゃんみたいに。そんなタロウくんを、インちゃんが手当てのために仕方なく裸にするんだから。あたしも、別にそんなことはあまりやりたくはないんだけど、脚本に書いてあるから、女優としてきっちりやってみせるわ」
「まあ、脚本に書いてあるから、俺も嫌がるけどね。ああ、でも、その前に悪魔をやっつけちゃってね。悪魔をやっつけてから手当てと言う流れだからね、花子」
「わかってるわよ」
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