第12話中世異世界転生・其の6.5

「どうしたの、花子、ぼさっとしちゃって。これから花子の大活躍が始まるってのに」

「あ、ああ、そうだったわね」

「へんな花子。いつもだったら、『モンスターを魔法でバッタバッタか。まったくもう、少しはひねりなさいよ』なんて言うところだろうに」

「うるさいわね、ほら、とっとと始めるわよ。モンスター役の皆さんだって、ばっちりスタンバイしてくれてるんだから」


 太郎の言う通り、どこかへんな様子の花子である。そんな花子に、太郎がポツリと言うのだった。


「それにしても、この脚本だと結婚式はやらないんだよなあ。やっぱり、結婚式を舞台でやるとなると、色々準備も大変だしなあ。どうせなら、結婚式、やりたかったなあ」


 ガタッ!


 太郎のポツリともらした言葉に、盛大に反応する花子である。


「どうしたの、花子。花子も結婚式やりたかったの。そうだよねえ。役者だったら、一度は結婚式で花嫁花婿を演じてみたいよねえ。エキストラで結婚式の客をやったことはあるけど、新郎新婦ってのはないからなあ。確か花子もそうだったよね」

「え、ええ、そうよ。あたしも花嫁さんを演じたことないわ。そ、そうね、役者だったら、結婚式の一つや二つ、演じてみたいわよね。ウエディングドレスだって、一度は着てみたいもの」

「やっぱり花子もそうか。花子も役者なんだなあ。ウエディングドレスかあ、ビジュアル的にインパクトあるよなあ。タキシード姿の新郎にウエディングドレス姿の新婦が愛を誓う。ううん、演じてみたい」

「そうね、演じてみたいわね。でも、予算がないからね、今回は結婚式、できそうにないわね、太郎」

「そうなんだよなあ。予算がないからなあ。派手な結婚式なんて、出来るはずもないよなあ。低予算舞台の辛いところだよなあ」

「そうね、全て予算が原因よね。わたしと太郎が結婚できないのは、みんなみんな予算がカツカツだからなのよ」

「まあまあ、花子。そうぶーたれるなって。低予算だけど、低予算なりにいいものを作ろうじゃないか。スタッフさんだって頑張ってくれてるし。そうすれば、いつかきっとでかい舞台にでかい役で出られるようになるよ。結婚式だって出来るかもしれない」

「そ、そうね。いつかはきっと結婚できるかもね。それじゃあ張り切って行くわよ、太郎、スタッフさん、それにモンスター役の皆さん」


 そう言って、やる気まんまんで本番の舞台にのぞむ花子なのである。


「それにしても、花子はいつも舞台では真剣だなあ。俺も見習わなきゃあ」


 そんな花子を、太郎は役者として尊敬しているのである。

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