第6話中世異世界転生・其の3.5

「それで、転生先の異世界でばったり出会った、おっぱいの大きいかわいい女の子が、お金持ちのお嬢様だったわけね。ご都合主義もここにきわまっているわね」

「だって、中世風の異世界なんだから、ぜいたくな感じの豪勢なお屋敷を舞台にしたいじゃないか。せっかくのお話なんだから、箱入り娘の女の子をヒロインにしたいよ」


 さっきまで、おしとやかながらも自分の父親にきりっと反抗して見せる、典型的な国営放送の朝ドラヒロインみたいな女の子を演じていた花子だが、本番でないときは文句たらたらである。


 そんな花子に、こういうのを男が求めていると説明する太郎である。しかし、花子は不満を言い続けるのだ。


「で、父親に反抗しているんでしょ。どうせ、親に決められた結婚話を嫌がって、たまたま町で出会った主人公に、結婚相手のふりを頼むという、異世界あるあるな展開なんでしょ。この後のストーリーがどうなるかだって、ありきたりなものに決まってるわ」

「いいじゃないか、花子。お約束、ありきたり、あるある、大いに結構じゃないか。読む方だって、結局ははこういうのが読みたいんだよ。そりゃあ、斬新ざんしんなアイデアとか、独創的なストーリーの作品が、大ヒットすることもあるけど、そんなの一握りだよ」

「だけど、役者であるからには、そういうのをやってみたいわ。太郎はそうは思わないの」

「そりゃ、思わないこともないけどね。そんなのをやれるのは、運とかコネとかも必要だからさ。とりあえず、こういったありがちテンプレートをこつこつやっていこうじゃないか」


 太郎の説得に、とりあえず納得したみたいな花子である。そんな花子が、自分のお父さん役のおじさんのことを話すのだ。


「それにしても、あのおじさんもねえ。あそこまで意地悪なお父さんをやらされちゃって。逆になんだかかわいそうになってくるわ。もちろん、そんなことは舞台では顔に出せないけど」

「まあまあ、物語には憎たらしい悪役も必要だよ。悪役が読者のヘイトをためるからこそ、主人公側が映えるんじゃないか。それを考えれば、あのおじさんも役者みょうりに尽きるってものだよ」

「そうかもね。実際、ベテランだけあって演技はきちっとしてるもの」

「だからこそ、花子も敬意をもって、舞台ではあのおじさんを嫌わないとね。それが、悪役さんに対するヒロインの作法ってものだよ」

「それじゃあ、その作法とやらをするとしますか」

「一つお願いしますよ、花子さん」

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