第5話中世異世界転生・其の3

 俺がインさんに引っ張って連れてこられたのは、立派なお屋敷だった。


 ベルサイユ宮殿とまではいかないが、だだっ広い庭に、部屋の数が三桁はありそうな豪邸がどっしりと建っていた。


 そんな屋敷の最上階にある一番豪華な部屋に、俺はインさんに連行される。


 そこには、絵に描いたようなお金持ちの中世貴族といったかんじの中年のおじさんが、機嫌の悪い顔をして座っていた。そんなおじさんに、インさんは言ってのけるのだった。


「お父様、わたしはこの男性と結婚します」


 この貴族っぽいおじさんはインさんの父親みたいだ。その父親に宣言した後、インさんは小声で俺にささやくのだ。


「とりあえず、ここは話を合わせてください、タロウ」


 そうインさんに言われても、俺は黙っていることしかできない。そんな俺を、インさんのお父さんは上から下まで値踏みするような目つきで眺めまわしてくる。中世貴族にありがちな、平民を家畜ぐらいとしか思ってなさそうな雰囲気が、俺にもビンビンに伝わってくる。


「この方が結婚相手かね、ヒロ。良ければ、お父さんに紹介してくれないか」


 ”この方”なんて言っているが、内心は俺のことを一段も二段も下の階級の人間と思っているに違いないのだ。こんな父親の娘が、どうしてインさんみたいなかわいい女の子なんだろう。


 そのインさんが、俺のことをお父さんに紹介してくれる。


「はい、お父様。この方は、”イセカイ・タロウ”さんです。わたしが結婚すると心に決めた男性です」

「それだけかね、ヒロ」


 インさんが俺の名字と名前をお父さんに言ったが、お父さんは不満げである。その不満げな様子を隠そうともせず、薄ら笑いを浮かべてお父さんが言葉を続けるのだ。


「ヒロ、お前は自分の父親に結婚相手の名前しか教えてくれないのかね。それとも、名前しか知らないのかな。まさかそんなはずはあるまい。どこかの道端で出くわしただけの通りすがりの人間を連れて来たわけでもないだろうし」


 お父さんは、見て来たかのように俺とインさんとがここにいるいきさつを、”そんなはずはない”という形式で言ってくる。さすがは中世貴族様だ。そんなお父さんが、全てお見通しだという様子でインさんに尋ねるのだ。


「お前たち二人が結婚するというのなら、我が家の家訓を果たさなければならないことは知っているだろう、ヒロ」

「ええ、知ってます、お父様」


 家訓? なんだそれは?


「結婚するなら、二人で神殿に行き、試練を乗り越えなければならない。ま、結婚しようとする二人ならできるだろうが、今日出会ったばかりの二人なら厳しいだろうな」

「心配いりません、お父様。わたしとタロウの二人で、その試練を乗り越えて見せます」


 俺の意見はどうでもよさそうである。

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