第2話中世異世界転生・其の1.5

「とりあえず、こんなものかな。花子さん」

「まあ、こんなものなんじゃない。太郎君」


 ひとしきり、テンプレート通りの中世ヨーロッパ風の異世界への転生と、女の子との出会いが表現されたのち、場面が暗転して、主人公の男と、ヒロイン役の女の子にのみスポットライトが当たる。そして、男と女の子の二人だけの会話となる。


 ちなみに、男の芸名は異世界太郎で、女の子の芸名は転々花子である。


「しかし、そのおっぱい、少し盛りすぎなんじゃない。花子さんのおっぱいって、基本貧乳なひらぺったいおっぱいでしょう」

「うるさいわね。あたしだって、こんなおっぱい嫌で嫌で仕方がないわよ。動きにくいわ肩がこるわで。だけど、女の子は、とりあえずおっぱいでかくしとけって言うのが、こういうお話の基本なんだから、仕方がないでしょう」


 そう話している最中にも、花子のおっぱいは縦横無尽じゅうおうむじんに所狭しと揺れている。作り物とわかっていても、ついついそのたわわなおっぱいに注目してしまうのが、男の悲しいサガである。そのご多分に漏れず、太郎も花子のおっぱいから目が離せない。


「それにしても、トラックにひかれるの、これで何回目になったかなあ。慣れたとはいえ、やっぱり痛いものは痛いよ」

「しょうがないじゃない、太郎君。異世界に転生する条件は死ぬことって言うのが、ある種のセオリーだし、主人公を殺すには、トラックでひき殺すのが手っ取り早いんだから」


 太郎と花子は、それなりに長い付き合いである。もはや、トラックにひかれたくらいで、太郎を心配する花子ではないのである。


「だけど、中世ヨーロッパかあ。いい加減飽きて来たよ。そう思わない、花子さん」

「だって、需要があるんだもん。こういう、テンプレートって言うか、王道を読みたがる人間は、いつまでたっても一定数いるものよ。それに、一定数の供給もあることだしね。こんなありきたりな、中世ヨーロッパ異世界を書きたがる作者も一定数いるんだから。書くのにたいして手間もかからないんだから、そりゃあこういうのを書く人間が減ることはないわよ。需要と供給があるとなれば、こんな話は作られ続けるに決まってるわ」


 身もふたもないことを言う花子である。しかし、役者である以上、注文にはこたえるべきであろう。例えそれが、どんなにマンネリであっても。


「で、花子さん。今回の花子さんの役名は何だっけ。俺は”異世界太郎”だけど。芸名をそのまま役名にしやがった」

「”ヒロ・イン”よ。二人とも何のひねりもありゃしないわね。覚えやすくていいけど。それじゃあ、再開するわよ」

 

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