第32話 今宵の告白・・・

 あおいさんが、遼さんと別れて数日が経過した。

 ここ最近は、ちとせ・あおいさん・僕、そしてもう一人、僕がちとせの家を訪れた時に突然通話をし始めた『総お兄ちゃん』と、呼ばれていたそうさんという男性の4人でグループ通話をしてそのまま寝落ちするという日々が続いていた。総さんと、初めて会話した時は、僕は警戒心むき出しであったが、通話を重ねていくごとに、とてもいい人であることが分かってきて、徐々に申し訳なさまで覚えていた。ちとせの友達であるが故に、自分勝手に闘争心丸出しで牙を向けようとしていた自分が恥ずかしく思えてきた。

 そして、今となっては、総さんも大切なネッ友として、僕は受け入れることが出来ていた。


 そんな中で、迎えたとある日の夜。総さんは、珍しく用事があるとの事で早々と通を抜けてしまい、ちとせとあおいさんと僕の3人だけになっていた。


『フン~ッフ~フフン~』


 ちとせは毎度のごとくご気楽そうにipodで音楽を流しながら鼻歌を奏でていた。


 一方のあおいさんは、何やら重そうな空気を漂わせており、何度もはぁ…っとため息をついていた。


 他二人が各々のことをしている様子であったので、僕も本を読みながら何かあれば会話に参加するスタンスを取っていた。


『・・・ちょっと、抜けるね!』

『はーい』


 すると、突然ちとせが通話を抜けると言い出した。恐らくは、他の誰かと通話する予定が出来たのであろう。


「わかった~」


 僕がそう返事を返して、すぐにちとせは通話から抜けていき、僕とあおいさんの二人だけになってしまった。


『はぁ…』


 僕と二人だけの通話になっても、あおいさんと特に話すようなこともなく、定期的にあおいさんのため息だけが電話越しから聞こえてくるだけだ。


 ため息をついている理由を聞いた方がいいのだろうかとも考えたが、あおいさんの方から言ってこないのであれば、ただ話したくなるまで待ってあげた方がいいだろうと思い。通話を繋げたままで、本を読み続けた。


 しばらくして、『はぁ~・・・あ~・・・』っとため息以外の呻き声のようなものをあおいさんが上げた。


 僕は本を読むのを一度やめて、スマホの方へ目を向ける。あおいさんはそれ以上何も発することはなかったが、通知のランプが光っていることに気が付いた。


 僕はスマホを手に取り、通知を確認した。

 LANEからのメッセージが届いており、何と送り主は、今通話しているあおいさんだった。


 あおいさんのトーク画面を開いて内容を確認する。そこには、目を疑うような文章が書かれていた。


『似鳥さん。突然で申し訳ないのですが、よかったら私と、似鳥さんは、ちとせので、友達の男に手を出すなんて最低だとは自覚しています。でも、似鳥さんと話していると、優しくて、気遣ってくれて、この人といれば幸せな人生を送れそうだなって感じました。こんな私でよければですが、似鳥さんが決めることなので返信待っています。あ、それと、ちとせには既に了承もらってるから安心して!』


「…」


 僕は予想外の出来事に絶句して言葉も発することが出来ない。

 というか、完全に頭が混乱してどうすればいいのか分からなかった。


「え?・・・へぇ!?」


 あおいさんの表情を窺うかのように、スマホをじぃっと見つめる僕。そんな僕を見て、あおいさんが『フフッ・・・』っと少し笑ったような気がした。


 僕はもう一度よくあおいさんの告白のメッセージを眺めた。

 色々と聞きたいことは山々であったが、ひとまず、最後に書いてある。ちとせにも了承を貰っているということに関して、本人に事実確認をしなくてはならないと思い、ちとせにLANEのメッセージを送った。


『おい、ちとせ!?どういうことだ!?!?』


 僕が慌てふためいた感じでメッセージを送ると、すぐに既読が付いた。


『ん?何?』

『何じゃねーわ!突然、あおいさんから告白されたんだが!?しかも、ちとせの了承を得たとか言われたんだが!?どういうこと!?!?』

『あぁ~笑 あおいに相談されて、その時ににとお兄ちゃんの事おすすめしたからなぁ~笑』

『はい?!?!へっ!?え!??』

『動揺しすぎだし笑』

『そりゃ動揺もするわ!まさかのカーブ来たわ!!』

『笑笑 ま、あおいとお幸せに笑』

『いやいや、まだ付き合うとは言ってない!』

『えぇ~・・・』


 いやいや、そもそも僕が好きなのは・・・


 そこで改めて、自分がようやく冷静になって考えられた。

 僕が好きなのはちとせ、だからあおいさんとは今は付き合うことが出来ない。

 だけど…正直、ちとせが僕をあおいさんにお勧めしたってことは、僕はちとせの眼中にないという暗示でもある。

 それに、あおいさんの告白にも書いてあった、『似鳥さんは、ちとせの』というフレーズを見た時も、悪気がないのだろうが、矢が刺さったようにチクリと心が痛んだ。


「う~ん・・・スゥ・・・」


 僕は頭を掻きながら迷いに迷った。というか、あおいさんと今通話中なんだよな…この声全部聞かれてるんだよなぁ・・・


「…ふぅ」


 息を大きく一度吐いてから、僕はあおいさんに返事を返す。


『気持ちは凄いうれしいんだけど、あおいさんのことまだ正直全然知らないし、いきなり付き合うとかは出来ないかなって思うんだけど…』


 少しやんわりとした感じで返事を返すと、5分ほど経ってから、あおいさんから返事が返ってきた。


『あんまり知らない状態から付き合うのも、新鮮味があって、私はありだと思いますよ!』


 そんなことを言われてしまったら、断るに断り切れなくなってしまう。


「う~ん」


 僕は再び頭を抱えながらどうしようかと考える。あおいさんに伝わるように傷つけないようにしながら注意して返信を返した。


『気持ちは凄いうれしいし、あおいさんの考えも理解は出来る。正直に話すと、僕は、ちとせのことが好きだったんですよ。だから、今すぐにちとせのことを忘れて、あおいさんと付き合うってことは出来ないです。だけど、あおいさんのことは、もっと知りたいって思うから、自分が切り替えできるまで告白の返事を待ってもらっていいですか?優柔不断で申し訳ありません』


 出来るだけ僕が今思っている気持ちを簡潔に素直なままに伝えることが出来たと思う。そして、しばらくしてあおいさんから返信が返ってきた。


『わかった。似鳥さんの返事、ずっと待ってるね!』


 そんなにしてまで、僕の返事を待っていてくれるなんて…僕の胸の奥から何かこみ上げてきそうな、何かつっかえるものがありながらも、こうして僕の身に、急展開が起こる事態が起こったのだった。



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