第31話 恋の始まりと終わり

 結局、あおいさんは遼さんと別れたそうだ。

 後で僕がちとせ、あおいさんの3人でグループ通話を別の場所で行った時に、聞いた話だが。あおいさんは、僕がちとせと知り合う前からも、遼さんは、あおいさん以外のネットで知り合った女性に何度もアタックを掛けたり、あおいさんの嫌がるような行動ばかりを常習的に行って、あおいさんを困らせていたそうだ。


 そして、今回別れる極めつけとなったのが、親友であるちとせをバカにして笑ったことが、あおいさんが別れを決意した一番の要因となったそうだ。以前にも友人をバカにしたことがあったそうで、その時に『二度とそんなことをしません』と遼さんがあおいさんに誓ったそうなのだが、またもやその約束を破る形となったそうだ。


『テッテッテッレー』


 そんな過去の話をあおいさんから僕が聞いている間、ちとせは呑気に鼻歌を歌っていた。


『はぁ…あんたは、自由やなホント・・・』

『えへへ…』

『いや、笑い事じゃねーからなホント』

「あはは…」


 僕は苦笑いを浮かべることしか出来ない。ちとせのそういう状況に場馴れしてしまっている自分がいることにも少し驚きを隠せないためでもあった。


『それに比べて、にとりさんは紳士に私の話を聞いてくれて、アドバイスまでくれて、本当に優しい』

「そうですかね?」

『にとりさんみたいな優しい人だったら、素敵な彼氏になれるんだろうなぁ…』

「いや?僕だって、いつも優しいとは限りませんよ?」

『優しいよ!』


 あおいさんはそう言い切ってくれるが、そんなことはない。僕だって、酷いときは自己防衛に走り、友達を見捨ててしまうことだってあるのだから…


『あ、ヤベっ、ゲップでそう』


 その空気をぶち壊すように、ちとせが呑気にしている。


『まったくあんたは・・・』


 母親のように、呆れてため息をつくあおいさん。


『あぁ!!』


 すると、今までとは違う歓喜の声をちとせが上げた。


『抜けるね!』

「えっ、あ、わかった」

『はーい』


 そう言って、ちとせは嵐のごとくグループ通話から離脱してしまった。

 恐らく、好きな人から通話しようとメッセージでも来たのであろう。あのテンションの変わりようはそれ以外考えられなかった。


 二人取り残された、僕とあおいさんは、あははは・・・とお互いに苦笑いを浮かべる。


「なんか、もう笑うしかないですね」

『本当に、ありがとね、いつもちとせのこと…』

「いやいや、僕なんて全然」

『でも、私も仕事とかあって、いつでもちとせを見てあげられるわけじゃないから、にとりさんがいてくれて助かってるよ』

「そうですか?まあ、そういってもらえるなら助かります」


 まあ、これからちとせとはどうなっていくのか先行きは不透明なんだけどね。

 ふとそんなことを思ってしまったが、口には出さずに、他の話題へと切り替えた。


 こうしてまた、とある人物の一つの恋が終わり、とある人物の新たな恋が始まろうとしているのであった。

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