第30話 別れその2

 ちとせとの寝落ち通話相手じゃなくなり、久々の一人での休日(毎日が休み)を謳歌していた夕方ごろだった。

 突然ちとせからスタンプ連打が送られてきて、その後に、『幸せなメンバーの通話来て!早く!』っとだけ書き綴られていた。どうやら、緊急事態のようで珍しくちとせも焦っているような物言いだった。



 折角一人の時間を久しぶりに楽しんでいたので、面倒くさいとは思ったが、ちとせからの頼みなので、渋々僕は、『幸せなメンバー』のグループ通話に参加した。

 すると、参加してすぐに聞こえてきたのは、奇声のような大声だった。


『大体ね!あんたはいつもいつも、私の趣味を否定してバカにして、人のもの勝手に奪って、何がしたいわけ!?』

『別にバカにしたつもりはないけど…』

『私にとっては、おめぇが私の趣味をケラケラと笑ってる時点でバカにしてるのと同じなんだよクソ』

『笑ってないって!』

『笑ってたし!』


 グループ内では、あおいさんと遼さんが本腰で喧嘩をおっぱじめており、既に収取が付かないほどヒートアップしていた。


『ってか、遼ちゃんはどうしてあおいのこと毎回毎回怒らせるわけ?彼女ならちゃんと趣味くらいわかってやれし』


 遼さんを咎めるようにちとせまで喧嘩に参戦していた。


『はぁ!?ちとせに言われなくても、それくらいわかってるし、はははは』


『っは・・・』

『てめぇ、私の親友バカにしたな今・・・』


 嫌な沈黙が通話内に流れた。


『てめぇ・・・これで私の友達バカにするの何度目だと思ってんだこらぁ!?』

『・・・すいません』

『はぁ?すいませんで許されると思ってんじゃねーぞこらぁ』

『ごめんで許されるなら警察いらないし、死ね』


 おいおい、ちとせまで野次馬のような煽りをしちゃってるし、もうこれどうなっちゃうの?!


『・・・もういい、あんたにはもう幻滅した。』


 そう言って、あおいさんはグループ通話から抜けてしまう。


『え?ちょっとあおい!?』

『あ~あ。もう私知らない。ねぇ、にとお兄ちゃん?』


 ここでまさかのカーブが曲がってきた。ってか、このタイミングで僕に振らないで!


「あ、あぁ…」


 僕はただそう答えることしか出来ない。


『早くあおいとちゃんと話し合ってこいやバーカ』

『うん…行ってくる、にとりさんまたね~』

「あ、はい、いいから早く行ってあげてください」


 このままでは、この場にいる僕まで居心地が悪い。


『じゃ、行ってきます』


 そう言って、遼さんはグループ通話から抜けて、あおいさんを追いかけていった。


「ふぅ・・・」


 ようやく修羅場から抜け出すことが出来て、思わずため息が漏れてしまう。


『あいつ、彼女の事バカにした・・・』

「えっ??」

『私の事バカにして笑うのはいいけど、あおいの事傷付けるなんて許せない。ホントいなくなってほしい。』


 ちとせの言葉には、棘のような鋭さがあり、ただただ遼さんを突っ放す冷酷さが窺えた。


「…」


 僕は、その言葉を聞いて、何も言うことが出来なかった。もしかしたら、言うことすら許されていなかったかもしれない。ちとせから感じる冷たい言葉が、いつ僕に降りかかってくるかもわからない。そう感じ取ってしまったからかもしれない。


 そんなことを思っていると、グループトークに信じられないメッセージが届いたのであった。


『遼と別れた。』

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