第24話 生意気なちとせ

 僕はゆっくりと覗き込むように中を覗いた。


 家の中から現れたのは、長髪の黒髪で、少しあどけなさが残った可愛らしい顔立ちに、ニコっと優しい目で僕を見つめてきている美少女だった。

 背丈はかなり低い方で150センチあるとは思えないくらいだった。


 黒のパーカーを羽織って、下はショートパンツ。パーカーのサイズが合っておらず、ショートパンツはわずかに見え隠れしているのみで、その下から白いスラッとした足が伸びていた。一瞬ズボンを何も履いていないのかと焦ったが、ちゃんと身に着けていて安堵する。


「よっ…」


 僕がそう挨拶をすると、ちとせは僕を一瞥する。


「にとお兄ちゃんだ…本当に来たんだ」

「当たり前だろ、昨日言ったじゃねーか」

「うん、そうだよね…」


 どうやらちとせは、僕が本当にちとせの元へやってくるのか正直疑っていたようだ。先ほど、僕が目の前にいることが信じられないように眺めていたのは、そういうことかと納得がいった。


「うん、それじゃあ、どうぞ?」

「うん、お邪魔します」


 ちとせに促されて部屋へとお邪魔する。ちとせはスタスタと僕を置いてそのまま部屋の奥へと向かっていってしまう。普通に歩いている姿を見て、昨日のような状態にはなっていないことを確認出来て少し安心した。


 玄関で靴を脱いで、僕はちとせの部屋の奥へと入っていく。

 部屋に入ると、ソファーの前にある黒い机の上に、小物などが無造作に置かれており、壁側にはストーブや扇風機の段ボールが山積みになっておいてあり、窓側にはハンガーにつるされた洗濯物が干され、太陽の光が部屋に差し込むのを遮っていた。

 お世辞にも綺麗な部屋とはいいがたかったが、生活感あふれる部屋であることは間違いなかった。


「あ、そうだ。これお見舞い」


 そう言って、僕はスーパーで買い込んだ頭痛薬や冷えピタ、嘔吐してしまって少しでも食べれるようにと、プリンやお粥、そして、ちとせが一番好きな飲み物のコーラを買ってきてあげていた。


 僕がその袋を手渡すと、ちとせは袋の中へ手を突っ込み、中身を確認しだした。

 そして、ヒョイっとお粥を袋から取り出すと、僕の方を向いて、手渡してきた。


「いらない」

「おいこら」


 流れるような動作に思わず突っ込んでしまう。


「だって~お粥嫌いなんだもん…」

「…」


 僕はその返されたお粥のパッケージを眺めた。僕が体調を崩したときにはいつもお世話になってる美味しいお粥なのになぁ…お粥さん、ごめんよ。


 そうお粥に謝ってから、ちとせの方を向いた。

 ちとせは、袋からプリンを取り出して、机の上に置いて、近くにあったソファーに座った。そして、プリンの蓋をベリッっと開けて、スプーンを袋から取り出して食べ始めた。


 ・・・なんて自由な奴なんだ。


 何も言葉を発することなく、自分の好きなように行動して、他人がいてもほったらかし。マジで自分勝手な奴である。

 そうと決まれば、僕も自由にさせてもらうまでだ。


 僕はソファーの後ろに荷物を置いて、ちとせが座っている隣に腰かけた。

 一瞬こちらを向いて驚いたような表情を浮かべたが、すぐにプリンへとしせんを戻して、パクパクと食事を続けた。その様子を僕はずっと横から眺めていたのだが、プリンを7割くらい食べた時だろうか??突然ピタリとちとせの食べる手が止まった。

 2、3秒ほど固まった後、スッと僕の方へと体を向けて、そのプリンを手渡してきた。


「飽きた、あげる」

「なっ・・・」


 思わず呆れた表情で声が出てしまった。ホントこいつはなんて生意気な奴なんだと・・・


 僕はため息をつきながらそのプリンとスプーンを受け取って、残っているプリンを平らげた。


「うゎ~関節キッス~」

「別に、そんなの気にしねぇよ」


 ちとせがからかうように言ってきたので、軽く受け流すように答えた。本当に気にしてなんかないんだからね?


「ま、いいや!私も全然気にしない人だし!」


 そう言って、ちとせはソファーから立ち上がり、右隣に敷いてあった布団へと寝っ転がった。


「食べ終わったら、ゴミ捨ててスプーン洗っておいて~」

「…わかった」


 もう、いいや。キレるのも突っ込むのも面倒くさくなってきた。

 僕はちとせの言われた通りにプリンの残飯を平らげて、水道でカップとスプーンを洗って片づけた。


 再びソファーに戻ると、ちとせは、寝っ転がりながらスマホをポチポチと操作していた。何もしゃべらないでそうやって無言にしていれば、可愛く思えるのになぁ…

 そんなことを思ってしまう。


 僕がそんな生意気なちとせの姿を眺めていると、ふとちとせが目線をこちらに移してきた。『どうしたの?』と言ったような表情を向けてきたので、僕は首を横に振って何でもないと意思表示をした。すると、ちとせは、再びスマホに目線を戻してしばらく操作して、集中力が切れたようにスマホを布団の横に置いてある充電プラグに差し込んだ後、毛布を被って寝る体制に入ってしまった。


 まあ、まだ体調が万全ではないのであろう。一応昨日まで病人だった身だし、今回は許してやろう。


 ちとせが眠るまでしばらくの間、見つめていたが、ここにきて、僕も一気に睡魔が襲ってきた。頭がグワングワンと揺れる中、足を楽な体制に戻して、そのまま意識が段々と薄れていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る